第11話 3/4

「ちょっ! おい!?」


 鍵を奪ったカラスが電柱にとまる。


「鍵に付いていたキーホルダーに反応したのかもな。このまま飛び去ってしまったら流石に諦めた方がいい」


「だ、ダメ!!」


「なぜだ? 鍵は複製できない訳でもないだろ」


「あのキーホルダーはお父さんに買って貰ったものなの」


「また買えばいい」


「それは……」


 比良坂さんは今にも泣きそうな顔だった。なんだか、その表情を見るだけで胸が苦しくなる。


「やめとけ犬山。俺は比良坂さんの気持ちも分かるよ。困り果てて俺達に頼って来たくらいだ。きっとんだと思うよ」


「……そうか。無神経なことを言ってすまない比良坂」


「ううんいいの。でも、どうしよう……」


 カラスがとまったのは電柱の下の方か……。


「俺が登ってみるよ。あのカラス、すぐ動く様子も無いし、取り返せるかもしれない」


「危ないよ! 外輪くん!」


「やめておいた方がいい」


「大丈夫。ここの電柱取手が付いてるし」


  厄介なのは、あそこに1本通ってる電線付近か。万が一触れたら感電どころじゃないよな。


 いや、ビビってたら何も変わらないままだ。鍵探しは犬山に頼りっきりだったし、俺ができるのは体を張ることくらいだ。


 取手に手をかけて登り始める。


 あのカラス、遠くの方ばかり見てる。頼むからこっちに気付くなよ。


 慎重に一歩ずつ登っていく。


 半分ほど登った頃、カノガミに声をかけられた。


--そんなにあの舞という女子に好かれたいのか?


 ちげぇよ。あんな必死な表情をしてたんだ。家族から貰った物の為に。だから、何とかしてあげたいんだよ。誰の頼みかなんて関係無い。


-- ……。


 よし! 後は手を伸ばせば……。気付くなよ〜。


 その時、強い風が吹いた。


 マズイ!? カラスが飛びそうだ!


 咄嗟に手を伸ばしてカラスの足を掴んだ。


 足を掴まれたカラスと目が合う。


 あ、ヤバッ……。


 怒り狂ったカラスがクチバシで攻撃してきた。


「う、うわあああぁぁぁ!?」


 反射的に頭を庇ったせいでバランスを崩す。


 「きゃああ!?」

 「外輪!?」


 お、落ちる!?


 体が電柱から離れる瞬間。


--ジュン!!


 カノガミが光の玉から上半身だけを出して俺の腕を掴んでいた。



 フワフワと浮遊感を感じる。


 す、すご! 俺、浮いてる!


--お、落ちとるだけ、じゃ。う、ウチらの周りだけ時間の流れを遅くしとる……っ!


 そんなこともできるのかよ!? スゲェ!! カノガミさん天才!!


--ふはは! そうじゃろう!! だがダメじゃ!? 負荷がキツすぎるぅぅぅ!?


 カノガミさん!? も、もうちょっとだけ頑張って!?


 カノガミを応援し続け、なんとか地面に着地することができた。


--はぁはぁはぁ……めっちゃ疲れたぞ。


「そ、外輪くん!? 今の何!?」

「浮いていた……自分の目がまだ信じられん」


 比良坂さんと犬山が駆け寄ってきた。


「いや、必死すぎて……ハハハ……それより鍵は!?」


 上を見上げるとカラスはもう居ない。持って行かれたか……。


「大丈夫だ。ここにある」


 犬山が手を開くと、星形のキーホルダーの付いた鍵があった。


「カラスは外輪を襲うのに夢中だったみたいだな。上から落ちて来た」


「良かったぁ」


「外輪くん。ありがとう」


 比良坂さんが笑いかけてくれる。安心したら何だか急に疲れが……。


--ジュン。


 あ……カノガミ。その、ありが……。


--ウチは疲れたから寝るのじゃ。家に帰ったら起こしておくれ。


 あ! おい!?



 ……。



 寝ちまった……のか?



 仕方ない。礼はカノガミが起きた後にするか。

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