第8話 2/2

 気付くとクラスのみんなが掃除の為に机を片付けていた。


 無事、2時間前にリープできたみたいだ。


「夏樹! 今から体育倉庫行くから着いて来い!!」


「は? どうしたんだよ外輪!?」


「デジカメ持って来いよ!」


 全力疾走で体育倉庫へ向かう。


「ま、マジかよ! モギオ君が出るって?」


夏樹にモギオ君のことを説明したところ、すぐに信じてくれた。



◇◇◇


 いた! 吉田さんが体育倉庫へ入ろうとしてる。勝手に扉が閉まっていくのに気付いていない。


 俺と夏樹は閉まる扉に滑り込んだ。


「きゃ!? なんですかあなた達?」


「吉田さんは俺達の後ろに下がって!」


--おったぞ! アイツじゃ! モギオ君じゃ!


 カノガミの指した方向にボンヤリした影が現れる。


 影がボール入れのカゴを蹴り飛ばす。カゴが倒れ、ボールが散らばった。



「きゃあああああ!?」

「そ、外輪! 何もないのに突然カゴが!?」


 吉田さんと夏樹が叫ぶ。2人には見えていないのか?


--ウチと繋がっとるジュンにしか見えんようじゃの。


 ここに来てふと思う。


 モギオ君物理干渉できるのか……危ねぇ〜。


 とりあえず夏樹と2人で乗り込んでみたものの、俺達に一体何ができると言うのか。怪我させられるだけなのでは?


--そんなに絶望するでない。とりあえずウチがアイツと話してみよう。悩みを聞けば消えてくれるかもしれん。



 カノガミが黒い影に駆け寄っていく。


 カノガミがモギオ君の肩を叩く。


 カノガミがうんうん頷く。



 おぉ!! なんだか親身に話を聞いている。コレはモギオ君成仏してくれるかも!



……。



どうだ?




--カノガミパンチ!!!



 モギオ君を殴ったああああぁぁぁ!?



 モギオ君が体育倉庫内をバウンドする。まるでピンボール。どんな力で殴ったんだよ!?



 棚にぶつかり今度は棚が音を立てて崩れた。


「きゃああああ!?」

「た、棚がああ!?」


 吉田さんと夏樹がさらに怯える。なんだか2人に申し訳なかった。


 お前っ!? なんでモギオ君殴るんだよ!?


--じゃってぇ。ク○野郎で気持ち悪かったんじゃもん。


 じゃもん。じゃねえええぇぇぇ!! コレでモギオ君が怒ったらどうするんだよぉぉ!?


--だがなジュン。今ので2つ分かったぞ。1つ。モギオ君は生前自分を振った「吉田」という女子を逆恨みし、吉田姓の女子だけを襲っておったんじゃ。強そうな男子が来る時は大人しくしとったらしい。


 あ、それはク○野郎だわ……。


--そして2つ目。モギオ君は弱い! 軽すぎてまるで風船じゃ!!



 カノガミがモギオ君に向かって走る!


 カノガミがモギオ君の脚を掴むと倉庫の壁に何度も叩きつける!


 モギオ君が四方八方の壁に何度も叩きつけられる!



--おりゃあああああああぁぁぁ!! ○ねええぇぇぇ!!


 カノガミさん!? モギオ君は既に○んでるよおおぉぉ!?



 倉庫中の備品が吹き飛ぶ。



「きゃあああぁぁ!?」

「うわあああぁぁ!?」


 吉田さんと夏樹がさらに怯える。もう、2人とも逃げ場を無くして倉庫の中央で縮こまってるよ……。


 何度目かの叩きつけの後、モギオ君は消滅した。


 彼が消える寸前、今までの行為を後悔していることだけは分かった。



--はぁはぁ。除霊完了じゃ♡



「2人とも。もうモギオ君はいなくなったぞ」


 2人は何も言わずコクコクとただ頷くだけだった。




◇◇◇


「いや〜まさか2人が指示を出す前にとくダネを持ってくるとはね〜。感心感心♪」


 上機嫌の小宮が言った。


--ウチおかげじゃな!!


 そうなのだが、素直に喜んで良いものだろうか……。


 結局、吉田さんのトラウマを消すどころか更に強いトラウマを植え付けただけなのでは?


--ジュンは考えすぎじゃ。トラウマと言えど、他者と分かち合えるものであれば1人が抱える重さも少なくなるじゃろ♡


 張本人のお前が言うなっ!!


「それにしても良く撮れてるね〜コレ! 明日の新聞トップはコレで決まりでしょ♪」


 そう。小宮の上機嫌の理由はデジカメに収められた1枚の写真。


「いやぁははは……あの時は必死で……」


 やつれた夏樹が笑う。夏樹はいつの間にか写真を撮っていた。


 そこに写っていたのは姿



 翌日の新聞は大いに話題になり、白水中学七不思議は上書きされることになった。



 「体育倉庫のモギオ君」から「体育倉庫の女子レスラー」へ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る