第84話 2/2
「コレが……イアク・ザードの卵?」
レイラさんが見つけ出したのはトラックぐらいの大きさの卵だった。
「そ、想像より大きいわね……」
みーちゃんが卵を見上げる。
「よし。処理するぞ。インカムの電源入れ忘れるなよ」
ウラ秋菜はそう言うと走り去っていった。
待つこと十数分。
インカムからウラ秋菜の声が聞こえる。
『この位置からなら全体を見渡せるな。全員聞こえてるか?』
遠くで花火が上がる。その位置を目で追うと、丘の上からウラ秋菜がこちらを見ているのが見えた。
『万一応急処置が必要な場合は言ってくれ。動けなければ私がそちらまで行く』
猫田先生もどこかから小さなインカムを取り出して耳に付けた。
「うむむ……耳から直接音が聞こえるのは気持ち悪いでござる」
『猫田用に改造するの苦労したんだぞ。文句言うな。レイラ、頼む』
「了解デス。全員そこに集まるのデス」
レイラさんが手をかざすと、俺達の足元から球体のバリアが張られていく。
それが頭上まで行き渡ると、球体が萎み出す。そして、体にフィットするように形状を変えていった。
掌を何度か動かしてみると、皮膚の表面がうっすらと光っているように見えた。
「相当強めに防御魔法を構築しマシタ。電撃はこれで防げると思いマス。物理攻撃は防げないから過信しないように」
「お兄ちゃん分かってるわね?」
「ああ。大丈夫」
『リープの成功が最良だが、竜が復活した場合を確認するぞ? 電撃はレイラの防御魔法で対処する。物理は外輪準とガキが防ぐ。猫田とレイラは攻撃に専念してくれ。先輩は状況に応じて動いて欲しい。私がこの位置からフォローする。それと、もう1つ……』
ウラ秋菜の声に緊張感が高まる。
『外輪準は最悪の場合タイムリープして逃げろよ』
リープで逃げるケース……それは、誰かが死んだことを意味する。
「もう、そんな所は見たくないぞ……」
『……そうだな。みんな、全力を尽くそう』
ウラ秋菜の声に、全員が頷いた。
みーちゃんが俺の手を握る。
「大丈夫よ。みんなは私がどんなことをしても守るわ」
◇◇◇
みーちゃんと手を繋いだまま卵へと手を伸ばす。
「基本は私がやるから、お兄ちゃんは私を支えるイメージを持って。2500年前にリープ先を繋げる。コレさえできれば飛ばすのは一瞬よ」
「分かった」
「それじゃあみんな、取り掛かるわね」
みーちゃんが声をかけると、不思議な空間に入り込んだ。
卵と俺とみーちゃんが何重にも重なるトンネルのような空間。
自分がタイムリープする時とは違った力の動き。
「気をつけてね。2500年分の時間が来るわ」
みーちゃんがそう言った直後、前から物凄い力の波が押し寄せて来るのを感じた。
た、立っていられない……。
みーちゃんに目をやると、彼女も立っていられるのがやっとのようだ。
みーちゃんの肩に手を回して支えた。
「に、2500年前と繋げるまで、もう少し支えていてね」
「が、がんばれみーちゃん」
みーちゃんの周囲が輝きを放つ。
みーちゃんは何度も表情を歪ませながら時間を進めていく。
いつもは一瞬でリープしてるけど、大昔だとこんなに苦労するものなんだ……。
……。
しばらくして、残り500年まで到達した。しかし、力が徐々に強くなる。
俺は、その場に留まることだけに意識を集中し、みーちゃんを支えた。
……。
「あ、あと10年……」
みーちゃんが呟いた瞬間。力の波はさらに動きを変えた。
前後左右あらゆる方向から波が押し寄せては引いていく。まるで荒波の中を進んでるみたいだ。
「お、お兄ちゃん……掴まるわね!」
みーちゃんが俺に必死にしがみついてくる。
……。
気の遠くなるような時間、荒波に耐えていると、ついにその時は訪れた。
「も、もう少しよ!! あとちょっと!! あと1年進めば……」
「分かった!!」
やった! コレなら戦わなくても済みそうだ……。
しかし、気が緩んだその時。
声がした。
「「「ここは? そうか……違う世界の……あの女の気配も感じる」」」
「な、なんだこの声!?」
「い、イアク・ザード!? この空間に干渉するなんてできないはずよ!?」
「「「力の流れが見える……素晴らしい。時間魔法か? こんな方法があるとは……」」」
急に力の向きが変わる。後ろに引きずり込まれるように一方向の動きになった。
「待って待って待って!! こんなの絶対変よ!!」
みーちゃんの血相が変わる。
「どうしたんだよみーちゃん!?」
「勝手にリープ先を繋げられたのよ!! 2499年前に!!」
「え!? それってどうなるんだ!?」
「イアク・ザードがリープに耐えられる脳を持ってるなら恐ろしいことになるわ」
え?
イアク・ザードは2500歳……2499年前に飛んだりしたら……。
「つ、強くてニューゲームかよ……」
「最悪の展開だわ……」
「「「感謝する。我は今まで犯した全ての過ちを正そう。そして、真の伝説となる。そして、お前達のこの力も頂きに来よう」」」
「は!?」
何を言ってるんだ?
「「「2500年後の今日、我はお前達の目の前に現れよう。そして……」」」
「な、何……?」
「「「お前達全員を喰らってやる」」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます