ケイルの手土産

 森林エリアの入口に向かった俺たちはそこでエルフ族NPC、ケイルと再会する。俺にとっては1日ぶり、レンとリーサは2日ぶりか。そして他のメンバーははじめましてになるな。


 初めて会った時とは違い、よりエルフ族らしい装飾がついた防具を身に纏っているが、おそらくこれがエルフ族の旅装となるのだろう。前までよりも諸々強そうに見える。


 リリーとサザンカさんが見知らぬエルフ族NPCの登場にポカンとしていたのでレンとリーサが隠しクエストのことを含めて説明する。本来なら出会った俺がするべきなんだけどな。


「よう。準備はできたようだな、ユーク」

「そっちこそ。……あ、孤児院に連絡入れといてくれてありがとな。昨日世話になった」

「まぁ、お前なら顔を出すと思ってたからな。……っと、そうだ」


 ふと、ケイルは担いでいた荷袋を降ろすと、その中から幾つかの装備を取り出す。どう見ても袋の容量には収まらないような弓やらマントが出てきたので、どうやらマジックバッグと呼ばれるようなものらしい。俺たちプレイヤーのストレージのようなものだとは思うが、その容量はおそらく俺たちのものよりは少ないと思う。俺たちの場合、初期でも26スタック分はアイテムを所持できるからな。


 ケイルが取り出したのは一つの弓と外套、そして指輪と首飾りのアクセサリーだった。


「これは?」

「昨日、旅に出ると言ったときに親父から預かってきた、ミュアに向けた装備らしい。……来るって言ってたのに、俺に押し付けたから今渡すことになった」


 どうやらケイリスがミュアのために用意した装備のようだ。一応、ミュアの場合は装備の大半が変更不可扱いとなっている。それは種族特性で特定のステータスがかなり上がりやすくなっているミュアが、装備まで変更できたらプレイヤーよりもかなり強くなってしまいかねないという判断から、変更できないものだと俺は考えている。


 とはいえ、全ての装備が変更不可というわけではなく、現状ではサブ武器と外套、そしてアクセサリーが変更可能、というか非装備状態なので装備可能となっている。この装備不可状態が、果たしてレベルが上がり続けても変わらないのかは不明だが、いずれは変更できるようになるのではないかと思われる。前例がないからホントに分からないんだけどな。


 ケイリスが用意してくれたのは、ちょうどその装備可能な箇所に当てはまる武器だった。これも隠しイベントの報酬的なものなのだろうか、それとも友好化による好感度上昇特典なのかは定かではないが、取り敢えず貰えるのなら貰っておくに越したことはないだろう。


 さて、その装備の性能を見てみることにしよう。


『典礼の霊堅弓(☆5):弓武器。かつてエルフ族が偉大なる精霊王に祈りを捧げる際に用いたとされる小型の弓。精霊樹の堅木材を利用しており、咄嗟の近接戦に用いることができるほど堅牢な出来となっている。エルフ族専用装備。

 INT+40 DEX+30 アビリティ【弓防御】追加、耐久値:1000』

『エルフの外套(☆4):外套防具。かつてエルフ族が旅する際に纏っていたとされる外套。幻を見せる効果を持つ。エルフ族専用装備。

 INT+60 アビリティ【幻影】追加』

『エルフェンリング(☆3):アクセサリー。かつてエルフ族が旅立つ仲間に贈る親愛のお守り。エルフ族専用装備

 MP+50 アビリティ【エルフの加護】追加』

『鎮静の霊首飾り(☆2):偉大なる精霊の導きで、怒りの感情を落ち着かせる不思議な首飾り。エルフ族専用装備。

 INT+20 アビリティ【暴走耐性】追加』


 ケイリスが大盤振る舞いしてくれたのであろうその防具やアクセサリーは、いずれもINTやMPなどを引き上げてくれる装備であった。


 追加できるアビリティは【弓防御】と【幻影】、それに【エルフの加護】に【暴走耐性】だ。


 【弓防御】はその名の通り弓を使って防御することができるという行動アビリティだ。ただし耐久値を大きく損なう可能性があるので、耐久値がフィーネと同じというバカみたいに高い典礼の霊堅弓でしか使えないだろう。ミュアのメイン武器の方の弓は破壊耐性はあるようだが、破損自体は普通にするようなので、咄嗟のタイミングに弓を射られないという危険性がある。


 【幻影】はMPを50消費することで一定時間自身の姿を別の場所に映し出すことができる『幻影』スキルを使用可能とするもの、【エルフの加護】はエルフ族が同じパーティーにいる場合、INTとMINが1.2倍になるというもの、【暴走耐性】はその名の通り暴走状態の状態異常になりにくくなるというものとなる。


