第132.5話
「ん? 外輪準。文芸部の前で何をしている。何か用なのか?」
「う、ウラ秋菜!? いや、ちょっと確かめたいことがあって……」
「カノガミはどうした?」
「今部室で小宮達と話してるよ」
「なんだか珍しいな1人だと」
「か、カノガミにあんまり聞かれたくなくてさ」
「ふぅん……」
「も、もういいだろ? ほっといてくれ」
「いや、怪しい。私も付き合おう」
「えぇ!?」
「なんだ一緒にいてはいけないのか? ますます怪しく思えるぞ」
「わ、分かったって……ジノちゃん。いるんだろ?」
外輪が声をかけると文芸部の部室が開いた。中を覗いてみたが、誰もいない。
誰もいない部室へ入ると、2人の頭にはどこかから地の文が響いた。
「一気にうるさくなったな」
「さっきまでが随分静かだった気がするぜ」
私に何か用?
「いや、さ……ジノちゃんって人の気持ちを代弁することがあるじゃん。人が考えてること分かるのか?」
そんなこと聞きに来たの?
外輪はなんだかいつもと違う様子でモジモジと言いにくそうに言葉を綴った。
「いや、俺の気持ちを勝手に語ったりするだろ? 本当に分かってるのかなぁって気になってさ、い、いや……どこまで読まれてるのか知りたいっていうか……」
「なぜそんな風にモジモジしているんだ?」
「う、ウラ秋菜には分かんないって!」
「ふぅん……そういうものか」
知りたい?
「え?」
本当に知りたい?
「し、知りたいに決まってるじゃん」
あのねぇ。私が、人の心や考えをもし分かると答えたらどうなると思う?
「え、どういうことだよ?」
私の語ったことが真実と確定するの。私がどれほど無茶苦茶なことを言っても、それが真実。そこに外輪が否定する余地が無くなる。
「言ってる意味がイマイチ分からねぇ……」
そう。なら試しに語ってあげる。
外輪は……隣にいるウラ秋菜の事を想うだけで胸が高鳴ってしまう。
「は?」
実はひた隠しにしていたのだが、初めて会ったあの時……みーちゃんから助けて貰った時から、俺はずっとウラ秋菜のことが……。
「な、何言ってんだよ!?」
あの鋭い瞳の奥に隠された優しい彼女。それを知っているからこそ、俺はこの想いを告げることができない。告げてしまうと、彼女の役割の邪魔をしてしまうから。
「そ、そうだったのか……?」
「ちょ!? 違うから!」
たとえ、俺のことなんて眼中になくてもいい。遠くからお前のことを見ていられるだけで、俺は幸せなんだ。
「そんな……それは悲しすぎるだろ……」
ウラ秋菜は顔を歪ませる。自分は今までお兄様一筋に生きて来た。しかし、本当は……私のことを思う人もいたのかと。
「いやいやいや! 違うから! 真に受けないで!」
しかし、外輪は悩む。やっぱり彼女の隣にいるのは俺でありたいんだ。だから……だから……ウラ秋菜。俺はお前のことが……。
「すまん。お前の気持ちは嬉しいが、私にはお兄様という人が、いるんだ。だからなんというか、これからも……良い友達でいてくれ」
そう言うと、ウラ秋菜は少し寂しげな表情を浮かべて文芸部を後にした。
どう? 私がみんなの心が読めると宣言した時点で、今の外輪のモノローグは真実になっちゃう。だから踏み込まない方がいい。これ以上は。
「……」
外輪?
「なんでだろ? 俺、勝手に告白させられて勝手に振られた感じなんだけど……涙が止まんねぇよ……」
外輪はさめざめと涙を流した。そして誓った。もう2度と、こんなことを確かめるのはやめようと。
……。
やりすぎたかな?
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