第12話 4/4

 犬山と別れ、比良坂さんを家まで送り届けた。


「本当にいいの? 良ければ上がってもらって……」


「いいよいいよ。そんな大したことしてないし」


 比良坂さんと親しくなるチャンスだけど、本当に大切な物だったみたいだし、それを利用するのはなんだか気が引けた。


「あら? あらあらあら。アナタ、舞のお友達?」


「あ、お母さん。ただいま」


 比良坂さんのお母さんがドアを開けた。さすが比良坂さんの母親。とんでもない美人だ。それに、なんだかすごく優しそうな人だな。


「鍵を見つけて貰ったの」


「あらあら! ありがとうございます〜。何かお礼をしなきゃ」


「あ、お母さん! 外輪君はもう帰るって言ってるから」


「そう? じゃあちょっとだけ待っていてくれる?」


 そう言うと比良坂さんのお母さんは家の奥へパタパタと走っていった。


「ごめんね。待たせちゃって」


「いや、いいよ。むしろ申し訳ないなぁ」


 ん?


 何か袖が引っ張られてる気がする。


 下を見ると、7歳くらいの女の子が俺の服の袖を引っ張っていた。黒いワンピースを着ていて、ショートボブの可愛らしい感じの子。


 あれ? この子、どこかで見たような……。


!? !?」


 急に比良坂さんが大きな声を出した。


「え?」


「あ、いや、その、ごめんなさい……」


 いつの間にか、女の子が比良坂さんの後ろに隠れている。


 あ、なんだ。比良坂さんの妹だったのか。


「そんなに謝らないでよ。比良坂さんって妹がいるんだね」


「え? う……うん。そうなの」


 みーちゃんか。可愛い子だな。比良坂さんに似て大人しい子なのかな?


「ごめんなさいね〜。コレ貰い物なんだけど、良かったらご家族に」


 もう少し比良坂姉妹の話を聞こうと思ったが、ちょうどお母さんが戻ってきてお土産の袋を渡してくれた。


 渡されたのは大量の野菜だった。じゃがいも、にんじん、玉ねぎが何キロあるんだこれ? 持って帰れるのか……。


「なぜか良く頂くのよ〜。ちょっと多すぎたかしら」


「い、いえ。ありがとうございます」


 お礼を言って帰ろうとした時。


「またね。お兄ちゃん」


 比良坂さんの妹のみーちゃんに話しかけられた。


 振り返るとやはり比良坂さんの後ろに隠れてこちらをじっと見ている。


 一瞬、小さい子に何と返していいか迷ってしまい、返事代わりに手を振った。


 比良坂家のみんなは俺が角を曲がるまで見送ってくれた。




◇◇◇


 え〜と次のバスは……少し待つな。


 大量の野菜を持ちながらもなんとかバス停まで辿り着くことができた。


 それにしてもこのお土産どうしよう。俺としては嬉しいけど、ほとんど犬山の手柄だしな〜。ま、明日犬山と相談するか。これだけある訳だし、今日の分ぐらい使っちゃってもいいだろ。多分。


「外輪準だな」


 声をかけられた方を見ると白水中の制服を来た男子生徒が立っていた。


 こんな人いたっけ? もしかしたら学年が違うのかも。


「え? あ、そうです。何か用ですか?」


「先程の一部始終見ていたよ。君、、だろ? 空を飛んでいた」


 う、流石に今日のはまずかった、か……。カノガミの存在が広まると厄介だな。


「違います」


「そう否定するな。は特別な存在。一般人とは生きている世界が違うのさ」


 男子生徒はウェーブした髪を指でくるくる回しながら続ける。


「だからさ。君、僕と組まないかい? 君と僕の力があれば白水中、いや、近隣全ての中学を意のままにできる」


「……あなたが何を言っているのか俺には分かりません」


「ほう。僕とは相容れぬ思考の持ち主……か。まぁいい。今日は顔見せだ。また近いうちに会おう外輪君」


 それだけ言うと男子生徒は去っていった。


 おいおい。なんだかまずいことになったぞ。



◇◇◇


「カレーじゃああああぁぁぁ!!」


 カノガミがすごい勢いでカレーを平らげる。


「カレー作るしかないっていうほど大量の野菜を貰ったからな」


「舞は気に食わんが、比良坂母は有能じゃの♡」


「ところで……なんで白シャツ着てるんだ?」


「モグモグ。ん? シャツにカレーを飛ばすまでが、モグ、カレーを食う時の作法だと聞いたが?」


「誰がそんなこと言ったんだよ?」


「数学の山下先生じゃ」


「あの人は極度の食いしん坊だから謎のこだわりがあるの! 間に受けちゃダメ」


「ふぅんそんなもんかの。……ウチからも一ついいか?」


 カノガミはカレーを食べる手を止め、急に真面目な顔になった。


「今日、ウチが寝た後に誰か変わったヤツに出会わなかったか?」


「え、なんで分かるんだよ」


「ジュンにの名残を感じるぞ。相当強い力の持ち主だったのじゃろうな」


「そんなにすごい奴なのか?」


「ああ。カミであるウチに匹敵するかもしれん。もしやり合うなら相当な覚悟が必要じゃ」


「分かった。肝に銘じとく」


 あの男……。そんな力を持ったヤツだとすると、極力ぶつかりたくないな。でもなぁ。同じ中学だとすると、隠れながら生活することはできないし……これからどうしよう?


「ジュンに死なれると困るんじゃ」


「……でも、カノガミは俺が死んでも消えないだろ?」


「何言っとるんじゃ? ジュンが死んだら寂しいじゃろ?」


 カノガミはあっけらかんとした様子で言った。


 コイツ……今日も必死に助けてくれたよな。しばらく一緒にすごして、暮らして、だからこそ分かる。カノガミは本当にいい奴だ。


「あの、さ。今日はありがとな。助けてくれて」


「あ、ああ。ウチも必死じゃったし……」


「……」


「……」


 沈黙が妙に恥ずかしい。思えばカノガミにちゃんと礼言うことなんて無かったもんな。


「は、はは……あの時タイムリープすれば良かったのに必死すぎて忘れてたわ、俺」


 なんとか空気を変えようと冗談を言ってみる。



「し」


「し?」



「しまったああああああぁぁぁ!? 寿命奪い損ねたああああぁぁぁ!!」



 やっぱりコイツはバカなだけなのかもしれない。

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