第134話 2/2


「あ〜朝になったらまた分離かぁ」


 マリ○カートをしていたらノがみが呟いた。


「冬休みとか夏休みとかさ、長期連休の時はもう少し長くいられるように2人に相談してみるよ」


「ありがとね。準」


 彼ノがみの言葉と共に俺のカートに甲羅が投げ付けられる。


「うぎゃっ!? 礼言いながら甲羅ぶつけて来んなよ!?」


「油断してるのが悪いんだよ♡」


 画面の中のキャラクターがクラッシュしている隙に彼ノがみのキャラとCPUキャラ達が俺のキャラを抜き去っていく。


「あぁ……最下位になっちまった」


「なにその顔〜おもしろーい♡」


 俺が悔しがっていると、彼ノがみは腹を抱えて笑い出した。


 くっそぉ……ムカつくなぁ。


「にしても今回は中々楽しかったよ。久しぶりににも会えたし」


 彼ノがみがコントローラーを操作し、次のレースを開始する。


「久しぶりって?」


「封印されてた時にね。1回だけ会ったことあるの。自分に。まぁ〜私は鏡の中だったから、会ったというか語りかけられたんだけど」


「何を言われたんだ?」


「封印の抜け出し方をね。教えてもらったの」


「はぁ? チートかよ」


「ふふ。って言われた。だから私は体を分けたの」


「じゃあそれが無かったらカノガミやみーちゃんとは会えなかったのか」


「そしたらさ、私が準と出会ってラブラブだったかな?」


「ラブラブって……いやぁ最初に会ったのが彼ノがみだったらヤバそうだなぁ〜白水町の人間全滅してたりして!」


「なんだとぉ!!」


 彼ノがみがコントローラーを放り投げて掴みかかって来た。


「痛ってぇ!?」


 揉み合いになってロクヨンを蹴飛ばしてしまう。ゲームがバグってテレビから低い電子音が流れ続ける。


 そのまま、両腕を掴まれた状態で押し倒されてしまった。


 力強えぇ……全然解けないぞ。


「これだったら今度は引っ叩けないでしょ?」


「え?」


 テレビから電子音が流れ続ける。でも、彼ノがみの切なそうな顔から目を背けられなくて、周囲の音なんて、頭に入らなくなっていく。



 彼ノがみがゆっくり顔を近づけて来る。



「好き」



 え? え? 嘘だろ?



 彼ノがみの顔が、もう触れそうなほど近づく。ほんのりと、彼女の体温が伝わって来る気がする。それに呼応するように俺の顔が熱くなるのが分かった。




「好きなの」



 その唇が触れそうになる。 





 咄嗟に、カノガミの顔が浮かんで目をギュッと閉じてしまった。



 ……。



 だけど、感触が伝わったのは、だった。



「ウソウソ。そんな顔しないで」



「ご、ごめん……」


「ううん。私も、ちょっとあの子達の顔浮かんじゃったから」


 押さえてた手が力を失っていく。


 俺は、一生懸命に平静を装ったけど……心臓が破裂しそうなほど脈打っていた。それと、をしてしまわなかったことへの安堵も。


「あーあ。私もカノガミみたいな青春を送りたかったなぁ」


「なんだよそれ……」


「ま、仕方ないね。準にはも〜と大人になってもらってぇ? 融通聞くようになってから。大人な恋愛しよ。ね?」



 彼ノがみは晴れやかな顔で笑った。

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