第106.5話

「やっぱり夫婦となったからには弟子のことちゃんと名前で呼びたいのデス!」


 ふ、夫婦か……いや、本当にどうしよう? 師匠が僕のこと好きでいてくれたのはすごく嬉しいんだけど、は、早すぎる……。


「いや、はは……嬉しいですけど、弟子でいいですよ」


「そんなわけにはいきマセン! 愛称でもいいので呼びたいデス!」


 師匠が頬を膨らませた。


 か、かわいい……。


 い、いや! 気持ちを確かめ合ったからといって彼女は師匠だぞ! も、もっと尊敬の念を持て!


 師匠が僕の名前を言おうとするけど、上手く言えずに失敗しては言い直す。僕の名前……有緑ありのりは別世界出身の師匠には言いにくいみたいだ。


「やっぱり難しいデス……。ア、リリィ……」


 師匠は舌が回らないようだった。結局上手く言うことはできず、肩を落としてしまった。


「そんな無理しなくてもいいですよ?」



「そうだ! という愛称ではどうデスか? これならなんとか言えマス」


「げ、芸人さんを連想してしまうからちょっと……」


はどうデス?」


「魚介の名前の付いた家族を連想してしまいますから、ちょっとそれは」


「う〜ん。じゃあは?」


「ぼ、ボクサーみたい」



「わがままデスね!」



 師匠が怒り出して飛びかかって来た。



「痛い痛い!? 顔引っ張らないでぇ!?」



 結局、今後も「弟子」呼びになった。


 まぁでも、僕達の関係がどう変わったとしても、僕達は師弟だ。それでいいと思う。僕も師匠と呼びたいし。


 名前で呼ぶ、か。


 ……。


「レイラ」


「え?」


 師匠が驚いたようにこちらを見た。


 し、しまった。頭の中で呟こうとしたらつい声に出て…‥!?


 自分の顔がどんどん熱くなっていくのが分かる。


「い、今私の名前呼びマシタ!?」


「よ、呼びました」


「もう1度呼ぶのデス!!」



「えぇ!?」



 師匠の気が済むまで何十回と名前を言わされた。

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