第52話 2/3

 怒号が辺りに響き渡る。


 河川敷は2つの色の服を着た男達が大乱闘を繰り広げていた。


 ある者は素手で、ある者は金属バットや鉄パイプで、お互いを蹂躙していく。



「これ……身動き取れねぇぞ」


「今下手に動かない方がいい。もう少し数が減るまで待とう」


「早く帰りたいのじゃが……」



 俺達は先ほどの混乱の中で近くの茂みに逃げ込んだ。ただ、咄嗟に隠れた場所が悪かった。ここから逃げるには乱闘の起きている広場を突き抜けないといけない。


 広場をもう1度見る。無数の男達が殴り合う様子を見ると、とても走り抜ける勇気は出ないな。


 芦屋秋菜とみーちゃんの戦いを目の前で見ていなかったら絶対気絶してたよな。俺。


「どうするジュン。リープするか?」


 カノガミが耳打ちしてくる。


「そうだな……」


 リープしてサトルを逃して……となると2時間前ならなんとかなるか? 川柳部の取材は途中で抜けないといけないな。


 小宮に怒られるだろうけど、背に腹は変えられないか。


「それじゃあ2時間前で頼む」


「了解じゃ♡」



 カノガミの手が俺の首筋に触れようとした時。


 どこかから声がした。




「やや! コレは合戦でござるか!?」




 ん!? この声って……?


「おい外輪! アレを見ろ!」



 サトルの指す方向を見ると、電灯の上に黒猫が立っていた。2本足で。


「あ! またあの猫じゃ! ヒトキリ丸も持っておるぞ」


 それはこの前、寺のつり鐘を木っ端微塵にした黒猫だった。


「シュクンがオトリツブシに合うこと苦節17年……ローニンからやっと抜け出せるやもしれぬ」


 猫は顔を拭いながら言った。



 ん?


 何言ってんだ……アイツ。



「猫が喋っている……しかも、立ってる……」


 サトルは固まっていた。


 おぉ……さすがにサトルもそうなるよな。



 猫は嬉々として独り言を続ける。


「拙者とヒトキリ丸の初陣にござる! 戦果を上げて天下に名を馳せようぞ!!」



 猫が抜刀の構えをとる。



「おい! アイツ人を切る気か!?」


「それは流石にマズイじゃろ!?」


 カノガミが猫に向かって手を伸ばす。


「ちと離れておるが、アヤツのみるのじゃ」


 カノガミの手が猫に狙いを定めたその時。



「いざ!」



 猫が物凄い勢いで電柱から飛び降りた。


「逃した!? 速すぎるぞアヤツ!!」



 地面に着地した猫が駆ける。



 2本足で。



 風のような速さで暴走族達の中に飛び込んでいく。



 次の瞬間。



 猫の周囲にいた



「や、やっちまった……」



 ついに犠牲者が……。



 ん?



 なんか吹っ飛んでる暴走族のが木っ端微塵になった。



 しかも、暴走族の



 倒れた暴走族達はみんな見事にになっていた。



「な、なんじゃあこれは……」



 夢でも見ているかのようだった。



 黒い閃光が駆け抜ける。



 男達の悲鳴が上がる。



 色とりどりの布切れが、花びらのように風に舞う。



 髪の毛が舞い上がって夜空を彩る。




 そして、全裸で坊主頭の大地が作られていく。




「はっはっは!! 討ち取ったりぃぃぃ!!」




 猫の楽しげな声がこだまする。




 数分間。




 その光景が目の前で流れ続けた。




 俺は……。




 俺達は……。




 思った……。



「なんだこれ?」

「なんじゃこれ?」

「なん……だ……これは?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る