第90話 2/3

 ノがみは隣にいた俺にすぐに気付いた。


「あ! 準じゃーん! おひさ〜」


「お前……なんか明るいな」


「何言ってんの? 前から私はこんな感じだしぃ♡」


 彼ノがみが俺の腕を掴む。 


「せっかく復活したんだし、遊びに行こうよ!」



「い、嫌だ!!!」



「え〜!? ノリ悪いなぁ。大丈夫だって! もう人間に仕返ししたりしないよ♡」


「信用できねぇえええ!!」


「うわひっど!! フツーに傷付くんですけど!?」



「「「貴様ら……ふざけているのか!? そんな小娘がカミにも等しき我と戦えるはずがなかろう!!」」」


 イアク・ザードが叫んだ。



「あ?」



 彼ノがみの目付きが変わる。先程の普通の少女の様相はすっかり消え、氷のようの冷たい目へと。



「カミにも等しき? 何言ってんの? この3つ首トカゲ」



「「「我をトカゲ……だと……貴様……」」」


 イアク・ザードが何かを言おうとした瞬間……。



 1、消えた。



「「は?」」


 2つの頭がウネウネと動いて消えた頭を探す。その慌てぶりから、相当混乱しているのだと分かった。


「アンタ3つも命持ってんじゃん。贅沢なヤツだね〜。頭1つ、寿命2500年分頂きぃ♡」


 どうやら、イアク・ザードの1頭だけをタイムリープさせたらしかった。


「お、お前……イアク・ザードはリープを乗っ取れるのに……!?」


「そうなの? リープされたことすら分からなかったんじゃない? アイツ」


 俺達の場合は2500年前に繋ぐだけでも必死だったのに。コイツには楽勝ってことかよ……。



 リープした命がそのまま絶命すると、その寿命はリープさせたカミの物になる。



 そして、彼ノがみの力の源泉は寿命だ。



 ということは……今のコイツは……。



「「貴様ああああぁぁぁ!? 何をしたああああ!!!」」


 2つの頭が怒り狂う。無くなった首はすぐに再生し、また3頭の竜へと姿を戻した。



「爬虫類風情が調子乗ってるからじゃん。なーんか知らないけどぉアンタのことクッソムカつくから格の違いってやつを教えてあげる」


「「「死ねええええぇぇぇ!!!」」」



 イアク・ザードの口に電撃がほとばしる。


 俺達と戦っていた時とは桁違いの大きさじゃねぇか!?


