第10話 2/4

 俺と犬山は早速比良坂さんのクラスへと向かった。


「ごめんね。探すの手伝って貰っちゃって」


「謝る必要なんてないよ! な? 犬山?」


「あ、ああ」


 うおおおっ! 比良坂さんと初めて話してしまったあああぁぁぁ!?


 比良坂さんの目、大きいなぁ。まるでTVで見るアイドルみたいだ。華奢だし、思わず守ってあげたくなっちゃう!


-- ……。


「それで? どんな物を無くしたんだ?」


 犬山が比良坂さんに質問する。な、なんか冷静だな。とりあえず、犬山の質問が終わるまで黙っておくか。


「家の鍵……」


「家の鍵って、そんな大事な物を一体どうして?」


「昨日の朝、学校に着いたらカバンの中から無くなってたの」


「通学は徒歩?」


「ううんバス」


「最後に鍵を見たのは?」


「家の鍵をかけた時だから、バスに乗るまでは確かにあったよ」


「バス停付近の確認やバス会社へは問い合わせした?」


「したよ。でも見つからなかった」


 なぁカノガミ。昨日の朝にタイムリープして、比良坂さんに落とした直後の鍵を渡すってどうかな? それだったら比良坂さんも鍵無くして困ることもないだろ?


--嫌じゃ。


 なんでだよ。いつもタイムリープしろしろ言うじゃん。


--動悸が不純じゃ。


 不純も何もタイムリープするんだからいいだろ。


--なんか分からんけど、この女の為にジュンがタイムリープするのは嫌じゃ!


 おい!


 ……。


 声がしなくなった?


 カノガミのヤツ。何怒ってんだよ。



「外輪。行くぞ」


 あ、しまった。カノガミとのやり取りのせいで2人の話を聞き逃した。


「すまん。どこへ行くんだ?」


「比良坂の自宅付近だ。気になることがあった」



◇◇◇


 俺と犬山と比良坂さんの3人でバスに乗り、例のバス停までやって来た。


「犬山。気になることってなんだよ?」


「比良坂。さっき話していた中で、当日のバス停にいた人達のことをもう一度教えてくれ」


「ええと、中年のサラリーマンとおばあさん。それに私と同じ白水中学校の子……が並んでたかな?」


「他に付近を歩いていた人の話もしていたな」


「うん。ちょうど、近所に住む親子に会ったの。2歳くらいの子を連れたお母さん」


「その人達が関係があると思う」


「え? でもそのお母さんには今朝聞いたんだよ?」


「いや、直接と言うよりはおそらく……あそこだ」


  犬山がどこかへ向かって歩き出す。俺と比良坂さんは顔を見合わせて後を追った。



 犬山のヤツ……どこに行くつもりなんだろ? なぁカノガミ。


 ……。


 なんだよ無視かよ。



「え? ここって……」


 到着したのはバス停から300メートルほど離れた位置にある保育園だった。


「ここが何の関係があるんだよ?」


「ちょっと待ってくれ……この辺りに……無いか。こっちは……どうだ?」


 犬山が入り口付近の側溝を覗き込んだ。


「外輪もこの辺りの側溝を探してくれないか?」


「あ、あぁいいぜ」


 え? なんで? こんな所にあるのか?


 犬山と2人側溝を探す。


「もしかして……これじゃないか?」


 犬山が側溝から星形のキーホルダーの付いた鍵を拾い上げた。


「探してた鍵!?」


「なんでここにあるって分かったんだ?」


「まず、比良坂も気付いていたが、落としたのはバス停だ。カバンから定期を出そうとして別の物を落とす……ありがちなことだ」


「でも、バス停にはなかったじゃんか」


「ああ。そこで鍵になるのが『2歳の子供』だ。子持ちの先生から聞いたことがあるんだ『小さな子供はなんでも拾うから困るわ』と。今回は通りかかった子供が拾った。親が知っていれば今朝の比良坂の質問時に言うはずだ。しかし、そうじゃないとすれば」


「あ! 比良坂さん! その親子はいつもあのバス停で会うの?」


「うん。お子さんをこの保育園に送る途中に……」


 そういうことか。比良坂さんが落とした鍵を子供が拾い、保育園に預ける時にこの側溝に落としたのか。


「早めに見つかって良かったな。入り口に無ければ保育園の関係者にも協力を頼まなければいけなかった」


「ありがとう! 2人とも……本当に」


 比良坂さんが微笑んでくれる。


 でも、なんだか素直に受け止められない。


 はぁ……俺は何も出来なかったな……全部犬山のおかげだ。俺はこの場に居ただけ……カノガミの力が無いと何もできない。


「きゃあっ!?」


 その時、何かが俺達の間をすり抜けた。


「カラスか」


「危ねぇなぁ……あ!?」



 カラスが比良坂さんの鍵を咥えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る