主従契約の指輪

 集合時間ギリギリにはなったが何とかギルドランクの件もクリアすることができ、ようやく準備完了といったところで俺たちは残りのメンバーと合流することとなる。


 はじまりの街におけるデフォルト時のログイン場所でる噴水広場前。結局、集まるのならここが一番手っ取り早いんだよなぁ。ログインすればすぐに着くことができるし。


「よう、ギルドの依頼を受けてた割には随分早かったな」


 レンは何故遅れたのか察していた様子で、俺の姿を見てニヤニヤ笑っていた。お前、知ってたなら昨日のうちに教えとけよ! ……と言いたいが、まぁ俺がギルドに顔を出していないなんて普通は想定はしてないだろう。おそらく遅れるかもという連絡で察したんだろうしな。


「いやまぁ、何とか依頼以外でランク昇格できたからな」

「ほう。ギルド無使用の場合はどうやって昇格するんだ?」

「昇格試験。ギルドで試験官との一騎打ちだとさ」

「あー、もしかしてCランク以降のやつか? βテストの時にやったけど、Aランク冒険者は結構強かった気がするな。ユークも苦戦しただろ?」


 どうやらレンはβテストの時に昇格試験自体は体験済みだったようだ。βテストの時はどこまで上げられたんだろうな、ギルドランク。


「いや、俺の場合は何故かギルドイベントが発生して、相手はSランク冒険者だった。しかも、レベル100に未実装のエクストラクラスジョブ持ち。はっきり言ってありゃチートだよ。チート」

「……んん? どういうことだ? なんでイベント発生してるんだよ?」


 レンは俺が言ったことの何一つ理解できていないようだ。まぁ、そりゃそうだよな。俺だって信じられない。というか、やっぱりあのタイミングでイベント発生は変だよな。ホント何だったんだろう……?


 アドミスと肩を並べるくらいには――とは誓ったものの、ぶっちゃけあの動きはシステムのサポートがあっても人間ができるようなものではないと思う。


 あれが出来るようになるということは、もはや人間をやめてしまっている可能性がある。いやはや、フロンティアの原住民恐るべしである。


「それはさておきだ。取り敢えずこれで晴れて俺たちも第二エリアへの挑戦権を得たわけで……これから森林エリアの最奥、エリアボスが居る『深緑の寝床』に向かうわけだけど、なにか質問ある?」


 俺がそう告げると、リーサがピシッと手を挙げる。


「ねぇ、サザンカさんやナサはどうするの? 前に廃鉱山でボスモンスターを倒したときに私だけ戦闘エリア外に居たこともあったけど、今回もそうするの?」

「そうだなぁ……サザンカさんもナサも一応戦闘能力はあるけど、正直そこまで強いってわけじゃないから、もし本人が戦いたくないなら安全地帯で待機してもらう形にはなるかな。戦闘に参加してなくても、同じチームかパーティーメンバーなら、そこから出ない限りは一緒に次のエリアには渡れるからな」


 そう呟いて俺はサザンカさんとナサの方を見つめる。二人とも戦闘に関しては、生産職に毛が生えた程度(とはいえナサの『錬金賢者ヘルメス』は性能等がまだ良くわかっていない)なので、言葉は悪いが戦力としてはそこまで期待していない。


 仮に4人でも、安定して戦うことはできるだろう。というか、リーサがちゃんと自分を(というかフィーネを)戦力と見ているようでよかった。これで自分も下がってる、とか言ってたら叩き出しているところだった。


「……それなら、申し訳ないけど私はパスしたいかな。まだ、みんなの足を引っ張りそう」

「うーん……。私は……ユークたちと一緒に戦いたい、かな?」


 そうナサが呟くと、皆驚いたように彼女の方を向いていく。そりゃそうだ。HP35しかないナサが戦いたいというのだから、誰もが耳を疑う。


 まぁ、俺は昨日の諦めの悪いナサの姿を見てるので、彼女なら言いそうかなとは思ってたけど。リリーも激しく頷いていた。


 ぶっちゃけ、ナサのHPだとエリアボスのブラッディハウルベアどころか、おそらくそれまでの道中のモンスターの攻撃すらあやしいだろう。同レベル帯のアッシュウルフの攻撃一発でHPが全損してしまうことはほぼ間違いない。


 だからこそ、リリーに頑張ってもらうというわけだ。


「取り敢えず、早急にリリーとナサは主従契約を結んでもらって、道中リリーはナサが絶対に死に戻らないように守ってもらうことになる。その立ち回り次第で、ナサには一緒に戦ってもらおうと思ってる」


 本人にやる気があっても、実力が伴わなければそれはあまり意味がない。


 そして、今回それはナサ本人ではなく彼女の従者を自称し、護衛侍女になったリリーに求められることとなる。


 俺の言葉を聞いて、リリーは一際気を引き締めた様子でコクリと頷いていた。


 一応、保険にとメルカの店の近くにある雑貨屋で見つけた素人の錬金釜をナサに渡す。おそらく、初心者の錬金釜ではないのでステータス効果があるはずだが……。


「えっと……HPとMPが20ずつ増えたよ」

「そうか! たった20だが、されど20だ。これで初期値の半分にはなったぞ!  これはでかい!」


 取り敢えず、少しは打たれ強くなったと見ていいだろう。これでリリーに『私は貴方のもの』を使ってもらわずとも、同レベル帯のアッシュウルフの通常攻撃一発程度なら全損することはなくなっただろう。


 その後、俺たちはどうやって行動するのかとか道中どうやって立ち回るのかを話し合う。流石に道中はサザンカさんも最低限戦ってもらわなくてはならい場合もあるかもしれないので、その確認だ。後は俺がメルカの店やその他の商人系プレイヤーなどから集めてきた回復アイテムを必要なやつがいれば分配する。まぁ主にナサにやる形にはなったが。


 そして、忘れないうちにとリリーはナサと主従契約を結ぶこととなった。方法としては、従者となるプレイヤーがジョブ効果で作り出した指輪型のアクセサリーである『忠誠の証』を主人に与え、それを従者が主人に装備させて、主人と共に契約を誓うことで契約完了となる。因みにこのアクセサリーは特に効果はないが、つけていることが契約の証となり、スキルやジョブ特性の対象となる。


 指輪を装備する際、リリーは迷いも何もなくナサの左手の薬指に指輪をはめる。婚約指輪や結婚指輪をつける場所ではあるが、広義的には忠誠に通じる指と言われているらしいので、妥当といえば妥当なのだろう。女子であるリーサとサザンカさん、そしてミュアがはしゃいでいるが、どうやら指輪の位置関係はこっちでも同じようだ。


「お嬢様。私は貴方に忠誠を誓います」

「うん、分かった。……リリー、よろしくね」


 二人が主従関係のことを誓い合うことで、契約は完了となる。


 これで同一パーティーならナサのパラメーターステータスは2.2倍となり、更に戦闘中リリーのHPの半分をナサに渡すことができるようになる。


 これならあっさり死に戻るなんてことは、あまり起きなくなるだろう。


 さて、そろそろアイツから連絡が来てもいいと思うのだが……と思ったら、タイミングよく連絡が来る。


『森の入口で待つ』


 成程。それでは森林エリアに向かうとするか。

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