第63話 4/4

「ありがとおぉぉ〜助かったよぉ〜」


 大橋先生が涙を流しながら封筒を抱きしめた。


「数えたけど、まだ使われる前だったみたいね。12万円は」


「良かったぁ〜」


「それじゃあ報酬を頂くわ」


「先輩。流石にお金はやめた方が……」


「働きに応じて対価を受け取るのは当然の権利よ」


「正論ではあるけど……」


「それなんだけどぉ。私考えたの」


 大橋先生はモジモジしながら言った。


「やっぱりぃ……


  え?


「……なるほどね。それなら私は遠慮しておくわ。犬山くんが報酬を受け取りなさい」


 え?


「ほら、教師が生徒にお金を渡すのは悪いこと、だからぁ……」


 大橋先生はなぜか不穏な笑みを浮かべて近寄ってくる。


 いや、それよりも悪いことでは……?


「犬山くん。大橋先生にしっかり教育してもらうのよ? 楽しみにしてるわ」


「え……え? それってどういうことですか?」


「じゃあ行きましょうかぁ……犬山くん」


「犬山くん。がんばってね」


 方内先輩が慈愛を込めた表情を浮かべた。


「うふふふふふふ……」


 大橋先生が、なんだか、怖かった。



◇◇◇


「もう……許してくれ……」


「ダメだよぉ……あと106戦はしないとぉ……うふふふふふっ♪」


 大橋先生は、人が違うようだった。


「ほらほらぁ……っ!! そんなんじゃ全然ダメだよぉ♪」


 大橋先生が俺の行動を全て潰しながら煽ってくる。


「犬山くん弱すぎぃ!」

「犬山君弱ええぇ!!」


 明暗と今田が外から煽ってくる。

 

 なぜだ?


 なぜ俺は格闘部で延々と格ゲーをやらされているんだ。


 部室に入った瞬間、大橋先生は言った。


「12000円だからぁ。1クレ100円として120戦ね♪」


 報酬って、これだったのか。


 いや、俺も期待した訳ではないが……。



 先生が恍惚の表情で叫んだ。



「合法的に生徒をボコボコにしていいなんて最高ぉぉぉぉぉぉう!!」



 大橋先生って。



 怖い人なんだなぁ。



◇◇◇


……。


「と、いうことがあってだな」


「マジかよ……格ゲー120戦って……」


 部室で外輪準そとわ じゅんに先日の話を伝えた。外輪はよく災難に遭っているからか、何度も頷きながら話を聞いてくれた。


「でも、俺もこの前酷い目に遭ったぜ」


 急に、外輪の後ろからカノガミさんが現れた。


「ウチもじゃ! もうなぁ……あれは大変じゃったぞ」


「ん? 何があったんだ?」


「いやぁ。暴走族の抗争に巻き込まれてさ。薔僂権バルゴン爾維堕盨ジーダスっていう……」


「え?」


「それがのぉ〜何か知らんが薔僂権バルゴンの連中が先に因縁をつけたとか言っておったの」


「ホント! 迷惑なもんだぜ!」


 外輪は怒りながら腕を組んだ。


 え?


「大変たいへーん!!」


 突然部室の扉が開き、部長が息を切らせて入って来た。


「お、どうした小宮?」


「それがね、伝説のヤンキー兄妹が現れたらしいの! もうずっと行方不明だったらしいんだけど……」


 まさか……。


「あ! それって虎頭櫂ことう かい虎頭景ことう けいとかいう兄妹じゃろ?」


 ウソだろ……。


「そうだよー。なんでカノちゃん知ってるの?」


「じゃって抗争の時言っておったのじゃ。『虎頭櫂ことう かい虎頭景ことう けいに金を奪われた』とな。それが抗争の発端らしいのじゃ」


 あの時のことが……発端?


「おい犬山。なんでそんな青い顔してるんだ?」


「そ、外輪……実は……」


 その時、再び扉が開いた。


「こんにちは。犬山くんいる?」


「おんや? 方内先輩どうしたんですか〜?」


「ぶ、部長! その人を入れないで下さい!!」


「きゃっ!? 犬山くんが大きい声を出すなんて珍しいねぇ」


 方内先輩は俺を見てふんぞり返った。


「この方内洋子に再び救いを求める声が届いたのよ。の犬山くん。早速依頼者の所へ向かうわよ」


「え?」


「と、言うことで小宮さん。犬山くん借りていくわよ」


「了解でーす先輩♪」


 部長が笑顔で承諾した。


「……」


「犬山、がんばれよ」

「がんばるのじゃぞ」


 外輪とカノガミさんが哀れみの表情で俺を見た。


「行くわよ! 犬山くん!」


 方内先輩が俺の学ランを掴んで引っ張ってくる。



「嫌だああああぁぁぁ!!」

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