ここが好き。なのデス。

第165話 1/1

 私達は災厄が現れる直前、ログサ達がこの世界へと転移した瞬間へとラセンリープした。


『今から4分後に時空規模の災厄が現れる!! 全員この建造物から避難しろ!!』


『ログサ!? 一体何を……!?』


『テメェら全員このままじゃ消されんだよ! 黙って俺の言うこと聞きやがれ! シバのオッサンもだ!』


 ログサ機からの勧告に機体達が戸惑ったような動きを見せる。しかし、ログサの鬼気迫る訴えは、徐々に兵士達を従わせた。


『お兄様達はツインディスクを。私達もレイラを降ろしたらすぐに向かう』


『分かったぜ。頼みますレイラさん』


 芦屋の兄妹から私への信頼が伝わって来る。



『師匠……っ!? やっぱり僕も』



 青い二足歩行戦闘機械……シュウメイから私の好きな声が聞こえる。


『お前は自分の役割を果たすのデス』


『で、でも……』


『たまにはいい所見せないといけマセンからね。師匠として』



 彼らを、守らないと。私が。



 乗り込んでいたヒガンのハッチを開けて、外へと飛び降りる。重力魔法を使い、ゆっくりと地面へ着地する。左手から重力魔法剣を引き抜く。久々の感触に竜退治をしていた時の記憶が蘇った。


『頼むぞレイラ』


 ヒガンのスピーカーから姫の声が聞こえる。姫はシュウメイとログサ機と共に他の機体の誘導を始める。ログサの指揮は意外にもしっかりしており、シバも含め全員が彼に従っていた。


「エアリー。災厄の出現ポイントは覚えてマスか?」

「オボエテル! オボエテル!」


 エアリーの目から光が照射され、校庭の中央付近を照らした。


「災厄の出現と同時に最大出力の重力魔法を放ちマス。エアリーはその隙に無効化装置を。1つでも付けられればヤツの力をかなり抑えられるはずデス」

「ラジャー! ラジャー!」


 エアリーが先程照らした周辺へと飛んでいく。


 災厄の出現まで後2分。の時間は充分か。


 魔法剣を地面へ突き刺し両手を上げる。手のひらへとを集めていく。


 私が守る。勝てなくても時間さえ稼げればいい。


 あと1分。


 緊張が全身を伝わる。アレが現れたら余計な思考は頭から削ぎ落とさないと。



 ……。




 私は。



 私が私として生きられるこの世界が好きだ。



 私を私として接してくれる友がいるこの世界が好きだ。




 私を愛してくれる人がいるこの世界が好きだ。




 ……。




 私が愛する人がいるこの世界が好きだ。




 たとえ偶然この世界に巡り合ったのだとしても、ここは私が骨を埋める場所だ。生まれた世界と違う世界であっても、ここが私の故郷。



 私はここで生きる為に生まれて来た。



 ここを破壊することは、絶対に、許さない。



 エアリーの指した場所に人の形をした影がゆらりと現れる。災厄が……この世界に現れる。



「エアリー!!!!」



 最大出力で重力魔法を解き放つ。


 出現した災厄は明らかにおかしい角度に押し潰され、地面へと叩きつけられた。


 まだだ。災厄は人としての形状を保っている。最大出力でもいつ抜けられるか分からない。


 ……!?


 災厄が手をついて起きあがろうとしている!? どれだけ力をかけても関係無いのか……?


「早くっ!! 無効化装置を!!」


 エアリーの本体から災厄へと無効化装置が複数発射される。しかし、災厄が顔を向けると、無効化装置が空中に止まっていく。



 このままじゃ……。力を温存してる場合じゃない。ここで戦えなくなったとしても、1つでも無効化装置を。


 放っている重力魔法のコントロールを右腕に全て移す。


「あ、ぐぅ……うぅ……」


 急激な負荷がかかった右腕から悲鳴が上がる。それを耐えながら左腕に地の力を集め始める。



 災厄が少しずつ起き上がる。



 早く。

 



 早く。



 早く溜まれ。



 災厄が完全に立ち上がる。左腕が集めた力に押し潰されそうになる。



 早く!!



