『破壊僧』のクラウス
「なんと! ユーク殿はオークラ殿やサイモン殿の知り合いでしたか!」
「まぁ、ほぼ『知り合いの知り合い』って感じだけどね。俺はファーストロットプレイヤーだし」
「成程。人の縁とは奇妙なものですね」
道すがら話をしていると、クラウスはオークラさんやサイモンさんと知り合いだったことが判明した。
まぁ、相手がβテスターだから俺が知り合いのβテスターの名前を出したところ、いの一番にヒットしたのがこの二人だったという話なのだが。
「しかし、クラウスは見た目からも肉弾戦が強そうって感じがするな」
「ええお陰様で。βテストの際には、このジョブのお陰か『
……ん? 俺の聞き間違いでなければイントネーションが何か違う気がしたのだが、まさか『破壊』と『破戒』をかけている感じなのか?
だとすればクラウスの戦闘時の状態が物凄く気になるところだけど……まぁ、それは一緒に戦ってみれば分かる話か。
「成程なー。差し支えなければ『破戒僧』がどんなジョブなのか教えてもらってもいいか?」
「えぇ。構いませんとも。共に戦う上でお互いの戦闘方法を知ることは大事ですからね。ですが、てっきりご存知だと思っていましたが」
「まぁ、俺は従魔士一筋だったし、悪堕ち――あっ、この系統のジョブの存在は知ってても、情報はあまり見てなかったんだ」
うっかり普通に悪堕ちと呼んでしまったが、さっき説明した通り、この手のジョブを習得したプレイヤーからしたら悪堕ちなんて自分を侮蔑した呼び方とも取られかねない。
しまったと思ったが、クラウスはそんな俺の様子を見てにこやかに笑みを浮かべていた。
「フフッ、悪堕ちと呼んでいただいても大丈夫ですよ。実際に破戒僧というものは戒律を破った僧侶のことですからね」
そう言ってクラウスは自身のジョブである破戒僧についての情報を語ってくれた。まさか本当に教えてくれるとは思ってなかったが、当の本人からすれば特に隠すことでもないらしい。まぁ、別にユニークってわけでもないしな。
破戒僧は
しかし名前の通り『破戒』していることから、このジョブについている間は【回復術】や【神聖魔術】などの回復系スキルは使用できなくなる。習得にそれらの習得が必須なのにも関わらずだ。しかも忘れることもできないらしい。
また戦闘中にそれらの回復系スキルや回復アイテムの対象にならなくなってしまうという、最大のデメリットを有している。
その代わり、ジョブ特性でダメージを負えば負うほどSTR値とVIT値が上昇していく仕様となっており、ジョブスキルには自傷系のものがあるほどだ。
また、HPが一定値を下回ると今度はAGIが急上昇したりする上に、複数回発動する根性などの効果が発生する。
対人戦で当たると面倒なことこの上ない性能となっている。救いとしてはMINの数値はダメージを受けても上がらないので、HPが一定値を下回らないうちに魔術系統のスキルで一気に削る他ないだろう。
あとはステータスに関わらず特定のダメージを与える固定ダメージとか即死攻撃とかが有効だろう。とはいえ後者は聖職者として耐性があるので、発動させるのは中々に難しいのだが。
「取り敢えず、クラウスには肉弾戦を任せる……というか、それしかできないんだよな」
「フフッ、その点に関してはお任せください!」
そうこうしていると、俺たちの目の前に植物系モンスターが3体出現する……が目当てだったマッドプラントではなく、バイトプラントという名前の植物系モンスターだ。
マッドプラントが泥を吐く植物なら、こっちは
マッドプラントが打撃耐性を持つのなら、こちらは斬撃耐性という特徴を持っている。火属性に弱いのは変わらないが、その他の術式攻撃や属性攻撃に対しては効きが悪いらしい。
クラウスにとってはかなり相性のいい相手となるだろう。逆に相性的に今回はゼファーやミュアが矢面に立つと苦戦することになりそうだ。
「出ましたね! では、真ん中のを私が殴ります!」
「分かった。俺は左端の奴を
「ガウァッ!〔お任せを!〕」
「任せろー!」
「お任せください!」
真っ先に飛び出たクラウスを見届け、俺はグレイにもう一方のバイトプラントを任せて飛び出す。ゼファーはグレイの方、ミュアは俺の方についてくる。
【魔杖術】のレベル上げというわけではないが、ここは接近戦で行く。属性攻撃は効かないしな。
