初めてのチーム連携戦

 そして俺たちは装備の最終確認をしてから森林エリアの中に入っていく。


「取り敢えず、極力消耗したくないから、戦闘はできるだけ避ける形でいこう。俺が【観察眼】持ちだから敵がいたら知らせるな」

「俺も【観察眼】は持っているから、背後の方を見ておこう」


 俺とケイルとで索敵を行いながら先へと進んでいく。まぁ、それはあくまで避けるための索敵なのではあるが。


 しばらく歩くと、ナサがビクッとした様子で辺りを見回すようになった。どうやら推奨レベル帯を越えた際のアラートが鳴ったようだ。本来ならああいう感じに驚くくらいの警報がなるらしいのだ。


 まぁ、レンが昨日のうちに新たに習得した【威圧】の効果で、レンのレベル未満のモンスターは出現しにくくなっている。【観察眼】でもモンスターがこちらを避けているように逃げているのが確認できる。このアビリティは相手とのレベル差が高いとより効果が高いらしい。まだここはレベル16程度の場所なのでそれはもう効果は絶大といった様子だ。


 因みにこの【威圧】やオークラさんが習得していた【ヘイト集中】などの常時発動するアビリティの一部はメニュー画面で効果のオンオフを切替可能となっている。勿論、メニューを開かなくてはならないので、戦闘中は切替不可だ。また、常時発動のアビリティでもデメリット系のものなどは切替できないことが多い。


 俺たち男がそれぞれのアビリティで接敵しないようしているのに対して、パーティーの真ん中では女子たちがワイワイ話して楽しんでいる。いやまぁ、リラックスできているのなら何よりなんだが……。


 因みにナサのレベル帯超えの警告の方は、ナサが顔を歪めた瞬間にリリーがメニューで警告対象を個人のレベルから全体の最大レベルに設定すれば鳴り止むということを教えていたのでどうにかなっているようだ。まぁ、ずっと警告が鳴りながら進むのもストレスだろうからな。にしても対応が早かったが。おかげで俺が説明するタイミングは皆無だった。




 それからしばらく歩くと、推奨レベル帯が現在のパーティーメンバーの大半より上となるレベル26になるエリアに足を踏み入れることとなる。


 流石にここまで来るとレンの【威圧】も効果が薄くなってくるため、俺とケイルで敵が近寄ってきているかどうかを判断する必要がある。


 不意打ちの危険性もあるので、リリーはナサの側で盾を常時構えており、またリーサもフィーネの側から離れず歩いている。


 レンは先日精霊王から貰ったユニーク武器である『エレメントモノクローム』を展開している。なんかいつでも来いって感じだな。


 そう思っていると目の前にモンスターが現れる。ヨハネスがテイムしていたグレイッシュオウルとアッシュウルフ、そして俺は初確認となるミラージュカメレオの3体だ。


 ミラージュカメレオはカメレオンの姿をしたモンスターで、簡単に言うと姿を消して攻撃してくる見た目そのまんまの性質を持ったモンスターだ。


 厄介なのが、姿を消した場合に死角から魔術攻撃をしかけてくるという点にある。この第一エリアでは珍しい術式系統の攻撃を仕掛けてくるモンスターなので、全体的にMIN値が低めとなるプレイヤーには天敵とも言える存在だ。


 俺たちのチームでMIN値が一番高いのは実はゼファーであり、次いでリーサとなる。他は全くMIN値を伸ばしていないので当たればそこそこダメージを喰らうことになる。


 こちらの術式系統の攻撃にも耐性があるのだが、逆に物理耐性が低いので攻撃される前に速攻で倒すのが正攻法となる。


「よし、ミラージュカメレオは俺に任せろ! ユークたちは他の2体を頼むぜ!」


 その正攻法を知っていたであろうレンが先に飛び出してミラージュカメレオの方向に向かっていく。独断専行だが、このチームにあいつの速さに追いつけるやつはいない。それこそグレイでも無理だ。だって普通に500とかあるからな、あいつのAGIの数値……。


 まぁ、ミラージュカメレオの攻撃を避けながら弱点となる物理攻撃を効果的に叩き込めるのはレンかグレイくらいなので、この判断は正しいと言える。むしろこちらか出遅れて姿を消されていたら、手も足も出なくなる可能性があった。


 取り敢えずひとりだけなのも危険ではあるかもしれないので、グレイにレンのサポートを頼んでから、俺たちはグレイッシュオウル、そしてアッシュウルフと対峙する。


 アッシュウルフは手慣れた相手なので問題はないだろうが、逆に戦ったことがないのはグレイッシュオウルの方だ。


 飛行するモンスター自体、俺は初めて遭遇するのでかなり厄介なことになりそうだ。


 取り敢えず、リリーとフィーネを先頭にして陣形を組む。中間に俺とゼファーとナサ、後衛にケイルとミュア、そしてリーサとサザンカさんといった感じだ。なお、サザンカさんには道中はアイテムを使用したサポートを頼んでいる。


「では、参ります! 『私は貴方のもの』発動!」


 リリーがスキルを発動するとリリーの周囲に黒いモヤのようなものが浮かび、それと同時にナサが付けている指輪が光る。これでリリーは最大HPの半分を失い、ナサはその数値分最大HPが増える。ただ、この状態では最大HPが増えただけでHP量自体はそのままとなる。


 咄嗟にリーサが回復術スキルでナサのHPを回復させたことで全快するが、MPは大丈夫だろうか――と思ったが、レベルが上がったことで更にMP量も増えているので些細な問題だったようだ。


