アルターテイルズ・フロンティア・オンライン〜普通の従魔士を目指していたら、いつの間にかNPCテイマーと呼ばれてました〜

騎壱

プロローグ

第一回運営イベント『バトルロイヤル』

 『アルターテイルズ・フロンティア・オンライン』――通称『アルターテイルズ』のサービス開始から、ちょうど1週間となる日曜日。


 この日はゲーム開始後、初となる運営によるイベントの開催日であった。


 βテスター100人とファーストロットのパッケージを購入できた1400人、そのうち実際にプレイできているプレイヤーは1360人程度。


 今回のイベントにはその中から500人近くのプレイヤーが参加していた。


 イベントの形式は『バトルロイヤル』――特殊なフィールド上で約100人のプレイヤーが集められ、制限時間を迎えるか、最後の一人になるまで戦い続けるというものであった。


 完全に戦闘職プレイヤー向けのイベントであったため、生産職プレイヤーやあまりこういうイベントに乗り気でないプレイヤーは観戦するために観客席で戦いの様子を見つめていた。


 500人近くのプレイヤーが参加したことから、ステージフィールドは5つあり、それぞれの様子を見ることができ、最後に勝ち残るプレイヤーが誰になるのか賭けを行うプレイヤーも存在していた。




「おおっと! 第1フィールドで動きがあったぞ! レンが8人のプレイヤーをぶった斬りだぁぁぁ!」

「マジかよ、やっぱβテスターつえーな!」

「あいつ、βの時は激遅剣士だったのに……」

「やっぱ、βテスターはβテスターでござったか……」


 第1フィールドでは、双剣を使って軽やかに戦場を駆け回るレンと呼ばれたプレイヤーが残ったプレイヤー全員を切り捨てたところで決着がついた。


 まるでサッカーのフェイントを彷彿とさせるステップに多くのプレイヤーが惑わされていき、この第1フィールドの勝者となった。


「ふぅ、何とか勝てたな」


 イベント試合が終わり、通常フィールドに戻ったレンはペットボトルに入った水をストレージから取り出す。ファンタジーが舞台のゲームではあるが、ところどころ現代的な部分も多かった。


 そしてレンは、他のフィールドの結果を確認する。


 第2フィールドはシグ、第3フィールドはクラウス、第4フィールドはナギサというプレイヤーが勝者となって既に決着がついている。


 それはもう酷いワンサイドゲームだったようで、その戦い方や姿から勝者な二つ名のようなもので呼ばれており、シグは『大魔女』、クラウスは『破壊僧』、ナギサは『殲滅姫』と呼ばれるようになっていた。ある意味ではスタープレイヤーであった。


 レンも含め、そこまでのフィールドの勝者は総じてβテスターであり、彼らは初期に貰えるボーナスポイントを追加で手に入れていることから、ファーストロットプレイヤーよりも有利なのだ。


「さて、ユークの奴は第5フィールドだったけど、大丈夫かな?」


 レンはまだ終了していない第5フィールドの試合を見るために観客席へと向かう。


 第5フィールドは特にβテスターの人数が多い。それまでのフィールドでは数人程度だったのが、何故か3割近くがβテスターであった。第2から第4フィールドまでは先述のスタープレイヤーが暴れた結果、それ以外のβテスターもファーストロットプレイヤーもあまり変わらぬ扱いであった。


 しかし特出したスタープレイヤーがいない第5フィールドでは倒す倒されるの繰り返しとなり、ある意味ではたった一人のスタープレイヤーがいた他のフィールドよりも観覧席が盛り上がる。残るプレイヤーの数もこの組のβテスター組とほぼ同じくらいの人数である30人を切ろうとしているが、未だに激戦が繰り広げられている。


「あ、レン! こっちよこっち!」


 そんなレンを呼びつける白髪の女性プレイヤーが一人。その隣にはメイド服を着た機械人形バトルマトンが一体座っていた。


 レンはそのプレイヤーの姿を確認すると、機械人形とは逆側の、そのプレイヤーの隣の席に座る。まだ彼女がいるということは、ユークが脱落したということはないだろうとレンは判断していた。


