第132話 2/2
「ん? 鍵が空いてるぞ。お兄様がいるのか?」
犬山達が帰ってしばらくした後、ウラ秋菜が部室へと入って来た。
「誰もいないな……」
ウラ秋菜は部室内を見回した。誰もいないのに鍵が空いているということは、もうすぐ誰かが来るということだ。彼女は情報部員達の暗黙のルールを良く理解していた。
「部員かにゃ?」
「うぉ!? ど、どこから声が!?」
ココは会議用テーブルの下から顔を覗かせた。
「こっちだにゃ」
「白猫?」
「ココだにゃ! 十兵衛様に会いに来たのにゃ!」
「猫田に? アイツ以外にモテるんだな」
「あと夏樹とも約束してるのにゃ! 授業終わったら十兵衛様の所に連れてってくれるって」
「お兄様が……? ということは待っていればお兄様が来るはず」
ウラ秋菜はイスに座るとカバンの中身を広げ出す。そして、ペンを手に取ると宿題を始めた。
「ん? アンタ……十兵衛様の匂いが強いにゃ。十兵衛様の飼い主かにゃ?」
「いや、違うよ」
ウラ秋菜が宿題をしながら答える。ココは何だか不思議に思った。飼い主じゃないのになんで匂いが? それに今日出会った人間達はココを見てもあまり触ろうとしない。なんだか猫との距離感を分かっているような、そんな気がした。
「何で十兵衛様の匂いがするのにゃ?」
「ん〜何でだろうなぁ」
「何でって……」
ココがウラ秋菜に問いただそうとした時、部室の扉が開いた。
「お、秋菜も来てたのか」
「お兄様。今日の訓練は……」
「もうやったよ」
夏休み前に何十回と繰り返したやり取りが潰されたことで、ウラ秋菜は面食らったような顔をした。
「さ、最近やる気あるな……」
「まぁ〜アレだって。なんか俺にできることないかなぁって思ってさ。とりあえずいつもの訓練をちゃんとやろうって決めたんだ〜」
「……前のお兄様からは全然想像できないな」
「そりゃあ秋菜ばっか危ない目に合わすのはな。ダメだろ」
夏樹が真剣な面持ちで答える。それを見てウラ秋菜は顔を赤くした。
「
「は?」
夏樹は秋菜の言っている意味を全く理解していないという顔をする。
ココはそんな2人の様子を見て首を傾げた。
「あれぇ? 何で兄妹なのに顔赤いのかにゃん?」
「ほっとけ!」
そんなやり取りをしていると、ドアの影から黒猫が顔を覗かせた。
「秋菜殿ここにいらっしゃったか。明日からの見回り地域の件で相談が……」
「お、猫田先生ちょうど良かった。先生に可愛いお客さんが来てるぜ〜」
「客? 誰でござるか?」
黒猫が部屋の中を覗き込むと、ココが飛び出して猫田に体を擦り付けた。
「十兵衛様〜! ココですにゃん♡」
「ココ!? なぜこんな所に……」
「ココを助けてくれた時の十兵衛様、カッコよかったにゃん♡」
「ちょ、やめて欲しいでござる!」
「え〜恥ずかしがらなくて良いにゃん♡」
「せ、拙者にそんな趣味はござらん!」
「またまた〜照れて可愛いにゃん♡」
「は、離れるでござる!」
猫田はココから逃げるようにテーブルの下に逃げ込んだ。しかし、ココに先回りされる。それからテーブルや棚、様々な場所へと逃げ回るが、どれだけ逃げてもココは追いかけて来る。
「あ、秋菜殿〜!?」
ココのあまりのしつこさに猫田はたまらずウラ秋菜の膝に飛び乗った。
「お、おい? 仲良くしろよお前ら……」
ウラ秋菜は困惑した顔で2匹の猫を見つめる。
「いやでござる! 猫に擦り寄られるより秋菜殿に撫でられる方が嬉しいでござる!」
「は、はは……」
苦笑いするウラ秋菜をよそに、猫田はゴロゴロと喉を鳴らして丸くなった。
「猫田先生、なぜか秋菜の前だと猫化するよな〜」
「キィ〜!? そこの秋菜とかいうヤツ! 飼い主でもないくせに十兵衛様に馴れ馴れしいにゃ! 覚えてるのにゃ!」
ココは悔しそうに言うと、窓から出て行った。
「な、何だったんだ?」
「行ったでござるか? 戻って来たら敵わん。今日は失礼するでござる〜」
◇◇◇
頼まれ事を終えた外輪準は、帰る前に部室を覗こうと思い、廊下を歩いていた。
「あれ? 夏樹とウラ秋菜じゃん。もう誰もいないのか?」
「小宮と比良坂さんは今日取材だしな〜。もう誰も来ないと思って鍵閉めちまったよ」
「そっか。じゃあ俺も今日は帰るかな」
「カノガミさんは?」
--ここにおるのじゃ。
「可視化してないけどちゃんといるぞ」
「私から見ると可視化しているのかいないのか分からんな」
「ま、まぁ……元々ウラ秋菜は見えてたしな……」
--!?
突然。カノガミが辺りをキョロキョロと見回し始めた。
「どうしたんだよ?」
--気をつけるのじゃ!? この気配……アヤツがおる!
「え? マジ!?」
外輪も慌てて辺りを見回す。
「どうしたんだよ?」
「霊でもいるのか?」
芦屋兄妹はキョトンとした様子で外輪を見ていた。
--あ! やっぱりこんな所におったのじゃ!
ちょっと。やめてよ。
「まーた俺らのこと覗き見してたのかジノちゃん?」
別に外輪達は見てないよ。
「おい。外輪準。どこに向かって話をしているんだ?」
「文芸部部長のジノちゃんがいるんだよ。姿を消しては俺たちのこと覗き見してるんだ」
言い方。人聞き悪いな。
「よく耳をすませば夏樹達にも聞こえるはずだぜ」
「「え……聞こえる?」」
芦屋兄妹は顔を見合わせた。
「ほ、本当だ……」
「顔を見合わせたって……」
--ジノ。何か見ておったのじゃろ? 白状するのじゃ。
別に。芦屋夏樹や情報部の部室見てただけ。
「え!? 俺!?」
「なんだと……?」
「ちょ……っ!? ウラ秋菜!? そんな恐い顔するなって!」
芦屋夏樹の身体……鍛えられていて中々良かった。
「ききききき貴様ああああぁぁぁ!?」
「うわ!? やめろよ秋菜!?」
暴れるウラ秋菜を夏樹と外輪がなんとか抑え込んだ。
「本当やめろよな。覗き見すんの」
これは私の自己表現に必要な事なの。やらなきゃ私死んじゃう。
「「「へ、変態だ……」」」
--他に何か見たものはあるかの?
後はね。犬山修二と方内洋子を見たよ。
「犬山も部室に来てたのか〜」
「それで鍵が空いていたんだな」
方内洋子が泣き出して、それを見た犬山修二が彼女に付き合おうと言ってた。
「「「ええぇ!?」」」
--う、嘘じゃろ……? あの洋子と……?
「しかもあの先輩が泣くなんて……何があったんだよ……」
夏休みの間、ホテルの同じ部屋でずっと一緒だったらしい。既成事実があるのに犬山修二は頑なに認めなかった。そうしたら彼女が泣き出した。
「「「え"ぇええええええぇぇぇ!?」」」
--な、なんじゃ既成事実って……。
「え、あの犬山が……泣かせるほどの?」
「ホテルでずっと一緒なんで羨ましいぜ〜」
「いかがわしいことしか頭に浮かばん……」
……。
事実しか言ってないもん。
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