極稀出現×レア個体=希少種

「すいません、ユーク殿……私がひと足先に帰ってしまう感じになってしまいまして」

「気にしなくていいぜ。クラウスの方はもう期限がギリギリなんだろう? それに俺はもうちょっと狩ってから戻るから問題ないよ」

「そうですか……。いやはや、今回は急なお願いに付き合っていただき、本当にありがとうございます。この恩はいずれ必ずお返ししますね」

「そんな気にしなくていいよ。困っているときはお互い様だしな。……まぁ、また会ったらそのときは宜しくってことで」

「勿論です! ……それでは失礼しますね」


 何とか時間内に依頼を終わらせたクラウスとそんなこんなで話をし、そのまま一度ログアウトすることで開拓の村へと向かったクラウスを見送ってから、俺はもう少しマッドプラントを討伐することにした。


 既に5時過ぎではあるが、集合は夜の8時なのでまだ一時間ちょっとは大丈夫だろう。荒蔦の納品も本日中だったしな。


 確か討伐の方の依頼には10体以上倒せば追加報酬が貰えると書かれていたので、それならばもう少し倒せば儲かるよな。まぁ、どれくらい追加されるのかは知らないが。


「さて、取り敢えず適当に歩いてればマッドプラントに当たるだろ。まぁ、出てくる奴は片っ端から倒す感じだな」

「まっかせろー!」


 ゼファーがやる気満々だ。まぁ、さっきまではずっとクラウスが片っ端から叩き潰していたようなものだったから、ストレスも溜まっているだろう。


 バイトプラントが出てきたら可愛そうだが、それ以外ならほぼほぼ任せてしまっても問題ないかもしれない。


 そうして幾度か戦闘を繰り返したのだが、マッドプラントはちらほらと出てくるもののその数は少なめで、逆にアッシュウルフやホーンラビットの出現が多めだ。


 これは先程までクラウスと一緒に戦っていた時も同じで、なのでクラウスは依頼を達成できたというのもある。


 バイトプラントのほうはだいたいマッドプラントと体感変わらないくらいの出現率となる。


 因みにこれらのモンスターはレベル28程度なので第一エリアの森林エリアの奥よりも少しだけ高い程度となる。


 ただ一度だけ、かなりレベルが高そうなフォレストベアを偶然遭遇前に発見したのだが、流石にヤバそうなのでそこから音を立てないように逃げた。


 他のやつが観察眼で把握できたのに、それは把握できなかったのでレベル30以上は確実だし、なおかつブラッディハウルベアより少し小さい程度の巨体で、あからさまに強者のオーラが漂っていた。俺の判断は間違ってなかっただろう。


 これらの戦闘の途中で俺はレベル30に到達し、またゼファーはレベル28、そしてグレイはレベル30に到達した。今回も基本ゼファーたちに戦闘を任せているので当然、ゼファーたちのほうが多く経験値を得ていることになる。


「ミュアは新しいアビリティの使い勝手はどうだ?」

「そうですね、表立ってはまだ実感はありませんが、補正効果で弓の威力も上がった筈なので問題ないと思います」


 ミュアは、やはりレベル30から31になるのはかなりの経験値量が必要なのか、まだまだ上がる気配は無さそうだ。


 その代わり、習得可能アビリティは更に増え、【観察眼】を習得した。まぁかなり注意深く見ながら探索はしていたから習得可能になってもおかしくはないのだが、戦闘には直接関与しない上に既に俺が持っているので必要はないだろう。


 因みに現在、ミュアがアビリティポイントを使って新たに習得したアビリティは【不屈】【緊急離脱】【精霊弓術】【精霊召喚】の4つだ。


 全てエリアボス戦後に確認して良さそうだと思ったアビリティとなっている。残り5ポイントはあるものの、それをどう使うのかはミュアに任せている。


「グレイは……進化できれば良かったな……」

「クゥン……〔残念です……〕」


 グレイはレベル30になったことで進化可能レベルに到達し、進化条件が表示されたのだが、残念ながらその条件がまだ満たせてなかったので進化できなかった。


 その達成できていなかった条件というのが『アビリティ【レア個体】の効果で入手できるレアアビリティを3個習得』というものだった。例の星マークがついたアビリティのことだな。