「おう、リーサにフィーネ。待たせたな」

『お疲れさまです、レン様。大勝利でしたね』

「ホント、流石よねぇ。第2フィールドで早々に倒されたユーリカさんとは大違い」

「あそこはシグさんが居たからな。無理もない」


 そしてレンは第5フィールドの様子を確認すると、その戦場の只中をひたすら共に走る二人組の姿を視認し、レンは笑みを浮かべる。


「よし、ちゃんと勝ち残ってるな……ユーク、ミュア」




 第5フィールドにおいて戦いが激化する中、走り続ける二人組。


 その片方は、真っ黒の髪を少し長めに整えた眼鏡をかけた少年で、初心者装備を未だ身に纏っており、βテスターではないことを如実に表していた。 しかし、その右手には薄い緑色の宝石が刀身についた短剣をもっている。


 その扱いは些か歪であり、どうやら【短剣術】の技能アビリティを習得していないようであった。


 少年の肩には、小さな子供みたいな何かが掴まっている。最初からいるので、どうやら彼の従魔のようであったが、このゲーム内で従魔を連れて歩けるのは従魔士テイマーなどの限られたジョブだけであり、なおかつそれらのジョブは『不遇職』として扱われていた。


 そして少年の傍らにしっかりと付いてきているのは、大きな木製の弓を左手に抱える女性。輝くような白いロングヘアーに細長い耳が見える。どうやらエルフ族のようであった。


 装備も先程の少年に比べればかなりレア度が高いように見えるため、かなりの高レベル帯であることは間違いないだろう。


 そんな二人であるが、少年が奇妙な術式を使って他のプレイヤーの注意を引いている中で、女性の方が正確に弓士系のアーツを打ち込んでいくことで、次々とβテスターたちを打ち倒していく。


 その華麗な流れに次第に観客たちの視線も彼らに向かっていった。


「へー、あの姉ちゃん、かなり腕が立つな。それに対してあの坊主はおんぶに抱っこかよ」

「いや、あれはあの坊主が油断させてるから成り立つ連携だな。どこのβテスターか知らんが、あそこまで息のあった連携は中々ないぞ」

「ってことはあの坊主もβテスター?」

「いや、だったら初心者装備のままはないだろ。特典で金も貰えたんだから、もう少しマシな装備かプレイヤーメイドにしてるはず」

「じゃあ、ファーストロットか。リア友的な?」

「まぁ試合が終盤になれば対立するはずだし、そうなればあの坊主は即脱落だな」

「まぁ、サポート役の定めよな」


 観客席での考察が進む中、とうとう第5フィールドに残るプレイヤーの数は3名と表示される。


 しかし、そのフィールド上にある人影は4つ。


 その表示のおかしさに運営がミスったのかと声を上げる観客。しかし、そのまま試合は流れていく。


 二人組は先程までと同じ連携プレーで他のプレイヤーと対峙していくが、彼らもまた協力して二人組を倒そうとする。奇しくも前衛後衛で輝く騎士ナイト系統ジョブと魔術士マジシャン系統ジョブのプレイヤーであった。


「あいつを落とすまで協力しろ、ルスト!」

「仕方ねぇなぁ! しっかり守れよダン!」


 騎士系ジョブのダンは自分の身の丈以上の大盾を構え、二人組の攻撃を魔術士系ジョブのルストに届かないようにする。


 ルストはその間、詠唱スキルを行いて魔術スキルの火力を上げていく。その一撃で全てを消し去るつもりであった。……それこそ前方で守ってくれているダンごと。


(悪く思うなよダン。俺が優勝するためにはお前も邪魔なん――)


 しかし、その詠唱は急に途切れる。ルストがふと首に手を当てるとそこには何かが突き刺さっている感触があった。


 痛覚設定は切られているため痛みはないが、それは女性が打ち込んだ矢が喉に突き刺さっている証拠であった。


「詠唱なんてさせません!」


 女性は勝ち誇ったようなドヤ顔で叫ぶ。


 しかし、その状況は前方でルストを守っていたダンに衝撃を与える。


 何故ならばダンは詠唱の最中、ルストが自分を魔術スキルに巻き込むであろうことを予見して、自身を中心とした一定距離を空中問わず守護するスキル『エリアバリア』を使用していたからである。


 エリアバリアの効果は半球状になっているため、ギリギリ効果範囲外であったルストに攻撃を当てるには、かなりの曲射が必要となる。


 そんな状態の中で、あの女性は更に離れた場所から正確に喉元を狙って矢を射ったのだから、その精度は神がかっている。マニュアル操作を使用しなければ不可能に近い芸当だが、だとしてもこのような芸当は弓道の達人でも難しいだろう。


(クソっ、あんなマニュアルがうまい弓使いなんてβテストでも見なかったぞ! なんなんだアイツ!?)