 因みに他の耐性系もあくまでなりにくくなるという効果であり、それらの状態異常に全くならなくなるにはその状態異常に合わせた【耐性+】の効果アビリティが必要となるが、βテストでも終盤近くに解禁された高難度クエストやダンジョンでの報酬だったので、現状での入手はほぼ不可能に近いだろう。


 とはいえ、【耐性】だけでもそれなりになりにくくはなるので、多くのプレイヤーが【耐性】系のアビリティがついた装備を身に着けている。まぁ、メジャーな状態異常に対する【耐性】付きの防具は比較的入手しやすいというのもあるのだが。


 この首飾りを装備すれば『阿修羅の面』のデメリットを幾らか緩和することが可能となるだろう。これは阿修羅の面はミュアに装備させることになりそうだな。しかし、このアクセサリーを渡すということは、ケイリスはミュアが暴走するとでも思っていたのだろうか……。それともこのアクセサリーを持ってたから渡したご都合主義? 何にせよ、ちゃんと依頼をこなして良かったな。


「ほう、俺もオヤジに渡されただけで確認してなかったが、結構良さげな装備だな。俺でもそんな装備渡されなかったのに。……まぁ、精霊姫たるミュアにはちょうど良いんじゃないのか?」

「あ、あぁ、そうだな。……えっと、ミュア。これらの装備はできるか?」


 ケイルの発言の反応にやや困ってしまったが、取り敢えず受け取った装備をミュアに見せて装備できるかどうかを問うと、彼女は静かに頷いていた。ではミュアにそれらの装備を預けることとしよう。


 システム上、ミュアの装備はこちらから変更するということができないため、ミュアに装備類を一度預ける必要がある。ついでに阿修羅の面も一緒に渡しておいた。


 彼女も先程のケイルと同じような感じでアイテムを保存できる何かしらを持っている様子で、アイテムを預けること自体は可能だ。戦闘でのアイテムドロップは無いものの、フィールド上で採取をしてもらったり、お金を預けてお使いでNPCやプレイヤーからアイテムを買ってもらうことも可能のようだ。


 因みに回復アイテムもちゃんと渡せるので、ミュアが自分で必要だと思ったらその時に使用してくれる。これは本来ならNPCとしての仕様なのだが、従魔扱いの時も同様となっている。実にありがたい。


 そして、ミュアは装備を変更する。といっても目立つ変更点は簡単な外套を纏ったということくらいで、首飾りは普通に見えないし、指輪も小手に隠れて見えない。サブ武器は一応取り出して見せてくれたので装備できたことを確認することができた。かなり小ぶりだが、取り回しはしやすそうだ。


 これだけでMPが50、INTが120、DEXが30も増えたことになる。防御系のステータスは上がらないものの、ミュアにはちょうど良い調整となったのではないだろうか。


「どうだ? 調子は」

「そうですね、特に問題はないと思います。……ケイル、ありがとうございます。ケイリスさんにお礼を伝えられないのが残念ですね」


 ミュアがケイルに対して礼を言うが、ケイルは小恥ずかしそうにそっぽを向いていた。


「さて、取り敢えずケイルは俺たちのパーティーに入ってもらうことになるが大丈夫か?」

「あぁ、問題ない。俺も手を貸すと言った以上は全力でやるつもりだ」

「そうか。……それでフレイはどうした? さっきから見かけてないんだが」

「……アイツとはちょっとした意見の食い違いでな。少し旅に出てもらっている。まぁ、向こうに着けば自ずと来るだろう」


 いや、お前もユーリカと同じ感じなのかよ。エルフ族で仲良くできないって、相当気分屋なんだな精霊って……。まぁ、ゼファーも最初はそうだったもんなぁ……。


 昨日の夜と同じで、俺は従魔を含めたソロパーティー、そして残りの5人でパーティーを組んでもらい、パーティーコネクトで一つのパーティーとして結成することとなった。


 ケイルには俺の方のパーティーにNPC枠で入ってもらう。まぁ、別にレンたちの方に入ってもらっても良かったのだが、さっきもらった装備にある【エルフの加護】が発動するのか確かめるためでもある。結果としてちゃんと1.2倍にはなっていた。


 もし、ケイルがちゃんとフレイを連れてきていたら従魔・使役モンスターの数に引っかかるので、間違いなくレンたちのパーティーに入れていたところだ。


 これで俺たちはプレイヤーが6人、従魔枠が2体と1人、そしてNPCが1人と大所帯でエリアボスに挑むこととなる。正直言うと『クロノス』が突破後に弱体化したエリアボスに対してこの数は過剰戦力とも取れる。が念には念を、という所だ。

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