〇〇を探せ!なのじゃ!
第131話 1/2
以前はその訓練のキツさから頻繁に逃げ出していた夏樹だったが、3つ首竜の襲来によって心持ちが変わったようだった。妹ばかり危険な目に合わせてしまっていることに不甲斐無さを感じ、少しでも自分を鍛えようとしていた。
家からの5kmの道のりを学校に向けて走る。通常の運動部が無い白水中学では、早朝の通学路にいる学生はほとんど見当たらず、河川敷ルートは思いの外快適だった。
……。
走り続けて学校まであと数百メートルという所で、草むらから小さな影が飛び出した。
「うわっ!? なんだ!?」
夏樹の足元に駆け寄って来た影は白猫だった。猫はゴロゴロと鳴くと、夏樹の足に擦り寄った。
「俺について来ても何もないぞ〜」
夏樹は白猫に言い聞かせるように言うと、足早にその場を立ち去ろうとした。
が。
どこまで行っても猫は後をついて来る。
困り果てた夏樹は、とりあえず猫を情報部の部室に連れて行くことにした。
◇◇◇
「はぁ……どうすっかなぁこの猫」
白猫は部室の端で丸くなっている。誰かに相談したいが、まだ部員は誰も登校して来ていない。
夏樹は思う。元々自分は動物に好かれるような性格では無い。なのにこんなについて来るということは、この白猫には何か目的があるのだろうか? と。
「でもなぁ。猫の言葉なんてわからねぇし」
「猫と話したいのデスか?」
声のした方を見ると、レイラが窓から部室を覗いていた。この前もこうやって覗いていて死ぬほど驚いた。だってここは2階だから。窓から覗くなんて普通はあり得ない。しかし、レイラは重力魔法を応用して自分の体を浮かせることができるらしい。外輪が何だか昔の漫画みたいだって言ってたな。なんだったか忘れてしまった。
「レイラさんどうしたんだよ? 今日ばば様の警備のはずだろ?」
「
「見送りって……学校まで着いて来てるじゃん」
「新婚デスから♡」
「外輪だったらツッコんでるだろうなぁ」
「それより、猫と話せるようにしてあげマショウか?」
「え? そんなことできたっけ?」
「翻訳魔法を応用すれば造作も無いデス」
レイラが白猫に手をかざすと、猫の頭上に金色の文字が浮かび上がる。そして、彼女が数度文字を入れ替えると「よし」と言いながら金色の文字を消した。
「これで話せるようになりマシタ。それじゃあ夏樹、姫によろしく」
「俺は呼び捨てかよぉ!?」
「私の上司は姫デスから!」
そう言うと、レイラは壁を蹴って真っ直ぐ夏樹の家の方角へ飛んで行った。
いや、本当にどうやって飛んでるんだよ……。
◇◇◇
「猫〜起きろって、おい」
「んにゃあ? 何かにゃ? せっかく気持ち良く寝てたのに〜」
丸くなっていた白猫が顔を擦りながら起き上がる。その猫は、夏樹の顔を見ると驚いたように飛び跳ねた。
「にゃにゃ!? 何で人間の言葉わかるのかにゃ!?」
「はは……まぁいいじゃん。ところで、お前はどうして俺について来たんだ?」
「お前じゃないのにゃ!」
「は?」
「ココはココだにゃ! レディーに対してお前呼ばわりなんて失礼しちゃうにゃん!」
「あ、ココって名前なのか。悪りぃ」
「アンタの名前は?」
「夏樹」
「夏樹からうっすらあの猫の匂いがしたんだにゃ! 夏樹の後をついて行けばあの猫に会えると思ったのにゃ!」
「あの猫?」
「黒くて刀を背負った凛々しいお方にゃん!」
「もしかして、猫田先生のこと探してんのか? 黒猫で刀背負ってるなんて先生しかいないだろ」
「にゃにゃ!? その猫に間違い無いにゃん! 詳しくその猫について教えてほしいにゃん〜」
