第162話 あるカミの願い
これが、この世界の真実。
「これは……カノガミと
私達の世界は、外輪が夢に見た、消えた彼ノがみ……災厄が求める彼女が分岐させて作った世界。
外輪が見た災厄の記憶は、今の外輪の未来じゃない。
西暦なんて数値に過ぎない。あの悲劇はこの世界が生まれる前……過去の出来事なの。
「……」
本当は外輪達が災厄と出会うことも無かったし、この事実は知られることなく、今の外輪達の物語を歩むはずだった。
彼女と彼の思い出はこの世界の外での話。決して語られることの無いこと。だから「裏設定」として記憶が保管されていた。だけど、「裏設定」の存在である災厄が、この世界に呼び込まれた。
「ジノ……で良かったのよね? あなたはなぜこの事実を知ることができたの?」
直接会うのは初めてだねみーちゃん。この彼ノがみの記憶はね、私達に見つけられないよう、この世界の外の領域、近況ノートの奥深くに隠されていた。私の能力じゃなきゃ絶対に辿り着けない場所に。
「だ、誰がそんなことを……」
みーちゃんや外輪達を破滅させようとしたクソヤロウ。それを見て楽しんでるのかも。私は……絶対許さない。
外輪はそこまで話を聞くと、静かに目を閉じた。
この事実は彼女の優しさと共に……残酷な側面も、ある。今の外輪とあの災厄は分岐した存在。今の外輪準が消えた所で、あの災厄は消えない。消すことはできない。
もし、外輪が消えることを選んでいた場合……この世界は最悪の結末を迎えることになった。
「な……んだと。それなら我らの世界は!?」
ロベリア。貴方には同情する。けど起きてしまった
クシアの手にロベリアの力が抜けていくのが伝わる。
「なら……私は、私は何の為にこの世界にまで……復讐とは……ただの道化ではないか……」
貴方は本来この世界の外輪達と幾度となく戦い、最終的に自分の世界の実情と向き合うハズだった。だけど、今回イレギュラーな干渉が起きたことで、外輪と災厄の繋がりに気付いてしまった。
……貴方もアイツの被害者の1人。
「フフフ……安直な希望に踊らされていただけか私は……その少年を消せば、取り戻せると。あの頃を……」
外輪が、ゆっくりとその目を開く。
「正直、ジノちゃんが言うヤツの真意は分からない。でも、今分かった。俺がやらなきゃいけないこと」
「お兄ちゃん……どういうこと?」
「あの災厄と、この世界を作った彼女を救おう」
「災厄を救う? この後に及んで何を……」
「ロベリア。俺は災厄だけじゃなく、この世界で消されてしまったアンタの部下達も救いたい」
ロベリアが顔を上げる。その目は、薄らと赤くなっていた。
「クシアが言ってただろ? 自分の運命を受け入れて、その上で出来ることを積み上げるしかないって」
「え、えぇ……私は、そう思いますわ」
「俺達が今できる最善はそれだと思う。ロベリアの仲間を救い、災厄を救う。これ以上の犠牲を出さない為に。そしてそれが、消えた彼女を救うことにもなるハズだ」
「今のお前が災厄にならないという確証はあるのか? たとえあの災厄と分岐していたとしても、私は……お前に災厄の面影を見た。今のお前自身が災厄になってしまったらまた……」
「ロベリア。俺はもう、絶対に災厄にならないよ」
「……その確証はどこにある?」
「俺は……あの災厄の記憶に触れて、自分の未来に自信が持てなくなった。お前が言うように、今の俺と、カノガミ達の別れが起きた時、あの災厄と同じような想いに囚われると思ったから」
外輪がみーちゃんの手を握る。そして、胸の奥にいるカノガミへも想いを伝える。
「でも、ジノちゃんのおかげで分かった。俺は今、誰かに願われて生きてる。だから……たとえカノガミ達を俺が見送ることになったとしても、俺は生きていかなきゃいけないんだ」
外輪の中にあった負の感情。それは、自分が置いていかれることへの恐怖。幼い頃大切な人……両親に先立たれたことによる孤独への恐れ。それをカノガミ達は癒してくれた。しかし、自分の中でそれは解決していた訳じゃなかった。
カノガミ達はカミサマだから。死ぬことの無い彼女達が……自分を置いて行くことの無い彼女達への依存を生み出していた。それはきっと、災厄へと至る運命の道しるべ。
でも、今は違う。カミサマである彼女を……彼女達を人と同じように愛し、いつか別れる。たとえそれが見送る立場になったとしても。置いていかれることになったとしても。人と同じように一緒に生きていく……その覚悟を決めた。
この世界を作ってくれた彼女の想いによって。
「だからロベリア。俺に協力してくれ。今得られる最善を手にする為に」
それはこの世界を生み出した彼女の想いが、少年に伝わった瞬間。幾星霜の時を超え、彼女の願いが叶った瞬間。
外輪準が災厄となる未来は……。
今、真の意味で回避された。
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