 災厄が私を見る。




 左腕に力が溜まった。




「あの声」が頭に響く。




 オイテカナイデ。

 



「だからって私の大事なものを連れてくんじゃねぇデス!!!」



 左腕から最大出力の重力魔法を解き放つ。



「うおおおぉぉぉぉ!!!」



 最大出力の重力魔法を2重に放たれ、災厄は再び地面へと叩きつけられる。叩きつけられた地面が重力に耐えきれず大きく抉られる。



「今デス! ヤツの頭上に撃つのデス! エアリー!!」


 エアリーが災厄の頭上へ装置を発射する。それが、重力魔法の範囲に入ると重力に惹かれて加速し、災厄の右腕へとはめられた。


「よしっ!!」


「ヤッタ! ヤッタ!」


 災厄へと装着された装置が、腕輪型に形状を変化させる。空中に静止していた装置達が地面へと落ちる。これで力が弱体化したはずだ。

 



 その光景に気を取られた瞬間--。



 後ろに災厄の気配を感じた。


 咄嗟に地面から魔法剣を引き抜き、ヤツへと薙ぎ払う。しかし、剣が当たる前に、加速した右腕が私の顔に衝撃を与えた。


「ぐ……っ!?」



「レイラ! レイラ! ギギ……ッ!?」


  近づこうとしたエアリーが空中で静止させられる。


 剣で攻撃しようとする度に拳が叩き込まれる。それから逃れようと後ろへ飛び退いた。


 しかし、地面に着地する前に災厄に首を掴まれる。コイツ……全ての動きが速い。最初の攻撃が当たってのは不意打ちだったからか……。


 剣を地面へと投げ放つ。足元に突き刺さったそれへと手をかざし、剣先から大地へと力を注ぎ混む。足元の大地が耐えきれずに破裂する。その大地のかけらが空へと舞い上がり、私と災厄を吹き飛ばした。


 全身に痛みが走る。しかし、そのおかげで災厄が私を離した。災厄は意識外の攻撃に弱いのか?


 重力魔法を使って着地し、落ちて来る災厄へと再び魔法を放とうと力を溜める。



 しかし。


 

 落ちていたはずの災厄が目の前に現れ、再び私の首を掴む。


「なんてデタラメな奴デスか」


 もがいて逃れようとするが、災厄はびくともしない。災厄の手から力を感じる。私をタイムリープさせようとしているのか?



 私には効かないが……どうする……? このままじゃ……。


 視界の隅に地面に落ちた無効化装置が見えた。


「無駄だ。私には……」


 一瞬、弟子が使っていた力を思い出す。物を引き寄せて……超能力と言っていた。いつだっだか、河原で弟子に言った言葉が頭に浮かぶ。


 ……。


「その力、お前が超能力と呼ぶその力は魔法に酷似してイマス」



 ……。



 そうだ。あの弟子の力を見て私も作ったじゃないか。新技を……。


 タイムリープが効かないと分かると、災厄は両手で首を締め上げてきた。


「が……はっ……」


 手のひらに小さな重力の球体を作る。ヤツに気付かれないよう、それを無効化装置へと向ける。


「は……」


 無効装置が私の手へと引き寄せられた。それをヤツの左腕へと装着する。


「これで……2つ……」


 エアリーが地面に落ちるのが見える。良かった。クシアの言っていた通り、相乗効果があるみたいだ。


 しかし、ヤツの手の力は緩まない。



 ダメだ……意識が……。



 私は……こ、こまで……か……。



 意識が途切れそうになった瞬間。



 災厄の顔に拳が叩き込まれた。



 殴られた災厄が吹き飛び、校舎へと激突する。


 そこに、無数の真空波が撃ち込まれていく。


「レイラさん大丈夫!?」

「無事でござるかっ!?」


 私を庇うように、長い髪の準と猫田が立ち塞がっていた。


「……遅いデスよ」


 彼らの声を聞いただけで不安が薄らぐのが分かる。



 ……。



 私は、やっぱりが好きデス。

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