「よし、俺たちも行くぞ! 『乱風の鎌鼬スクランブル・エッジ』!」

「おいらも! 『乱風の鎌鼬スクランブル・エッジ』だ!」


 未だ動かないグレイッシュオウルとアッシュウルフに向けて精霊術スキルを使用し、風の刃を撃ち出す。2体ともその場を離れて避けてしまうが、アッシュウルフに対してはフィーネが接近し、戦闘人形スキルである『アサルトバレット』による鉄の拳を食らわせていた。


 グレイッシュオウルの方は、俺とゼファーが精霊術スキルで牽制しつつ、ミュアに弓術アーツで攻撃してもらう。ミュアには『モンスターエンハンス・インテリジェンス』をかけておいた。


「ナサ! アッシュウルフを頼むぞ!」

「……分かった」


 アッシュウルフはフィーネの一撃で勢いよく吹き飛ぶが、流石にこのレベルでは一撃では倒しきれないようだ。アッシュウルフはそのままの勢いでナサの後ろにいるリーサの方向へと走っていく。ヘイトの関係で装備主のリーサの方を狙ったのだろう。アッシュウルフはその前に居たナサに向かって爪を立てる。


 流石にAGIが低いナサにはその攻撃を避けることはできない。だが、そんなアッシュウルフの攻撃はナサに届くことはなかった。


「お嬢様には指一本、その毛の先でさえも触れさせるつもりはありません! 『シールドバッシュ』! 」


 いつの間にかナサの目の前に移動していたリリーが盾を構えてその攻撃を受け止めていた。そして盾術アーツの『シールドバッシュ』を使用し、勢いのまま盾で殴りつける。アッシュウルフは『シールドバッシュ』の追加効果であるスタンによって、ナサの目の前でフラフラになっていた。


 そんなアッシュウルフに向けてナサは『祖なる十二の秘文』を構える。


「――『大地震撼アースレイジ』」


 魔本が持つヘルメススキルの一つである『大地震撼』をナサが発動すると、アッシュウルフのいた地面にピンポイントで亀裂が入り、その地面が礫のようになって上空へと突き上がっていく。


 アッシュウルフは突然の下からの攻撃にスタン状態では対処することができず、そのまま大量の礫によって上空にかち上げられてしまう。


 そして、そんな隙を狙わない弓士がいるわけがない。


「――『スナイプショット』!」


 ケイルが待っていたかのように弓を構えてアーツを発動すると、そのまま正確に空を飛ぶアッシュウルフの喉を狙い貫く。その結果、アッシュウルフは受け身を取ることもできず、そのまま地面に墜落して倒れる。これでアッシュウルフは戦闘不能となっただろう。


 グレイッシュオウルの方は、ミュアが霊弓術アーツである『ライトニングアロー』を【正射必中】の効果で命中させた際に、運良く追加効果であるスタンが発生したことで地面に墜落。その後、俺が『横薙ぎ』からの『強力杖殴り』を食らわせたことで戦闘不能となった。


 一方で、ミラージュカメレオと戦っていた筈のレンだったが、俺たちが戦闘を終わらせる以前に倒しきっていたようで、アッシュウルフの戦闘不能と同時にリザルトのアナウンスが流れる。グレイは何もできなかったことを示すかのように、しょんぼりとしていた。すまんな、グレイ。


〈戦闘終了。灰狼の毛皮×2、濃灰梟の飾羽×2、魔核【中】×3、『灰狼牙のナイフ』を獲得しました〉

〈経験値を獲得しました〉

〈ジョブレベルが1上がりました。ジョブアーツ『従魔激励』を習得しました〉

〈ウルフ系モンスターの討伐数が150体に到達。称号【ウルフキラー】を獲得しました。〉


 戦闘終了。特に誰一人として大きなダメージを食らうこともなく戦うことができた。今回、サザンカさんは何もできなかったと言っていたが、アイテムサポートは無ければ無いに越したことはないのだ。


 連携としてはまぁまずまずといったところか。相変わらず俺は従魔士として戦えていないような気がするが、もうこの際気にしないことにしよう。


 新たに称号【ウルフキラー】を手に入れたが、討伐数関係の称号は戦闘職では比較的大取りやすい方の称号だ。他には【ラビットキラー】や【ラットキラー】などがあるが、小型モンスターは確か討伐数300体以上が条件だったはずだ。一応、ウルフ系のモンスターは中型モンスターなのでそれらよりは少なくて済む。というか150体も倒してたのか……。


 昨日のレベリングでレンは同じ【ウルフキラー】を、そしてリーサはずっとスライミーやゴールデンスライミーを討伐していたことから【スライミーキラー】を入手方法しているようだ。


 これらの討伐数によって得られるキラー称号の効果は、対象となるモンスター種に対するダメージ量が1.2倍になるというものだ。地味にありがたい。


 セラミック・ゴーレム戦で手に入れた称号【ゴーレムキラー】と同じような名前で同じような効果なのだが、実はエリアボスやダンジョンのフロアボス以外の特定エリアへの関門となるボスモンスターを倒すと、討伐数に関係なくそのモンスター種のキラー称号が得られるということだったらしい。なので、ウルフ種の討伐数が少なくても、今後ウルフ系のボスモンスターを倒したらそのプレイヤーは【ウルフキラー】を獲得できるというわけだ。


 何にせよこれで9個目の称号だ。実は昨日時点で図鑑メニューで見れる統計データの中で、称号獲得数のトップは獲得数7個で俺含めた3人が並んでいたのだが、今確認したらダントツで俺がトップになっていた。まぁ、そりゃ1時間程度で2個も称号取る奴は普通居ないよな……。


 しかも、この先はいよいよもってエリアボスの戦闘エリアだ。当然ながらエリアボスを討伐すれば越境者系の称号が手に入るので、大台の10個持ちも既に目の前となっている。これは俄然負けられなくなってきたな!

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