バイトプラントが蔦を伸ばして攻撃を繰り出すので、接近するのを見計らってから『横薙ぎ』で蔦を弾き飛ばす。このアーツ、威力は武器のSTR依存なのでいまいちではあるのだが、手持ちの攻撃の中では一番速く放てるので、こういう攻撃の対処にはちょうど良かったりする。
そして、接近してきた俺に対して頭部を伸ばして噛みつこうとしてくるので、そのタイミングに合わせて『蓮華打』を発動する。
これは敵に対して杖を突く形で連撃を繰り出すタイプのアーツであり、複数体の敵を狙ったり特定の敵に複数回攻撃を繰り出したりする際に用いるアーツだ。一撃のダメージはかなり低いものの、一度のアーツ発動で複数回攻撃が可能となっているため、回数で外れるガード持ちなどの敵と戦う際には役に立つだろう。
まぁ、別にここで『蓮華打』を使用する必要はないのだが、今まで特にこのアーツを使用してなかったのでどういったものなのかを確かめたかったというのはある。
一撃一撃の威力は横薙ぎよりだいぶ低めではあるが、こっちは普通にプレイヤーのSTR依存なのでトータル的には『赫突き』と同程度にはダメージを与えることができるだろう。ただ、それなら改名予定の『強力杖殴り』の方が普通に強いのだが、この点は使い所によるとしかいえないだろう。
「うーん、【魔杖術】の補正が効いてるのか、弱点だからなのか知らないが、結構削れる感じだな。これなら例のコンボは使わなくても良さそうだな」
ミュアも自身が手を出すまでもなく片がつきそうだと判断したのか、全く手を出してこない。
取り敢えず、この戦闘を早く終わらせてできるだけ早く目的となるマッドプラントを倒したい――そう思った瞬間だった。
「フハハハハハハ! その獲物も頂いたァァァ!!」
目の前に居たはずのバイトプラントは、俺の右手側から飛び出してきた筋骨隆々の男の鉄拳によって殴りつけられ、そのまま粉々に弾け飛んだ。
……えっ、植物って拳で弾け飛ぶの? 怖っ!
流石にその光景を見た瞬間は何が起きたのかよく分からなかったのだが、どうやら早々に自分とグレイ側のバイトプラントを始末したクラウスがまだ残っていた俺の方のバイトプラントに対して攻撃してきた、ということになる。
ふとグレイの方を見てみれば、悲しそうな眼差しでこちらを見つめていた。いや、そんな目で俺を見られてもなぁ……。
うーん。さっきまでの朗らかな性格と違って言葉遣いも荒々しいし、かなり好戦的な性格になっているのだが、あれが彼を『破壊僧』と呼ぶ由縁なのだろうか。
どうやら戦闘中はかなりハイになって、ああなってしまうみたいだな。
しかし、やはり『破戒僧』の火力はかなり高く、俺が少し削っていたとはいえ、それをアーツも使わずに一撃で倒してしまったのだから、その実力は確かなものであるだろう。
取り敢えず、味方に危害を加える感じじゃなくて良かった。そういうのは『アシュラモード』で十分だ。
「…………はっ! また、暴れてしまいましたか……」
「あー、戦闘後は自覚あるパターンか……」
戦闘終了後、我に返ったクラウスが周囲を見回して、罪悪感を抱いて項垂れている。
本人曰く、しっかり気を引き締めればまだそこまで暴れなくて済むらしいのだが、俺とパーティーを組んで最初の戦闘だったから緊張して暴走してしまったらしい。いや、どういうことだよホントに。
まぁ、あの火力なら大抵のモンスターは普通に殴り倒せるだろうが……本人が一人では外に出たがらないというのが問題だな。あれだけ暴走するのなら逆に一人でしか行きたがらないようになりそうなのだが……。
まぁ、その点は本人の性格故に仕方のないことなので、この際割り切ることにしよう。
クラウスは久々に野良でパーティーを組んだのでこの状態の存在を説明し忘れていたらしく、そのことをしきりに謝っていた。まぁ、忘れてたなら仕方ないよな……。
その後、幾度かの戦闘を繰り返し、結果として目標数のマッドプラントの討伐は完了したのだが、その全てを暴走したクラウスが倒してしまう事となった。
まぁこっちは楽ができたと考えれば別にいいんだけども……。
クラウスはとても申し訳無さそうに俺に対して謝っていた。この人とパーティー組んでる人、もしかしたらこれを知ってクラウスから逃げたのかもしれないな……。
取り敢えず、クラウスの方も最終的には依頼の討伐数はちゃんとこなせたらしいので結果オーライとしておこう。
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