第124話 6/8
僕は……何もできなかった。1番助けなきゃいけない場面で、怖くて、体が動かなくて……。
アイツがいなくなったら僕の身体は言うことを聞くようになってる。
なんで。
なんで今になって動くんだよ!!
アイツ……秋菜ちゃんを酷い目に合わせるって言ってた。
……。
ダメだ。そんなの。
神社を飛び出して全力で走る。アイツが飛び去った方角に向かう。
どこを探せばいいのか分からない。
また僕は何もできないかもしれない。
でも、嫌だ!
秋菜ちゃんが酷い目に合うなんて絶対嫌だ!!
広場を駆け抜け、道路を渡り、全力で走り続ける。
アイツはどこだ!?
走って走って走って……。
段々見覚えがある場所が見えて来る。僕が立ちすくんでいた場所。どこだか分からなくて震えてた場所。
何故だか分からないけど、そこに秋菜ちゃんがいる気がする。
いくつもの家を通り越し、緑の光が見える。下には白いシマシマ。あれだ。あそこの先が僕のいた場所だ!
緑色の光が赤色に変わる。
構わない。ここさえ渡ってしまえば--。
道路に飛び出した瞬間、体にすごい衝撃が走って吹き飛ばされた。
い、痛い。息が……。
浮いていると思った時には背中に衝撃が走って、気がつくと地面の感触が伝わった。
何が起こったのか分からなくて、無理矢理顔を起こす。すると、止まっている車に赤い血が付いているのが目に入った。
運転手は驚いた様子で窓から僕のことを見ていたけど、すぐに車を発進させて行ってしまった。
僕、どうなったんだろう。
行かないと……秋菜ちゃんが……。
体を動かそうとしたけど、脚に力が入らない。
そんな……なんでこんな時に……。
脳裏に秋菜ちゃんの笑顔がよぎる。
ダメだ、ダメだ!!
秋菜ちゃんが悲しい目に合うなんて絶対ダメだ!!
僕じゃなくてもいい……秋菜ちゃんを助けるのが、僕じゃなくてもいい。
誰か。
誰かあの子を助けて!!
こ、声が出ない……今すぐ大声で叫んで誰かに助けを求めたいのに。
誰かあの子を助けてよ。
道行く人は僕に気付いても見ないフリをして去って行ってしまう。
僕はどうなってもいい。
だから……。
誰でもいいから……。
段々僕の目の前が暗くなっていく。
頼むよ。
お願いだよ……。
秋菜ちゃんには笑っていて欲しいんだ……。
どうか。
どうかお願いします。
カミサマ……。
--黒猫よ。
急に、女の人の声が聞こえた。でも、僕の目の前は真っ暗で、その人がどんな人なのか分からなかった。
だ、誰?
--ソナタが呼んだのであろう? 何か用か?
もしかして……カミサマ?
--そのようなものだ。
ぼ、僕の大事な人が攫われたんだ! その子を助けて!!
--そうか……だが、許してくれ。今の私にそれほど力は残っていないのだ。ソナタの願い、叶えられぬ。
そんな……だったら僕を動けるようにしてよ!
--体の時間を巻き戻せば良いのか? ソナタ、怪我をしたのはいつだ?
少し前。
--それなら、なんとかなるやも。
本当!? だったら……。
--これは……。
で、できない?
--いや、ソナタの体だけではなく……頭も巻き戻せばソナタの願い、叶うかもしれぬ。
本当に?
--恐らく。しかし、今のソナタでは無くなってしまうぞ? それでも良いのか?
僕が僕じゃなくなる?
……。
それでも、お願い。
--分かった。それでは極力上手くやってやろう。その子を助けたいという思いまで無くならないように。その子を助けられるように。
ありがとう。
--すまぬ。最後に1つだけ聞いて良いか?
な、何?
--ここは、私の知っている場所と似ている。外輪準という少年は知っておるか? この風景であれば……今は少年だと思うのだが。
……僕には分からない。
--そうか。
大切な人なの?
--ああ。だが、もう会えない。本当はすぐ近くにいるのだが……。
近くにいるのに会えない? どういうことだろう……。
その子に会いたいの?
--そうだな。一目だけでも会いたかった。愛しい人に。例え、私の知っているあの人ではなくとも……。
ごめんね。
--ソナタが謝ることではない。では、いくぞ。
なんだか、体が暖かくなっていく。意識が薄れていく。でも、怖くない。この女の人が抱きしめてくれてるみたい。
僕、変わっちゃうって言ってたよね……。
変わった後の僕。
どうか、秋菜ちゃんを助けて。
◇◇◇
……。
目が覚めると、拙者の体は元に戻っていた。
そうだ。あの者は?
辺りを見回しても、助けてくれた女性は見当たらなかった。
……行ってしまわれたのか。
不思議な感覚だ。猫田十兵衛のはずなのに、まめ太の記憶も確かに、ある。2人の人格を宿す秋菜殿は、普段こんな気持ちなのかもしれぬな。
……秋菜殿。
あの外道は間違っておる。秋菜殿は2人とも素晴らしき女性。どちらかが不要などということは、断じて無い。
すぐに助けに参る。だから、もう少しだけ辛い目に合わせてしまう拙者を許してくれ。
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