第2話 2/2
気がつくとアスファルトに寝そべっていた。
耳鳴りがすごい。吐き気もする。でも、状況を掴もうと頭だけはすごい勢いで回転してる。
確か車が……。
少しずつ記憶を遡る。確か遠くにいたはずの車が目の前に現れたんだ。加速したなんてもんじゃない。一瞬で現れた。まるでワープでもしたみたいな感じだった。
そうだ! 小宮は!?
体を動かそうとしても脚が思うように動かない。もしかしたら折れているのかも。
動く上半身だけでなんとか地面を這った。
いた。
小宮が少し離れた所に倒れてる。バンから出て来た運転手が小宮に呼びかけてるのが見える。
でもなんでだ? ピクリとも動かない。
おい、もしかして小宮……?
ちょっと待て。
小宮さっきまで元気だったじゃないか。笑ってたじゃん。
小宮!!
あれ? 俺、声が出ない。
ヤ……バ……もしかして……俺も?
--あーあーあー。アホな奴がおる。やっと自分が死ぬことに気付いたか?
どこからか、女の人に話しかけられた。
--まぁしかし。今オヌシに死なれても困るしのぉ。助けてあげちゃおうかなぁ〜。
誰?
--おい!オマエ。名はなんという?ソトッちとかいう変わった名前なのか?。
名前……そ、外輪……準。
--そうかそうか! ジュンと言うのか!
覚えやすい名前で助かったぞ。苗字があるということは良家の者か? ウチは運が良いな。
何を言ってるんだ? なんでもいいから早く助けてくれ……こ、小宮を。
--は? お前自分が助かりたいわけじゃないのか?
俺より先に小宮を……。
--ホンマもんのアホじゃ。まぁいい。どっちにしろ両方助かるぞ。じゃ、お前から1時間貰うぞ? 良いな?
どういうことだ? 分からないけど、とにかく頼む……意識が朦朧とし……てき……た。
--言ったな。
女の声のトーンが変わる。さっきまでのふざけた口調から一気に冷たくなる。
次の瞬間。
俺の意識は猛烈な力で後ろに引っ張られた。
◇◇◇
「行きの時に見たんだけど、こっちにバス停あるんだー。ちょうど駅に向かうバスだったからさ。帰りは楽しようよ」
目の前に、スクエア型のメガネにショートカットの女子がいた。
「小宮!?」
ついさっきの光景が嘘みたいだ。でも、さっきまでの光景に脳裏に焼き付いている。夢にしては鮮明すぎる。
「突然大きな声出してどうしたの?」
--ホレ。早く別の道を選ばんか。また死ぬぞ。
また?
なんとなく時計に目をやると、14時4分が表示されていた。
もしかして、時間が戻ったのか?
「いや、そっちはやめよう。歩いて帰ろうぜ」
「え〜!? 歩くの疲れたしぃ。楽したいなぁ」
「俺がおぶってもいいから」
「マジ? そこまで言うなら分かったよ〜。その代わり、疲れたらホントにおぶってもらうからね!」
小宮と二人で、元来た道を辿った。農道に出ても警戒しながら歩いたが、さっきのように車に突っ込まれることは無かった。
◇◇◇
その後、電車に乗っても何も起きず、無事に俺達の家まで帰ってくることができた。
「じゃあね〜ソトッち。また明日!」
「おう。じゃあな」
小宮が隣の扉に入っていく。
--なんじゃ? ジュンと小宮は同じ家に住んでおるのか?
「同じ家って……マンションのお隣さんってだけだろ」
は!? 俺は今誰と話したんだ?
辺りを見回すが誰もいない。
--ここじゃと何かとアレじゃろ? 早くジュンの家に帰らんか。
声に従うのは嫌だったが、一人で話す所を誰かに見られたりしたらもっと嫌だ。急いで鍵を開けて自分の家に入った。
扉を閉めて鍵をかける。明かりが無いせいで部屋は暗闇に包まれている。
--暗っ!? なんじゃここ? 家じゃないんか!? 暗すぎじゃろ!?
「……」
玄関のスイッチを押して電気をつける。
--うわ!? まぶしっ!? なんじゃなんじゃ!? 妖術使いでもおるんか!?
「……」
うるせええええぇぇぇ!?
なんだこの心の声みたいな奴!?
--心の声とは失敬な! ジュン達を助けてやったのはウチじゃぞ?
突然。
目の前にピンクのモヤみたいのが集まっていく。それがだんだん形を変えて人間のシルエットになっていく。
「ふっふっふ。ウチこそが封印されしカミ……この姿を見て畏れよ! 讃えよ!」
声が徐々にはっきりしていく。長い髪が揺れる。人間のシルエットがリアルになって……女性的な身体つきの……明らかな大人の女性の……。
「ちょっ!? お前!! そのまま実体化するなよ!」
「なんでじゃ!?」
「お前絶対裸の女になろうとしてるだろ!」
「おっと、これは失敬。久々すぎて忘れておった」
モヤが霧散し、再び集まっていく。それは明らかに人間の形をしていた。
「どうじゃあああぁぁ!!ウチが時のカミ。カノガミ様じゃああああぁぁ!!」
ドンッ!!!
実体化した瞬間。カノガミと名乗る女は派手な音を立てて床に着地した。
「うるせぇぞ!!!」
下の階から怒号が聞こえた。
俺は下の階へと謝りに行った。
下の階のおじさんは意外に良い人で、俺の身の上話を親身になって聞いてくれた。
最後は「頑張れよ」と一声かけてくれ、お土産にカントリーマ○ムまで渡してくれた。
なんだ。世の中捨てたもんじゃ無いな。俺は今までこんな人の繋がりに気付かなかったのか。
部屋に戻って一息つく。
さぁ〜て。お茶を入れてカントリーマ○ム片手にゲームでも……。
「いつまで待たせるのじゃ!?」
「ひぇ!?」
そうだった!? モヤから人が出て来たんだった!?
それは20歳ほどの女。そして、なぜかセーラー服を着ていた。
「やっとウチに注目したか。なんじゃあ急に部屋を出ていきおってからに」
「あの、まず1ついいか? なんでセーラー服着てるんだ?」
「だって……さっき見かけた服が可愛かったんじゃもんっ!!」
女は謎のキメポーズで目をキラキラさせながら言う。
確かに、マンションの前に部活帰りの女子生徒達はいたけど……。
「じゃもん♡」
女はなぜかもう一度ポーズをキメた。
なぜかため息が出た。
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