夏樹はココに猫田の話をした。現れた経緯からイアク・ザードと戦った時の話を。白猫は夢見る少女のような表情で夏樹の話を聞いていた。ココはもっと猫田の話を聞きたがったが、チャイムの音が聞こえると夏樹は慌てて立ち上がった。
「あ、ごめん! そろそろ教室に行かないといけないんだ。夕方にまた来てくれたら先生の所に連れてってあげるよ」
「分かったにゃん。また来るにゃん」
白猫は、そういうと、窓から外へと出て行った。
◇◇◇
犬山修二は授業を終えて、部室で新聞発行の作業をしていた。他に部員はおらず、代わりに料理部の方内洋子がイスに座って作業の様子を見ていた。
「犬山君。早く終わらせなさいよ」
「部活引退して暇だからって俺らの部室に入り浸るなよ」
「いいじゃない。減るものじゃないし」
「そんなに俺に付きまとってたら変なウワサ立つだろ」
「ふふ。犬山君は私と付き合ってることをみんなに隠したいの? 恥ずかしがり屋ね」
「付き合ってない。アンタが勝手に言ってるだけだ」
「夏休み中同じホテルの部屋で過ごしたでしょ?」
「アンタが金をケチって同じ部屋にしたんだろ」
押し問答のような会話が繰り返される。このまま延々と平行線の会話が続くと思われたが、方内洋子が意味深な笑みを浮かべて発した一言が、2人の雰囲気を変えた。
「それに……ねぇ?」
「アンタからして来たんだろ、その、キ、キ……」
「そうよ? でもその
「
「いいじゃない。犬山君だって青春を謳歌できるでしょ?」
「詐欺紛いのことを手伝わせるつもりだろ!」
「そんなこと言うなんてひどいわ……私は……私は……」
方内洋子が両手で顔を隠した。その声は、震えているようだった。
「そんな泣き真似しても無駄だからな」
「う……うっ……」
「先輩? おい……」
「……」
「わ、悪かったよ……」
「じゃあ私と付き合ってると言ってくれる……?」
「え? う〜ん」
「うぅ……」
「わ、分かったよ……誰にも言わないなら、そ、そういうことにするから」
「……ちゃんと言葉にして欲しい」
「つ、付き合うよ」
「はい。取ったわ。言質」
方内洋子はケロッとした様子で顔を上げた。
「じゃ、彼氏の犬山君には来週のバイトも手伝って貰うわね」
「やっぱり嘘泣きじゃないかっ!!」
「あら。私は一切無理強いしていないわ。犬山君が、自分の意思で、付き合うと言ったのよ?」
「ぐぐぐ……っ!?」
その時、窓からカリカリという音が聞こえた。2人が窓を見ると、そこには白猫が佇んでいて、部室の窓を開けるように爪で引っ掻いていた。
犬山は、疑問に思いながらも窓を開けた。
「あれぇ? 朝と違う人がいるにゃん」
「あら、喋る猫。猫田の知り合い?」
「ココは十兵衛様に会いに来たんだにゃん!」
「そうなのね。今猫田は武士研メンバーとトレーニングしてるはずよ。さっき校庭から走って出て行く所見たもの」
「えぇ!? じゃあすぐ追いかけた方がいいのかにゃぁ……」
「その内学校に戻って来るだろ。下手に追いかけると行き違いになる恐れがある」
「そうかにゃ。じゃあこの部室で待ってるにゃ。夏樹とも約束したし」
「夏樹が来るのか。俺はこの作業が終わったら行くが、部室の鍵は開けてくから」
「ありがとにゃん!」
ココは2人の様子を見守った。カップルだろうか? 私も十兵衛様とこの2人みたいに……そう思うココであったが、なぜか目の前の2人は言い争いをしていた。男の方ばかり怒っていたが。
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