第108話 2/2
「それじゃあ、外輪君、
映像研究会部長の
「これでウチも銀幕デビューじゃ♡」
「お前さぁ〜演技指導受けてたけど、怨霊の演技なんてできるのか?」
「任せておくが良い! 怨霊としての立ち振る舞いはソド子さんで学習済みじゃ! ホレ!」
そう言うと、カノガミの服がTシャツにショートパンツから、ソド子さんが着ていた白いワンピースへと一瞬で切り替わる。
さらに、カノガミが可視化を解除した。すると、映研の部員達から歓声が上がる。
--みなウチの姿に驚いておる。気分が良いの〜。
カノガミは得意げに腕を組んだ。
「やはり。何度見ても驚くべき事象ですな! これで間違い無くホラー映画の傑作となるでしょう」
蔵久が嬉しそうにメガホンを叩く。
--じゃ、ウチは「子供部屋」の押入れにおるからの。
カノガミが子供部屋へと入って行く。俺と蔵久達も、2階にあるもう1つの部屋へと入った。すると、そこには残りの映研メンバーと夏樹がパイプ椅子に座り、複数の画面が映るブラウン管を注視していた。
ブラウン管には家中に仕掛けられたカメラの映像が映し出されていた。
◇◇◇
事は数日前に遡る。夏樹から俺達に連絡があった。映研メンバーと映画を撮影するから協力して欲しいと。
夏樹は、芦屋家が保有している空家を映研メンバーへと貸し出していた。取り壊しが決まっていた物件だったようだけど「夏休みの間だけ」という条件で撮影の許可をしたようだ。
他にも、俺とカノガミに協力して欲しいと相談があったそうだ。映像研究会の蔵久は、どこから聞きつけたのか、天井裏の怪異の正体がカノガミだと知っている様子だったらしい。
夏樹曰く「だってよぉ〜映研メンバー全員土下座して来るんだぜ? 断れねぇよアレは……」と、渋々協力を受けたようだった。
ただ、俺達が合流する頃には状況は一変していた。
今回撮影された映画は、界隈ではかなり有名なコンテストに出されるらしい。そこで、輝かしい記録を残せば、白水中学映像研究会は有名になる。さらに、撮影地の白水にも人が訪れるかもしれないということで、夏樹は意外にも乗り気になっていた。
空家に入ると、最初に目に付いたのは謎のお札だった。壁から天井から襖から、ビッシリと貼られていた。映研メンバーが何日もかけて作った物らしい。
確かに、夕焼けが差し込む中、こんな大量の札の貼ってある家を見たら発狂するかもしれないな。
それから2日間に渡ってカノガミに演技指導があった。主に可視化の解除と髪の操作。そして、映画のクライマックスには満を持してカノガミが登場。役者の絶叫の中、映画は終わるとのことだった。
ただの中学生である蔵久達は、本物の家とカノガミが起こす本物の霊障によって、他の参加者達と差を付けるという魂胆らしい。
「後必要なのは本物の恐怖ですぞ。演技部のメンバーには1人仕掛け人になってもらい、ほかのメンバーをこの家に誘い込むよう依頼しております!」
蔵久が深々と帽子を被り直した。
「そして、この家に霊の姉弟が出るとのウワサを数週間前から流しました。これで、本物の恐怖が完成するのですぞ〜!!」
蔵久がウワサの元になる怪談の台本を見せて来た。
「この怪談変じゃぞ? 2人とも火事で死んだならこの家があることがおかしいのじゃ」
「あ……ま、まぁ怪談なんて尾ひれがつく物ですし、なんとかなりますぞ! 多分……」
と、いうのが発端からのやり取りだった。
そして、今に至る。
◇◇◇
「そろそろ役者が来る頃か?」
夕陽が差し込む中、夏樹がブラウン管を食い入るように見つめる。
芦屋家のバックアップで撮影もバッチリだった。家の中にはそこら中に隠しカメラが設置され、それがこのテレビに映し出されている。
「くぅ〜ホラードキュメンタリーですぞ! ワクワクするぅ〜」
「部長。仕掛けているんだからモキュメンタリーでは?」
「う、うるさいですぞ! 本物の霊障なんだからドキュメンタリーでしょうが!!」
突然蔵久と映研メンバーで議論が始まった。普段からこの様子なのか? 仲悪いのかな。
でも……。
喧嘩のような言い争いの中でも、映研のメンバーはみんな目を輝かせていた。この家の装飾も相当気合いが入っていたし、好きなことをやるっていうのは良いもんだな。
議論も落ち着き、役者達を待つ。
玄関に設置されたカメラの映像を全員で見つめる。
しかしそこに映ったのは、待っていた演技部メンバーではなく。
気の弱そうな男子がドアを開けようとしている所だった。
「これって……」
「武士研部長の
「蔵久が武士研にも声をかけたのか?」
「いやいやいや!? 私は演技部以外に声をかけてはおりませんぞ!?」
蔵久はオーバーリアクションで否定した。
「直江が入って来た! どうすんだよ!? このままだと演技部のヤツと鉢合わせするぞ!?」
「静かに。直江に聞こえるぞ」
夏樹の注意に口を押さえる。
しまった。ついつい大声になってた。
「ああああ……数週間もかけて準備した撮影があああ……」
蔵久は頭を抱えていた。
「お、おい外輪。カノガミさんの所へ行って事情話して来いよ」
「分かった」
夏樹が渡して来たインカムを耳に付ける。
「俺がモニター見て指示出すからさ、直江をとりあえずなんとかしてくれ。こっちの部屋は鍵閉めてアイツが入れないようにするから」
1階の直江に見つからないようにそっと子供部屋に移動する。そして、急いでカノガミの待つ押入れに飛び込んだ。
--うわ!? なんじゃ!?
