突然のお誘い
「……ん? 誰だあんた?」
突然声をかけられたのでその声の主の姿を見たが、筋骨隆々の眼鏡をかけた金髪の男性が立っていた。オークラさんやサイモンさん辺りが似たような体格だったが、ここまで筋骨隆々な知り合いは俺には居ない。
「失礼! 私はクラウスと申します。ジョブは『
「あぁ、そりゃご丁寧にどうも。……で、何で急に話しかけてきたんだ?」
俺に話しかけてきたクラウスというプレイヤーは、俺がちょうど依頼を受けてからここを出ようとしたタイミングで話しかけてきたので、依頼関係で何かしらの理由があるのだろうか。
確か『破戒僧』といえば、回復術と格闘術に特化した
悪堕ちといっても別に罪を犯しているとか、
例えば
それらのジョブは性能的にはユニークに近いのだが、一人だけでなく誰でも習得可能ということ、そしてデメリットはステータス系のものではないという点が異なる。
そのデメリットがかなりの問題となっており、基本的には玄人向けの性能となっている。そもそもの習得条件も
強力故に
しかし、そのデメリットを特殊な装備等でどうにかする、あるいは最初からデメリットの存在を無視したアビリティやステータスの構成を行うのであれば、十分最強格のジョブには入ってくる。
目の前のクラウスはそのデメリットを理解した上で破戒僧になっているのだろうな。
「実は、お二人が依頼で外に向かわれると聞いてしまったもので……出来れば私も一緒について行かせて貰えないものかと……」
「……? あぁ成程、野良パーティーのお誘いだったのか。……もしかして、期限がある依頼を受けている感じ?」
「えぇ、本日の夕刻までに指定数モンスターを討伐するものを。……本来ならチームメンバーと一緒にこなす予定でしたが、急に相手方に予定ができてしまって無理だと言われてしまいまして……」
「あら……それは大変でしたね……」
クラウスの話を聞いて、ミュアが相槌を打つ。
「オマケに、この近くに頼れる知り合いもほとんどおらず、もし誰かしら依頼を受ける人が居れば、そのついでに帯同させて貰えないかと探していたのです」
成程な。依頼関係ではよくありそうな話だ。
依頼を失敗した場合、その依頼の内容次第では違約金の支払いが発生したり、ギルドの信頼度が下がったりする場合があるので、できれば失敗はしたくない。
本来ならこうして急に都合がつかなくなる点も考慮して、絶対に都合がつくタイミングでなければそういう期限付きの依頼は受けない方がいいのだが、割と勢いで受けたりする場合もあるのでどうしようもない。さっき俺たちが受けた護衛依頼みたいに衝動的に決める場合もある。
しかし、こちらの依頼の内容は聞いてこないとなると、どうやら特定の種類の指定がない、純粋な討伐数のみの依頼のようだ。
討伐系の依頼はパーティーを組んで、自身がちゃんとその戦闘に貢献してさえいれば、たとえ味方がとどめを刺していたとしても討伐数のカウントに入る。
……逆に言えば、少し手を出すだけで討伐数を稼ぐということもできる。いわゆる寄生というものだな。
本来ならばその寄生になりかねない行為ではあるのだが、期限付きならばなりふり構っていられないというのも分かる。
そもそも、同レベルかそれ以上のモンスターが群れで出てくる可能性がある第二エリアで、ソロプレイは中々ハードモードである。
俺だって似たような状況なら、同じような行動を取っていたかもしれない。
そもそも性格的に一人ではあまり行動できないような感じらしく、外に出るのも一人では怖いのだとか。
人と一緒にやるのが嫌でソロプレイばかりというのはよく聞いたことがあるが、一人が嫌でパーティープレイばっかりというのもよくあることなのだろう。
βテスターかつ悪堕ちジョブと、それなりの実力はありそうなので、彼が寄生になることはまぁないだろう。
同じ眼鏡をかけているプレイヤーとしては、出来ることなら助けてやりたい……がミュアとかゼファーのことはどう説明したものか。
「うーん、ちょっと待っててくれるか? 相談してみるよ」
「え? あっ、はい。お待ちしますよ!」
俺はクラウスに一言断ってから、ミュアとともに話をする。まぁ、クラウスにミュアの事などを説明するかどうかの相談だな。
クラウスはそれが前向きな判断のためだと悟ってか、明るく送り出していた。
さて、離れた場所で肝心の話を行うが、正直俺としてはここまで来たら、無理にミュアやゼファーのことを隠し通さなくてもいいのではないか、と考えている。
確かに特殊なモンスターを従えてるということで目立つのは中々に面倒なことではあるが、遅かれ早かれ次の運営イベントではゼファーは勿論、ミュアも特殊使役キャラとして共に戦うことになる。
それが今回、クラウス一人に対して早出しするだけの話だ。
まぁ、イベントで有利に動くためにクラウスには内緒にしておいてもらう必要はあるのだがな。
意見を聞いてみると、ミュアも特に反対はないようだ。そもそも、ミュア自身も自分が原因で俺があまり他のプレイヤーとパーティーが組めないという状況は好んではいないようだった。
そして、いつの間にか起きていたゼファーも特に問題はないらしい。
しかもゼファー曰く、この開拓の村の近くには下位精霊や中位精霊が好んで生息している『精霊の泉』という特殊エリアがあるので、契約できる来訪者もそろそろ出てくるだろうという話だった。
そういえば、妖精の話の時も似たような話題が出ていたな。あっちは確か『妖精の花園』って言ってたかな?
