ランク昇格と専属職員

「ちょっと、何があったんですか兄さん――って、ユークさん!?」


 一撃一撃がかなりの爆音だったためか、心配して見に来たエミリアがあまりの惨状に思わず声を上げて叫んでしまう。訓練場も剣圧であちらこちらズタボロになってしまっている。


 俺たちは、訓練終了により全損していたHPが回復することで起き上がれるようになるが、その際にアドミスが自慢の筋肉を見せつけながら話し出す。


「咄嗟の状況判断とその回避能力……うむ、文句なしの合格だな!」

「合格だな――じゃないんですよ兄さん! 試験なのに何でいつもいつも、こう全力で戦おうとするんですか! こんなのこの街に来たばかりの来訪者さんたちに対処できるわけないでしょう!」

「だが、こいつはそれなりに出来てたぞ。将来有望だな」


 エミリアはアドミスの言動に突っ込まざるを得ない状態になったようで、手に持っていた本で肩を叩く。それをアドミスは避けることはなかった。


 しかし、この人……前にも同じようにやらかしていたのか……。そりゃあ、誰も対処できないだろうこれは。実際に見て体感してみたから、はっきりと分かる。あれは間違いなく全てにおいて別次元の強さだ。


 ていうか、この二人兄妹だったの? えぇ……全然似てねぇ……。


「それでも、試験官として活動してもらう以上、手を抜いてもらわないと困るのよ!」

「いやはや、どうしても手を抜くことができないのだ妹よ」

「いや、何年冒険者やってると思ってるの兄さん! あなた、レベル100でEXエクストラクラスジョブ『救世剣士フューチャーセイバー』で、泣く子も黙るSランク冒険者なんでしょう!? いい加減、『手加減』を覚えなさいよ!」

「俺の辞書に『手加減』という文字は――ってアイタッ!? お、おい角はやめろ角は!」


 何やら痴話喧嘩が始まってしまったが、流石に聞き捨てならない言葉が飛んできた。


 レベル100? それにエクストラクラスジョブ? フューチャーセイバー? 何だそりゃ?


 諸々気にはなったが、とても聞けるような状態ではなかったので、そのまま二人の喧嘩が落ち着くのを待っていた。それに、たとえ聞いても答えてはくれなさそうだしな。


「……えっと、取り乱してごめんなさい。一応、試験官のお墨付きが出たということなので、ユークさんのギルドランクをEランクに昇格させていただきます。これで安心して次のエリアに行けますね。……それにしても、兄さん相手に渡り合えるなんてかなり腕の立つ来訪者さんなんですねぇ。流石です……」

「あはは……いや、少し反射神経がいいくらいだよ」


 その場で手続きを済ませたエミリアは、深々と頭を下げながら新たにEランクであることを示すようになった俺のギルドカードを手渡す。何やら最後の方は喋ってる時の目つきが違ったような気がした。


 なにはともあれ、これで当初の目的である昇格自体はどうにかなった。そう、どうにかなったのだが……。


 目の前の理不尽に少しだけ心が挫けそうになってしまっている。


「冒険者ユークよ。私の剣戟をあそこまで避けた冒険者は、お前が久しぶりだ。だからそう気を落とすな。私と君とでは差が大きいだろうが、いずれは君も私と同じ位置に来るだろう。……確信はないが、君はそのつもりだろう?」


 アドミスが筋肉を見せつけながらそう告げてくるが、正直そのポージングのせいであまり言葉が入ってこない。


 だが、もしアドミスが言うことが正しければ、プレイヤーである俺たちも同じくらいには強くなれるかもしれないってことか。確かにレベル100に未知のクラス5ジョブが実装されれば肩を並べるくらいには行けるのかもしれない。……よし、取り敢えず頑張ってみよう。まずはエリアボスとの戦いだな。


 その後、サザンカさんと合流してから冒険者ギルドをあとにしようとしていた俺たちだったが、不意に表に出てきたアドミスに呼び止められ「困ったときはいつでも連絡しなさい」とアドレスを渡された。


 えぇ……要らねぇ……と最初は思ったが、よくよく考えればSランク冒険者との繋がりができたと思えば、かなりのラッキーではあるのか。もしかしてこれがさっきのアナウンスで言ってたギルドイベントの特別報酬だったりするのかな?


 何故かその時一緒にいたエミリアからもアドレスを渡されたのだが、エミリアは「兄が変なことを言ってきたらすぐに教えて下さい、シバきますんで」と不穏な言葉を告げていた。どうやらどの世界でも兄は妹に勝てない、ということらしい。まぁ俺の場合は従妹ハルとユキになるわけだが。


「……まぁ、そうでなくてもバトルスに到着したら連絡くださいね。すぐにそっちのギルドに向かいますので!」

「いや、君はここのギルド職員では……?」

「大丈夫です! 専属職員だったら別のギルドでも活動できるんで! なんで、到着したら専属指名お願いしますね!」

「えぇ……。なんか君、さっきまでとなんかキャラ違わない……?」


 いや、確かギルドの専属職員って優先的にそのプレイヤーに対して依頼を回してくれたり、プレイヤーハウスとかクランハウスを建てた後に出張所を拡張すればそこに駐在してくれるシステムのことではなかったか? なんでそこまでしてくれるのこの人?


 理由を聞けば、兄であるSランク冒険者アドミスに認められた来訪者であればかなりの貢献をしてくれるだろうということでの考えらしく、そういった貢献度が高い冒険者の専属職員になれば給料が上がるということらしい。それこそ受付嬢よりもかなり上がるとかなんとか。確かに、専属システムは契約することとなるNPC一人につき毎月、指名料金を支払うことにはなっているが……。


 なんとも現実的で世知辛い理由なのだが、この人はそもそも俺が今までギルドに行きそびれていたということをお忘れなのかな?


 まぁ、専属になってくれるのであれば、ギルドに行きやすくはなるの助かるのだろうが……。これも【友好化】の影響だったりするのだろうか?


 取り敢えず、エミリアには連絡することだけは約束して、約束の時間が近いことから急ぎその場を後にするのだった。


 その話の間、エミリアが兄を忘れて(自分の利益のために)俺にグイグイ寄っていたからか、最後の方とか普通にアドミスに睨まれてたけど、これ俺悪くないよね……!? Sランクの睨みとか圧がヤバいからやめてくれ!




 ――――――――――

(9/1)モンスターの区分において、通常モンスターの特異亜種としてレアモンスターと呼称していましたが、レアモンスターとレア個体の2種類が混在していて紛らわしいことから、『レア個体』に固定したいと思います。

 出現率が低い珍しいモンスターをレアモンスターと呼んだりする事はあるが分類上はレアモンスターは存在しないという設定に変更したいと思います。なので、レアモンスターという呼称はなるべく出さないようにしたいと思います。

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