 因みに現在までにグレイが【レア個体】の効果で入手したアビリティは、エリアボス戦までの間にいつの間にか獲得していた、自身の感覚がかなり研ぎ澄まされるアビリティである【超感覚☆】だけだったのだが、先程ステータスを確認した際には2つ目となる【体格変化☆】のアビリティを習得していた。


 この効果は自身の体格を変化するという、そのまんまの効果となる。試しに変化してもらうと普段の2m近くの体格から小型犬くらいの小さいサイズに変化した。


 逆に複数人乗れるくらいまで大きくなることも出来るらしいが、そっちの方は変化するのにかなりMPを消費するため、今のグレイにはあまり乱用はできないだろう。


 人の行き来が激しい場所などでは小さくなれると邪魔にならずに済むかもしれない。なお、戦闘時には自動で元の体格に戻る。でっかくなって蹂躙する戦法は使えないようだ。


 取り敢えず現状で習得しているレアアビリティは2個なので残りひとつなのだが、このレアアビリティの習得が完全にランダムなので最悪、レベル上限になっても進化できない可能性もある。


 とはいえ、このレアアビリティの習得タイミングは掲示板によるとレベルアップではなく戦闘終了後に抽選されているようなので、戦闘を多くこなせばそれだけ進化のタイミングは早く来ることとなるだろう。


「しかし、俺が新しく習得した【魔杖術】はどう扱うものかなぁ……」


 ついでに俺の技能アビリティについてだが、【中級杖術】と【魔杖術】のアビリティレベルがそれぞれレベル4とレベル2になったので、新たに『飛突』というアーツと『エネボール』というスキルを習得した。


 『飛突』は中級杖術アーツの一つで、オーラを杖の先に溜めてから勢いよく突くことで目の前にそのオーラを飛ばすという技になる。【杖術】では習得できなかった遠隔攻撃になるが、目の前にまっすぐしか飛んでいかないため使い勝手は悪そうだ。これも威力はSTR依存となる。


 『エネボール』は魔杖術スキルの一つで、一定サイズのエネルギーで形成されたボールを杖の先に作り出すというものであり、これ単体でそこまでしかできないのだが、エネルギーボール自体は一定時間存在する上にこちらから干渉することが出来るため、『横薙ぎ』等で衝撃を与えるとノックのように飛ばすことができる。


 こちらのエネルギーボールは当たればINT依存のダメージを与える他、衝撃による追加ダメージも与えられる。おそらくは今後の【魔杖術】のスキルやアーツに関連するものがあるのだろうが、今のところは取り扱いが難しそうという印象だ。


 まぁ、攻撃手段が増える分にはありがたいんだがな。今後の習得スキルやアーツに期待することにしよう。


「やっぱりレベルは30以降そうそう上がりそうに無さそうだな。取り敢えず、次の戦闘をこなしたら開拓の村に戻るか」

「分かりました。では、最後の戦闘ですね! 頑張りましょう!」

「あぁ、そうだな。……あ、そうだ。せっかくだしメルカの店で買ったお香でも試してみるか!」


 確かレア個体が出やすくなる……かもしれないお香と言っていたが、ゴールデンスライミーが一定時間出やすくなるお香とは違い、こっちの方は一度きりの効果らしい。次の戦闘で出なかったらハズレということになる。


 本来なら皆がいるときに使おうと思っていたが、レア個体と好んで戦いそうなのが俺とレンくらいしか居ないので、別に今使っても問題ないだろう。


 あまり先の方で使うとハイレベルモンスターが出てくるかもしれないしな。それに見たことないレア個体ならテイムに挑戦してもいいだろう。


 そしてお香を使用した瞬間、突如として戦闘フィールドが形成されて戦闘が開始される。敵がいないにも関わらずだ。


 この現象は、確か極稀出現のモンスターが初めて出現するときの現象だった筈だ。


 ……ということはお香は失敗か? まさか間違ってゴールデンスライミーとか出るやつ売ったんじゃないよな?


