第111話 3/4

「そう言えば……お、お母様に聞きたいことがあるんだけど」


「ん? なーにみーちゃん?」


「……その前に、私を膝の上に乗せるのはやめてくれないかしら?」


「いいジャーン♡ 娘なんだからいっぱい私に甘えていいんだよ?」


「遠慮しておくわ……」


「ぷっ! 面白い絵面じゃのぉ〜」


「カノガミ?」


「どどどどうしたのじゃ? は、母上」


「準から聞いてるよ? いつもいつもそんな態度をとって〜。もっとカミらしく振る舞わないと!」


「う……す、すまんのじゃ」


「お前がそれ言うのかよ……」


 目の前の光景は、同級生が妹を膝に乗せて大人のお姉さんを注意しているという謎のシチュエーションに見える。



 ……。



 俺は何を見せられてんだ?



「それで、みーちゃんは何を聞きたいの?」


「あの、ね。先日、レイラと蝶野君が『カミのなり損ない』に遭遇したの。お母様はなぜ彼らが生まれるのか知ってる?」


「ん〜人の思念が集まるとねぇ〜生まれることもあるよ。相当長い時間が必要だけどね。それこそ、その土地が忌み地と伝わるほどの時間がね」


「今後も遭遇してしまう……なんてこと考えられる?」


「忌み地に行かなければ大丈夫。2人が遭遇したのはかなり珍しいケースだと思うよ」


「会うことの方が珍しいのね。それなら良かったわ」


 みーちゃんは胸を撫で下ろした。


「ちなみにちゃんと2人をリープさせた? 意思の無いカミは執念深いよ?」


「ええ。蝶野君をその「なり損ない」と出会う前までリープさせたはず。リープしてきた蝶野君から教えて貰ったから」


「偉いねぇ〜。さすが我が娘♡」


「ちょ、ちょっと! 頬擦りしないで!」


 先輩達、そんなことになってたのか。元々いた俺達の世界でも、そんな危険あるんだな。ニュースとかでたまに行方不明の話とか聞くけど、そういうヤツらのせいだったりするのかな。


「ジュン。そんなに心配そうな顔をするでない。自分達からそのような地に行かなければ大丈夫だと言っていたじゃろう?」


「そ、そうだな。いや、俺達の世界にさ、そういうのがいるなんて思わなかったから」


「何言ってんの? 白水のまで行って私達の封印解いたくせに〜♡」


「あ、そうか……」


「カノガミ♡」


「なんじゃ?」


「おんぶしなさい♡」


「え、なんでウチが」


「アンタが1番背、高いんだからいいでしょ♡」


 彼ノがみはカノガミの背中に飛び乗った。


「ほうほう。中々にいい乗り心地だねぇ♡」


「ジュンなら喜んでおんぶしたのにぃ〜」


「文句言うな!」


「ひはははは!! くすぐるのやめるのじゃあああ!!」


 カノガミが崩れ落ちてもくすぐりは続いていた。なぜか、それとなくみーちゃんまでくすぐりに参加してる。昼間のバーチ○ロンのこと根に持ってるな、アレは……。


「あ」


 くすぐっていた彼ノがみが急に手を止めた。


「そういえば、私って準の友達にはみんな会ってる? ここ8月に来る前に、知らない子達と部室で会ったんだけど」


「どんなヤツ?」


「なんだか偉そうな女の子と〜その子に連れ回されてる男の子」


 偉そう? 連れ回されてる?


「ああ。それはきっと方内先輩と犬山だよ。そんな感じの2人だし」


「おや? そういえば夏休みに入ってから犬山と洋子は見ておらんの」


「あの2人……まだ旅行から帰ってないのかよ」


 俺達は大変だったってのに。犬山のヤツ何してんだよ。学校始まったら聞いてやろ。


「きっと洋子のことじゃから碌でも無いことしとるのじゃろうなぁ〜」


「その時の部室でね、2人に聞いたんだよ。『夏休みにいなかったでしょ?』って。そしたら〜なんかに行ってたみたい」


「と、東京!? クソおおおお……そんな良いところに行ってるのかよ犬山のヤツぅぅぅ」


「東京って珍しい食べ物いっぱいあるのかの?」


「そりゃ全国から集まるだろ」


「なんじゃと!? ウチも行ってみたいの〜。みーちゃんもそう思わんか?」


「私は白水でいいわ。ここが好きだし。都会なんて人が溢れて目が周りそうだもの」


「なんじゃあつまらん妹じゃの〜」


「妹って呼ばないで!」


「んん〜? なんでみーちゃんが妹なの?」


「え、じゃって母上……どっちが姉か分からんし……」


封印から抜け出したのはみーちゃんなんでしょ?」


「う……じゃ、じゃけど……」


「力をはどっちなの?」


「……ウチじゃ」


「じゃあ〜の方だよね♡」



「……」



 カノガミは、何も言わずテレビの前にしゃがみ込んだ。それを見たみーちゃんがゆっくりとカノガミに近づいていく。



「そんなにしょげないの。私はどちらが姉で、どちらが妹とか気にしないから」


 みーちゃん優しいな。昼間あんな煽って来たカノガミにそんなこと言うなんて。


「み、みーちゃん……」


「ね? だから今まで通り仲の良いとしてやっていきましょ?」


 優しい声で……そう。まるで小さな子供に言い聞かせるように……ん?


 カノガミが、涙目のままみーちゃんを見上げた。



「!? なぜ勝ち誇った顔しとるのじゃ!」



「ええ? そんな顔してないわ?」



「うううウチが姉なんじゃ!!」



「そうね。そういうことにしておいてあげるわ」


「慈愛を込めた顔でウチを見るのはやめておくれ!!!」


「ふふ。どっちが姉かを気にするなんて、カノガミ、中身はお子ちゃまだねぇ♡」


「ジュ、ジュン〜」


 涙目のカノガミが、助けを求めるように俺を見た。



 ……。



 カノガミのヤツ、この前の映画撮影辺りからなんとなーく残念なことが降りかかってるな……。



 ……。



 俺はもうちょっと優しくしてやろ……。

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