第167話 2/3

 外輪とシュウメイが円の様に配置されたツインディスクのトラックを走る。それを影が追いかける。影が外輪へと襲いかかると、彼は加速して避け続け、影が隙を見せた瞬間シュウメイの光の剣が、影を叩き切る。


 ウラ秋菜の指示でバルディアがツインディスクを閉じてゆく。


 災厄を包んでいた怨霊という影は、徐々にその量を減らしていった。


 災厄が外輪へと意識を向けた瞬間真空波が撃ち込まれる。真空波を時止めしようと向き直ると重力魔法で地面へと叩き付けられる。起き上がった所をバルディアから青白い閃光で狙い撃たれる。無効化装置を引き剥がすとエアリーから次の装置を発射される。


 イアク・ザードやロベリア達と戦ったメンバーは完全に息が合った動きで災厄の意識を分散させる。タイムリープを封じられた災厄は意識の外からの攻撃に対応するのに精一杯となっていた。


 しかし。


「このまま押し切るでござる!」


「もう一撃狙いマス!!」


 猫田とレイラが攻撃へ転じようとした時。



 災厄から波動のようなものが放たれ、その体が動かなくなる。


「体が!? 動かんでござる!?」


「時止めも広範囲で撃てるのデスか!?」


 災厄がレイラ達を無視して外輪へと迫る。


『今外輪を抑えられるとマズイ。クシア、全力で止めるぞ!』


『了解ですわ!』


 バルディアとヒガンが腰からライフルを装備し射撃する。2機の機体から青白い閃光が放たれる。


『災厄の意識を分散させろ。レイラ達の時止めが解除されるハズだ!』


 だが災厄に届く前に放たれた閃光が急激に速度を落とした。


『ウソ!? 実体弾じゃないのに!?』


『仕方ない。近接戦を仕掛けるぞ』


 クシアのバルディアとウラ秋菜のヒガンが両腕から小型チェンソーを展開し、災厄へと迫る。


 そして、左右のチェンソーが災厄を貫いた瞬間。



 災厄が目の前から消えた。



『なんだと!?』

『時間干渉ですの!?』



 次に災厄が現れたのはヒガンの上部だった。


「い、いかん!? 秋菜殿!!」


 災厄が、右腕の無効化装置を引き剥がし、その手をヒガンへと向ける。


「ひ、姫がタイムリープされマス!! 誰か止めて!!」


『秋菜っ!』


『お兄様! 来るな!!』


 ウラ秋菜の静止を無視してシュウメイが駆け出す。


「夏樹……クソっ!?」


 夏樹を追いかけようとした外輪に黒い影が襲いかかる。その膨大な影の量に外輪は他のメンバーから完全に孤立させられてしまう。


 災厄から再び波動が放たれ、シュウメイが動きを封じられる。


『なんだよ!? 動け!!』


 夏樹は完全に冷静さを失いスティックをめちゃくちゃに操作するが、彼の想いとは裏腹にシュウメイはピクリとも動かない。


 クシアが災厄へとチェンソーを振るうが、災厄に当たる直前、時間操作によってチェンソーが朽ち果てる。すぐさま武器を失った腕で災厄を殴り付けるが、やはり災厄に当たる瞬間、右腕も朽ち果ててしまう。


『また時間干渉!?』


 災厄が加速した脚でバルディアを蹴り飛ばす。バルディアが後方へと吹き飛んでいく。


『エアリー! 無効化装置を!』

「ハッシャ! ハッシャ!」


 災厄を狙い撃とうとしたエアリーが再び時止めされる。


「ギッ!?」


 邪魔者を全て排除した災厄がヒガンへと意識を向ける。災厄の手が光を帯びていく。外輪達の誰一人……災厄を止められなくなっていた。


『ダメだ……秋菜……秋菜あああああぁぁぁ!?』



 夏樹の叫びが響いたその時。



 1発の銃弾が放たれた。



 その銃弾が、災厄の目の前で静止する。



 しかし、そのコンマ数秒後に2発の弾が災厄に撃ち込まれる。それぞれ別の角度から。



 災厄がその2発に意識を向けようとすると次弾が放たれる。それを止めようと意識を分散したタイミングでさらに次弾が撃ち込まれる。


 時間差で押し寄せる銃弾がついに災厄へと当たり始める。


 時止めで対処できなくなった災厄は、ヒガンから大きく飛び退いた。それに合わせて、レイラ達の体に自由が戻る。


 そのタイミングを待っていたかのように、声が聞こえた。


『第1部隊機射撃開始』


 スピーカーから女の声が聞こえると、時間差で大量の銃弾が災厄へと押し寄せる。


「あれは……ロベリアの機体でござる!」


 視線の先には10機の2速歩行機械が銃撃を開始していた。その後方には紫色で装飾された機体が1機。


 その頭部に備えられたゴーグル型のカメラが、青く光輝いた。


◇◇◇


 災厄に迫った銃弾達が空中で静止する。


 やはり他に力を分散させていない状態では、この量でも抑えられるか。



 ……だが。



 それは15だ。



『続けて第2部隊。5秒後に第3部隊は射撃を開始』


 シバ機の命令に合わせて迷彩システムで消えていた二足歩行機械達が現れる。それは、3点で災厄を取り囲むように配置されていた。その各部隊はロベリア機、シバ機、ログサ機が指揮していた。


『オメェら! 司令から聞いた通りだ! 災厄は時間差の攻撃に弱ぇ! 隣接機と射撃タイミングをずらせ!』


 二足歩行機械達がタイミングをズラしながら射撃していく、災厄の時止めで防いだ直後に次弾が撃ち込まれ、徐々に災厄は銃弾を防ぐことができなくなっていく。


『恐れるな兵士達よ! ヤツは今時間干渉を制限されている。老兵は己が無念を晴らして見せよ! 新兵は戦果を上げて見せよ!」


 ロベリアの声に機体達の動きが向上していく。この世界に初めて災厄が現れた時は怯えていた兵士達が、そのような素振りを一切見せず、果敢に攻撃を加えていく。それほどまでに、彼女への信頼は厚かった。


 前線に彼女の機体があるだけで兵士達の心から戦う意志が湧き上がった。ロベリアを守る為戦う。ロベリアがいれば勝つことができる。皆同様に彼女を心の支えとした。


 機体のコックピットから、ロベリアは彼らの姿を見つめていた。


 自分から全てを奪った災厄。初めて会ったその日から、彼女にとっては恋焦がれるほどの復讐の対象であり、恐怖の象徴でもあった。私の全てだった世界はヤツに破壊された。その後の世界は自分には無価値な物だと思った。


 だからこそ、ヤツが消えてなお災厄へと憎悪を向けなければ、前へ進めなかった。


 しかし今、そんな災厄を打ち破ろうと戦っている。



 災厄後に私の後へと続いた者達が。



 ロベリアはポツリと呟いた。



「そうか。私は、奪われただけでは、無かったのだな……」


 それは彼女が新たに築き上げた物。戦争に、災厄に、全てを奪われながら、情勢に翻弄されながらも手にしてきたもの。たとえどんな理由があったとしても、彼女が未来へと向けて足掻いた証。


 利用する駒であったハズの彼らが、利用していたはずが、自分の心を救うことになるとは……。



「また金がかかるな……」



 その呟きは、誰にも聞こえる事は無かった。



 しかし、それは確かに彼女の中にある何かを変えた一言であった。

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