「なんだ!? 敵もいないのに戦闘が始まったぞ!」

「落ち着け! 多分、そろそろ姿を表すはずだ! ……ほら、あそこだ」


 ゼファーが慌てて周りを見回している中、俺は目の前の地面を見る。そこには一株の花が生えている。


 すると、その株がもぞもぞと動き出し、目の前に人によく似た顔と緑色の髪を持った頭部が現れる。そしてゾゾゾゾゾという擬音を立てながら、それは地面の中から姿を表した。


「――――ッ!」


 声にならない声を上げたそれは、植物のような蔦を全身に纏う幼い少女の姿をしたモンスター。ヒトと違う点はその頭頂部に大きな一輪の花が咲いているという点と、服装が全て植物の蔦であるという点。


 俺が記憶する限りでは、その特徴に当てはまるのは極稀出現の『アルラウネ』というモンスターだ。


 アルラウネはβテストの頃から極稀に出現する植物型モンスターであり、人型に近くなおかつ可愛らしい容姿をしている事から多くのプレイヤーから好まれ、βテスト中はこのモンスターをテイムしようとして夢半ばに破れたプレイヤーが多かった。


 βテストでは比較的早めに出てきていたのだが、サービスでは姿を表していなかったので非実装かと言われていたが、そうか第二エリアで出現する形になっていたのか。


 しかし、俺が知っているアルラウネは確か全身が真緑で、いかにも人型の植物って感じのモンスターだった気がするんだが、いつの間にこんなペールオレンジ色の健康的な肌になっていたんだろうか。


 全身の蔦と頭の花、そして瞳が真っ黒なこと以外はほぼほぼ人間族にそっくりな見た目だ。


 前の方は、モンスター娘好きな人の中でも好き嫌いが別れる感じで、特にあの緑色の体色がダメって人がそこそこいたからな。


 そう思っているとゼファーはそのモンスターの姿を見て、別のモンスターの名前を呼んでいた。


「おい相棒! こいつ、ドライアドだぞ! 樹霊っていうおいらたち精霊の仲間だ!」

「ドライアド……? えっ、アルラウネじゃないのか?」

「……はい。ドライアドはアルラウネのレア個体なのですが、こっちは精霊族に当てはまるんです」


 同じく精霊の存在を感知できるミュアが自身の憶測を語る。確かに頭上のモンスター名を見てみれば『ドライアド【レア】』とレア個体であることが記載されている。


 実はグレイと戦闘してたときも頭上に『シルバーアッシュウルフ【レア】』と記載されていた。今もステータスの種族名にも同じように書かれているな。


 どうやらあのお香はしっかりと仕事は果たしてくれたようだ。疑ってすまんメルカ。


 しかし、ただでさえ極稀出現のモンスターのレア個体が現れたということは、もしかしなくてもレア中のレアで『希少種』ってやつなのでは?


 これは……久々のテイミングも骨が折れそうだな……!




 ――――――――――――――――――

・クラウスの『暴走』と精神干渉の存在についての補足。


 前ページにてクラウスが暴走している状態が、ゲーム内で『暴走状態』という状態異常があることもあって少し分かりづらい状況だったので、精神干渉等の存在にも触れながら補足します。


 クラウスの場合、自身の性格や、ストレスや緊張等で、内在していた破壊衝動などが表に出てきて暴走してしまっているという状態になります。

 いわゆる、戦闘中だけ性格が変わるようなタイプになります。なのでシステムは一切介入していません。


 対する『暴走状態』は、怒りを湧き上がらせて暴走させる状態異常という設定にはなっていますが、実際にはシステム上でアバターデータが一時的にプレイヤーの精神データから切り離され、プレイヤーの意志や操作と無関係にアバターが動作して暴れている、という状態になります。なので『暴走状態』中のプレイヤーの意識はそのままになります。

 対して、NPCのミュアの場合はアバターの存在ではないので、直接精神に干渉して本当に怒りを湧き上がらせて暴走させています。


 理論上はプレイヤーに対しても意識データに介入して精神を操作することで暴走させることも可能ですが、『フルダイブVR』の話で触れた『フルダイブ新法』において、フルダイブVR技術を用いて精神や内面意識に介入することは禁止されているという設定なので、理論上行えたとしてもやれば犯罪になるので出来ません。


 アルターテイルズを始めとしたフルダイブVRを用いたゲーム類ならびにフルダイブ新法においては、精神データとアバターデータは全く別のものとして扱われています(精神データは元からあるもの、アバターデータはゲームで作成されたもの)。

 NPCに関しては、ゲームで作成されたものとなるので規制対象にはならないという扱いです。


 ただしアルターテイルズのNPCに関しては、βテスト時点でNPCがあまりにも人と近しい思考や挙動をするため、規制対象にするべきか否かの議論が発売前から行われていましたが、結論は未だ出ておらず、現状は従来どおりの規制対象外となっています。

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