「お、おい!? あんなの直撃したら……」


「当たらないから」



「「「!?」」」



 電撃魔法を撃とうとした瞬間、イアク・ザードは盛大に転倒した。


 電撃は空へと放たれ、青空に3つの光が描かれた。


だけ時間巻き戻してあげたの。スベスベで素敵でしょ? ま、赤ちゃんの脚だとアンタの体重支えられないみたいだけど〜」


「「「な……なんだと!?」」」



 竜がよろけながら体制を立て直す。そして、立ち上がれないと知ると翼を開いた。


 イアク・ザードが舞い上がる。翼がはためくたびに風が吹き荒れた。



「「「……決めたぞ。貴様を殺すだけでは気が収まらん。貴様の大切な者も全て屠ってやる」」」



「ふぅん。でもその翼でどうやって飛ぶの?」


 空に浮いていたイアク・ザードが地面へと落下する。



「「「が……っ!?」」」



 よく見ると、イアク・ザードの翼が骨だけになっていた。


「「「な、なんだこれは私の翼は!? 脚は!? どうなっている!?」」」



「ふふ。の時間だけ5万年進めてあげたんだけど? その姿だと3つ首ヘビって呼んだ方がいい?」



 翼と脚を失ったイアク・ザードがのたうち回る。体を捩らせながら猛スピードで彼ノがみへと迫った。



「「「貴様あああああああぁぁぁ!?」」」



 彼ノがみまで目前という所で、イアク・ザードがピタリと



 アイツ、あのデカい体で……されてる……。


 体を動かせない竜は、目だけで彼ノがみを追う。


「どれどれ〜本当にアンタがカミかどうか、判定してあげるよ?」


 彼ノがみは、こめかみに人差し指を当てた。相手の過去や未来を覗く時の動き。思い出しただけで息が苦しくなるような気がした。



「んー? アンタ……このままでもいずれ殺されるね。ってヤツに」



「「「わ、我らの動揺を誘おうとしても無駄だ……我らは東方5大竜を喰らった……真の」」」



「ホントだよ? ことだから。よ」



 彼ノがみが言葉を遮る。


 そして、竜に近づき、手を当てた。



 竜は、一瞬だけ静かになったかと思うと……。



 再び、喚き出した。



「「「嘘だ嘘だ嘘だあああああああああああああああああああああああぁぁぁ!!」」」



 イアク・ザードの声がこだまする。先程までバカ笑いしていたヤツが悲鳴を上げる姿に哀れみすら感じた。


「な、何をしたんだよ?」


「あの子にね。の。自分が死ぬ瞬間。自分の運命。ふふ……見てよあの顔。面白いよ」


「お前……悪い顔になってるぞ」



 彼ノがみは右手にを作り出した。


「でも優しい私はお前にチャンスをあげるよ? 私に永遠の忠誠を誓うなら、その体、元に戻してあげて下僕にしてあげる。そしたら未来は変わるけど、どうする?」



 イアク・ザードが叫び声をあげる。



 しかし、どれほど唸っても体は動かず、抵抗もできないようだった。



 そして、しばらく叫んだ後、竜は悔しそうに呟いた。



「「「ち、誓おう……だから、体を、も、戻して、くれ……」」」



「オッケー♡」



 彼ノがみが手をかざすとイアク・ザードの体は元に戻った。


「お、おい! 戻して良かったのか!?」


「大丈夫! あの子は私のペットとして賢く調教してあげるよ」




 体ノがみは満面の笑みで振り返った。




「お前なぁ……」





 その後ろで。


 



 3つの頭が口を開く。








 イアク・ザードの3つの頭が、彼ノがみに喰らいつく。



「彼ノがみ!?」



 彼ノがみはイアク・ザードの頭達に





 周囲に彼ノがみの体だった物が散らばっていく。



 う、ウソだろ……。

 


「「「うははははっ!! バカなヤツめ!! 死におったわ!!」」」

 


 イアク・ザードが翼を開き、周囲は……暗闇で覆われた。



「「「これでぇ……我らを止められる者はおらん!! 今のヤツも喰らってやった!! 糧にしてやったぁ。我らこそが至高の存在!! はははは!!」」



 竜が喜びの咆哮を上げる。




 周囲を見回しても、いるのは倒れたみんなと、ただの人間の俺だけ……。



 ……。



 どうしたらいいんだよ……。



「「「ん〜? もう虫ケラしか残っていないなぁ? もうお前らはいらん。そこの女から順に殺していってやろう」」」



 彼ノがみが油断しなけば……。





「「「はははははははははははは!!」」」





 いや、俺達が竜をタイムリープさせなければ……。





「「「はははははははははははは!!」」」





 後悔しても、全てが遅かった。




「「「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!」」」




























「「「は」」」






 竜の笑い声が止まる。














 



 世界が猛烈な勢いで









 そして。







 再びイアク・ザードは



「「「は……?」」」




 彼ノがみは竜の前でニヤニヤ笑っていた。




「バカだね。私はだよ? 時間巻き戻せるに決まってるじゃん♡」




「「「え?」」」



「さっきチラッとんだけど〜どんな気持ち?」



「「「あ……え?」」」



「お前がこの子達にを私なりに再現してみたんだよ♡ どんな気持ち?」



「「「……」」」




 竜は、もう、何も言わなくなっていた。




「あぁ……愚かな愚かな爬虫類様。あなたの罪はなんでしょう? 生物の分際でこの世のカミを名乗ったことですね。ではあなたに相応しい罰を与えてあげましょう。カミらしく♡」


 彼ノがみは芝居がかった動きで右手を上げた。そこには先程の黒い玉が太陽に照らされていた。



 竜の瞳からは……恐怖の色が滲んでいた。自分が何をされているか分からないという絶対的な恐怖。



 以前彼ノがみの被害に遭った人達がしていた瞳。


 彼ノがみの前では竜すら同じ瞳をするんだと思い知らされた。



「ほいっと」



 彼ノがみはを竜に投げ付けた。



 すると。



 玉がすごい勢いで周りの空間を吸い込み始める。



「「「あ、あああああああああ!!!」」」



 周りの空間と共に、イアク・ザードは黒い球に飲み込まれた。



 竜の叫びが消えると、辺りは静寂に包まれる。



 地面に転がった黒い玉を拾い、彼ノがみは呟いた。



「3つ首竜ゲットだぜ♡」

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