カノガミ! 俺だって!!
突然入ったせいで押入れの中で揉みくちゃになってしまう。
なんだこれ? やわっこい感触が……。
--ジュ、ジュン!? こ、こんな所で!?
ちょ!? 違うって!? 変なことしねーよ!!
--なんじゃあ……期待したのにぃ♡
き、聞かなかったことにしよう……。
声を出さないよう、頭の中で事情を説明する。
--な、なんじゃと!? 武士研の直江が乱入して来た!?
そうだよ! だからとりあえずこっちに来たら押入れに引き摺り込むぞ!
--分かったのじゃ!
ちょうどその時インカムから夏樹の声が聞こえた。
『外輪聞こえるか? 直江のヤツ、子供部屋に入ろうとしてる』
「了解。合図と同時に押さえるから指示くれ」
--この押入れに直江入って来たらめちゃくちゃ狭くないかの?
仕方ねーだろ! 集中しろ!
カノガミと2人、息を殺して直江を待つ。
待つこと数秒。
夏樹の合図が聞こえた。
今だカノガミ!
カノガミが押入れから手を伸ばし、直江の腕を掴んで押入れに引きずり込もうとする。
「直江のヤツ!? めちゃくちゃ抵抗しておる! 髪でやるのじゃ!!」
『おい! カノガミさんカメラに映ってる!? 可視化しちゃってるぞ!』
カノガミ可視化してるって!!
「うるさいの! とりあえず引き込むのが先じゃあ!!」
カノガミが直江に髪を巻き付けた。
「誰かぁあああああ!? 助けてえええ!?」
うわバカ!? 直江のヤツ大声出すなって!
『おい! 外輪!! マズイことになったぞ!! 秋……』
「ちょっと待てって! もう少し……」
その時。
「破ぁ!!」
という女の子の声が聞こえた。
すると、目の前のカノガミが霧散した。
カ……。
カノガミいいいいいい!?
◇◇◇
辺りも暗くなった頃、空家の中は人でごった甲斐していた。映研だけじゃなく演技部員まで、みんな片付けに勤しんでいた。
俺達は2階のモニター部屋に集まっていた。
「あ、あははは……お兄様達の映画の撮影だったのですか……」
事情を聞いたオモテ秋菜ちゃんが苦笑いしていた。
「たくよぉ〜せっかく俺達が白水の町起こししようってのに邪魔してさぁ」
「す、すみませんでしたお兄様。それと、カノガミさん……」
--ジュン。離れんでおくれ。
「おぉよしよし。怖かったなぁ〜」
カノガミの背中を摩る。
カノガミは、訳も分からず霧散させられたことですっかり怯え切っていた。誰にも見えないよう可視化を解除し、抱きついて離れてくれない。
「その、猫田先生達、武士研の皆さんが血相を変えて助けを求めて来たものですから……ごめんなさい」
秋菜ちゃんは申し訳無さそうに頭を下げた。
「まぁ、元はと言えば蔵久達の流したウワサのせいだしなぁ」
「はぁ……仕方ねぇか。身から出たサビってヤツ?」
夏樹が肩を落とす。
でも、あんなに準備していたのに映研のみんな可哀想だな……。
蔵久に目をやると、彼は録画された映像を何度も巻き戻しては、再生していた。
「こ……」
「大丈夫か? 蔵久?」
「これですぞおおおおおぉぉぉ!」
蔵久が帽子を押さえながら雄叫びを上げる。
「これこそ! 真のホラードキュメンタリーですぞ! これを編集すれば……いや、まずは直江氏へのインタビュー映像を撮らねば! 彼が事実を知らない今、今しかない!」
蔵久と、ビデオカメラを持った映研部員は走り去っていった。
「え? アイツら……秋菜の映像で映画作るの?」
--ううぅぅ……ウチ頑張ったのにぃぃぃ!
「よしよし」
◇◇◇
この後、除霊ドキュメンタリーでコンテスト入賞した映像研究会は、無事白水町に貢献し、町長から直々に表彰されることとなった。
ちなみに。
苗字は出してもいいが名前はダメという本人の強い意向で、この自主制作映画のタイトルは「
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