第48話 2/4
そして18時……。
カノガミは気合いを入れて可視化していた。しかし、なぜか気合いとは裏腹に髪を後ろに束ね、パーカーにスウェットというラフな格好だった。
「なんで部屋着みたいな格好なんだよ?」
「じゃって、こっちの方が動きやすいじゃろ?」
会場の寺に到着すると、既に外にテーブルと食材が用意されていて、先に到着した方内先輩が料理用具の整理をしていた。
「へぇ〜。外輪君にこんな綺麗な親戚の方がいるなんて意外ね」
「違うぞ! ウチはジュンのフィア……むぐっ!?」
「あ、あーー!? カノ子姉ちゃんはこっちで野菜を洗ってよ!!」
カノガミの口を塞いで手洗い場まで引きずった。
「なんじゃ!? なんで急に口を塞ぐんじゃ!」
「だって……大人の女性と未成年の俺が一緒に住んでるなんて学校に知れたら大事になるぞ! 最悪捕まるぞお前!」
「え〜!? ウチ、心は14歳なのにぃ♡」
「ぶりっ子してもダメ。方内先輩には親戚のカノ子姉ちゃんを手伝いに呼んだことにしてるから、それっぽくしてくれよ」
「しゃあないのう……」
カノガミは不貞腐れた表情でパーカーのポケットに両手を突っ込んだ。
その姿はなんだか様になっていた。なんというか……こう……俺に刺さる感じだった。
「イィ……」
「ん? どうしたのじゃジュン?」
「な、なんでもない!」
「打ち合わせは終わった外輪君? 対戦相手のお出ましよ」
寺の奥から坊主頭にコックコートを着た大男が向かって来る。
この人身長どれだけあるんだ!? 2mは軽く超えてるだろ!?
「君が方内さんのご息女か。方内さんは私に手も足も出なかったが、君なら私、
「……料理の腕前が小学生以下のお父さんに勝ったからといって調子に乗らないでちょうだい」
「えぇ!? なんで方内先輩のお父さん料理勝負受けたのぉ!?」
「ふむ。今回のお題はそちらが決めると聞いたが? 一体何勝負をしたいのかね?」
そうだ。料理勝負で重要なのは料理の選択だ! 相手はコックコートを着てるぐらいだし、洋食が得意なのか? それとも、寺のお抱え料理人というぐらいだから和食が得意なのか? どうするんだ方内先輩!?
「知れたこと。今回の勝負のお題は……」
「きっとどんな料理になっても、ジュンが持ってるマンガのように奇想天外な調理法で相手を蹴散らしてくれるハズじゃ!」
「あぁ! なんと言っても先輩は料理部の副部長! 料理の腕前はピカイチのハズさ!」
「今回のお題は卵かけご飯よ!!」
「は?」
「料理ですらないじゃろ……」
「私、料理できないし!」
方内先輩は得意気に胸を張った。
「えぇ!? だって料理部の副部長……」
「あれは肩書きだけ欲しかったから料理谷君に頼み込んだのよ! 即決で副部長にしてくれたわ!」
料理谷先輩……方内先輩のこと好きだからなぁ。完全に公私混同してるよ……。
「君……分かっているのかね? 卵かけご飯といえば素材×素材×素材という料理。素材の質が物を言う。中学生の君ではまず大人の財力を持つ私に勝てる見込みはないぞ?」
「できらぁ!!」
方内先輩が叫ぶ。
「……今なんと言った?」
「お前より安い素材でうまい卵かけご飯を作れるって言ったのよ!!」
「はっはっは。これは面白いことを言うお嬢さんだ。では見せて貰おうか!? その卵かけご飯とらやらを!!」
板場さんが先輩に指を指す。
「え!? お前より安い素材でうまい卵かけご飯を!?」
先輩は初めて聞いたかのようなリアクションだった。
「コヤツもう頭おかしくなってるじゃろ……」
「ところで、卵かけご飯なら手伝いの俺達はいらなかったんじゃないですか……?」
「何を言ってるの。外輪君がご飯を炊いて、カノ子さんが卵を用意するのよ?」
「え? 先輩は何をするんですか?」
「私は現場指導よ」
方内先輩が腕を組んでふんぞり返った。
「さ、それじゃ早速調理始めるわよ! 2人とも持ち場に着いて」
「清々しいほどのクズじゃなぁ」
◇◇◇
調理と言ってもご飯を炊くだけなのであっという間に終わってしまった。
ふと板場さんの作業を見ると、既に手元には高級そうな米に、卵、醤油が揃っていた。
「い、板場さんの方はなんだかすごいことになってますよ!」
「大丈夫よ。料理は素材が全てでは無いわ」
いや、素材も腕も負けてるじゃないですか……。
「ほっほっほ。2人ともやっておるようじゃの」
「あ、住職さん」
「約束通り判定人を連れて来たぞ」
こ、この人が判定……人!?
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