精霊の泉は精霊石を投げ込むことで、その精霊石に合ったクラスや属性の精霊を呼び出すという仕様らしい。
その後、精霊が好みそうなアイテムを渡したりする事で精霊と仲良くなり、エルフ族はそのまま契約ができるというものだ。
その呼び出しに必要な精霊石は、開拓の村付近で☆3のものが既に発見されており、ゼファー曰く下位精霊や中位精霊にはそのランクで十分らしい。
……本来ならばここでエルフ族プレイヤーが精霊と契約できるようになる流れだったのが、俺がゼファーの隠しダンジョンをうっかりクリアして、フライングゲットしてしまったような形となる。
精霊の泉での精霊との契約そのものはエルフ族以外でも可能らしいが、その場合は幾度か繰り返し訪れることで精霊との友好度をMAXにする必要があり、なおかつ【テイミング】の『テイミング』や【召喚術】の『召喚契約』などの使役獣に関する契約系スキルを持っていないと契約には至らないらしい。
実はゼファーの場合もそうだったようだ。確かあの
さて、少し話し込んでしまったが、そろそろクラウスに返事をしてやらない とな。
周りには特にプレイヤーも居ないのですぐにクラウスのもとに向かうことができた。
ホント、今の時間は人が少ないな。まぁ、夏休みとはいえ平日の真昼間だからな……。
「おまたせ。取り敢えず、パーティーを組むのは問題ないよ。ただ、クラウスにはしばらく他のプレイヤーには内緒にしてもらいたいことがあるんだけどね」
「内緒に……? まぁよく分かりませんが、言うなと言われたことは言わないのが義理なので、その点はご安心ください! ……と言っても納得は出来ませんね。分かりました、ではその秘密に釣り合う私の秘密もお教えしましょう」
「え? いや、そういうのは大丈夫……」
「いやいや、そう仰らず!」
うーん、話が通じねぇ……。
まぁ、取り敢えず悪い人じゃないのは確かみたいなので、取り敢えず一旦話を止めてからクラウスにミュアとゼファーのことを説明した。俺が従魔士なのも合わせてだな。
その内容を聞いてクラウスは「わ、私の秘密と全然釣り合わないじゃないですか……」と意気消沈していた。
まぁ、確かに精霊とハーフエルフに匹敵する秘密なんてそうそうあってたまるかという話だ。
まぁ、取り敢えず運営イベントまでは内緒にしてくれる約束は取れたので、安心してパーティーを組むことができる。
ついでにフレンドコードも交換しておいた。バラしていたら直接文句を言ってやるため……ではなく、今後何かあったときにチームメンバー以外にも連絡取れる相手が複数居たらいいかなと思ったからだ。
「……しかし、ほぼ人型に近い上位精霊にNPC扱いにもなるハーフエルフ、そしてレア個体のシルバーアッシュウルフと、いやはや普通の
「そうかな? 俺としては普通の従魔士を目指しているだけなんだけどなぁ……」
でも、確かにこの組み合わせは普通という括りではないような気もしなくない……うーむ。
悩みは尽きないが取り敢えず時間も惜しいので、クラウスとパーティーを組んだ俺たちは開拓の村から離れて、平原エリアの中へと足を踏み入れることとなった。
フィールドエリアで先のエリアボス戦で習得した【騎乗】を試してみようかと思っていたが、クラウスと歩幅を合わせないといけないので残念ながら今回はお預けとなる。あとのお楽しみだな。
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