 ダンは慌てて盾を構えようとするが、その瞬間かれの手元に見覚えのない小さな姿が現れる。


 それは少年の肩にずっと乗っていた小さな子供のような存在であった。


「なっ!? 子供!?」

「子供じゃねぇ、おいらは『精霊』だぜ! さてと、邪魔な盾は飛ばしちゃうぞ!」


 そう語り、子供のような存在――自身を精霊と呼んだが――は自身を中心として勢いよく風を巻き起こす。


 その突風にダンは盾を構えることができずに手を離してしまい、盾は遠くへと吹き飛んでしまう。


 どうやら武器剥しのスキルかアーツのようであった。


「よくやったゼファー! あとは俺に任せろ!」


 今まで沈黙を貫いてきた少年がそう叫ぶと、少年は短剣の刀身についている宝玉を前に出すように構える。その宝玉が淡く光りだす。スキルを選択した証拠であった。


 いつの間にか戻ってきていた精霊は再び少年の肩に座る。


 溢れんばかりの緑色のオーラがその少年を包み込んでいく。


「行くぞ! 『緑精の大旋風テンペスト・ゼファー』ッ!!!」


 そう少年が叫ぶと、一際宝玉が輝き、次の瞬間には凄まじい勢いの竜巻が目の前――ダンとルストの二人に向かって放たれる。


 その勢いは並の魔術スキルとは比較にならない。それこそ、ルストが詠唱スキルを重ねて発動しようとしていた魔術はあれくらいの規模であった。


(いやいやいや、あんなの俺でも撃てねーよ!!!)


 ルストは心の中で独り言つ。そんなルストとダンは竜巻に巻き込まれ、一瞬にしてHPゲージは全て無くなり、残ったのは従魔士の少年と弓士系の女性だけとなる。


 しかし少年は持てるすべての力を使い果たしたのかその場で座り込んでしまう。MPが完全に無くなったことによる脱力症状であった。


 少年の肩に座っていた精霊は慌てふためくも、側に歩み寄ってきた女性に手を差し出されることで少年はゆっくり立ち上がる。


 フィールドの上部では彼が勝者であること、そしてプレイヤーネームが『ユーク』であることを示していた。


「お疲れさまでした、ユークさん」

「ありがとう。流石にミュアがいなきゃ真っ先にやられてたよ。ゼファーもありがとな」

「へっ、あんくらい朝飯前さ! 相棒も中々やるじゃん!」


 従魔士の少年ユークはエルフのミュアと精霊のゼファーに対して笑顔で話しかける。なんとも和気あいあいとした状況であった。


 しかし、観客の反応はそれとはまた違うところに驚いていた。


 そう、従魔士の少年ユークの隣に立つエルフ族の女性である。


「どういうことだ、あれはプレイヤーじゃないのか?」

「えっ、ノンプレイヤーキャラ? でも、NPCが運営イベントに参加する? しかも特定プレイヤーのパーティーで?」

「いや無理だろ。そもそもこのイベント、ソロ参加だからパーティー組めないし」

「じゃあ、目の前のあれは何?」

「いや知らんし」

「まぁ、考えられるとしたらあのプレイヤー……ユークだっけ? あいつが従魔士系ってことが鍵なんじゃないか?」

「えっ、あいつNPCをテイムしてんの?」

「ぷっ! NPCテイマー! ハハハハ! マジかよウケる!!」


 そんな話が観客席で交わされており、いつの間にか従魔士ユークは『NPCテイマー』と呼ばれるようになっていた。……本人の知らないところで。




 これはそんなNPCテイマーと呼ばれるようになってしまった少年ユークがアルターテイルズをプレイする物語である。



 ――――――――――――――――――――


※7/8:時系列を変更しました。イベント開催をゲーム開始後一週間となる日曜に変更しました。

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