顔合わせ

 それから、『クロノス』とサトルのパーティー以外の参加メンバーが続々と司法ギルドの方へと到着し、俺達と合流することとなった。


「久しぶりだなレン……といっても、日曜に会ったばかりだからそうでもないか」

「待ってたぜ、オークラ。それにリックにユーリカ、ナナミも。あと、サイモンもな」

「もー。こんな面白そうな事起きてるなら早く連絡しなさいよねー! それにしても疲れたわぁ」


 無事に辿り着いたフライ・ハイと暁の戦姫のメンバーは、第二の街に到着するやいなやで司法ギルドに直行してきた。


 オークラはそうでもないが、リック・ユーリカ・ナナミの3名はかなり疲労感が見えている。大変そうだな。


「ユーニィ! やっぱ、ユーニィは凄いな! ワールドイベントまで発生させるなんて!」

「うん。流石は私達のユー兄さん」


 ハルとユキにはこのワールドイベントを発生させたということで、尊敬の眼差しで見つめられてしまったが、俺は別に発生させたくて発生させたわけじゃないんだよ……。


 その後、シグねぇとメルカの二人にオルカから伝えられたことを説明し、メルカをレイドイベントに参加させるかどうかを決めてもらう。


 因みにサイモンは最初から戦力に数えているし、本人もやる気満々だったので特に気にしてはいない。


「そうね……確かに現地でアイテムを作ってくれる人が居れば助かるけど、それはユーくんたちのナサちゃん……だったかしら? その子でも十分なんじゃない?」

「うーん、それは確かにそうなんだよなぁ〜」


 一応、ナサは第二エリア到着後、自身の【錬金術】のアビリティレベルやジョブレベルを上げるために色々なアイテムの錬成を行っていたらしく、その点で言えばメルカのアイテムほどではないがそれなりの性能の回復アイテムは製作可能となっている。


 それに錬金賢者メイガスは錬金釜を武器として登録できるので、それこそ戦闘中であっても釜を使った錬成ならば其の場で実行可能となっている。


「取り敢えず、メルカ本人がどう思ってるのかを俺は知りたい」

「う〜ん……私としては確かに戦闘は怖いけど、やっぱ前回のサソリのやつでみんな楽しそうにしてるのがやっぱりねぇ……」


 メルカ本人としては、あまり戦闘には乗り気ではないものの、それでも折角チームを組んでいるのに自分だけお留守番だったり見学だったりするのが気がかりだったらしい。


 第1エリアの新規フィールドを発見したときのエリアボス戦に参加できなかったのが、どうやら気になっているようだな。


「まぁ、前々から私みたいな薬師が戦う手段とやらは気にしててねぇ。だから一応、アイテムを使った攻撃手段を考えてて…………こいつを作ったわけですよ」


 そう言ってメルカが取り出したのは一つの黒光りする丸い球体だった。


 これはまさか……!


「まさか、爆弾……なのか、これ? しかも、めちゃくちゃアニメとか漫画に出てくる感じの丸いやつ!」

「そう、その通り! 天才メルカちゃん、ついに火薬の調合に成功したのである!」


 これまでこのゲームで攻撃アイテムとして使用できたのは一部の魔術系の生産職で作れた魔術スキルを組み込んだアイテムか、ナイフやクナイ・手裏剣などの投擲アイテムくらいだったのだが、まさかそこに火薬が加わって爆弾が生み出されるとは思わなかった。


 いや、むしろ今まで無かったというのが不思議だったのだが、その理由としてはやはり火薬の調合に必要な素材が分かってなかったというのが大きいだろう。


 このゲームの世界に、現実と同じような素材がそのままあるのかといえば、無いものもそこそこ存在している。


 似たようなものから探したりする必要もあるし、中には全く予想できなかった組み合わせから出来る可能性も無くはないわけで。


 そうなると最早手当たり次第に作るしかないのだが、メルカはそこを見事探り当てたということになる。


「まぁ、今のところは爆弾もどきみたいな感じで火力もあんまりだし、試作段階だから量も少ないけど……それでも、私も参加させてほしいな。そのレイドイベント」


 そう言うメルカの表情は硬い。やはり足手まといにならないかと感じているのだろうか。


 そんなメルカの顔を見て、シグねぇは微笑む。


「勿論よ、メルカ。仮に戦えなかったとしても、あなたが参加したいと思ったのなら私達は反対しないわ。だって、仲間ですもの。……でも、これまでの道中で説明したかったのはなんでかしらぁ?」

「うっ……それは、できれば普通の戦闘は、普通にスルーしたかったかなぁ〜って……」


 ググイと顔を近付けて不満の顕にするシグねぇに対し、メルカは苦笑いを浮かべながらその目から顔を逸らす。まぁ、全部が全部乗り気というわけではなさそうだというのは、うっすら分かっていたが。


「アハハ……。そういう事は早めに説明しておいたほうが良かったかもな……」


 そんなこんなでメルカの参戦も無事決まった。むしろ、メルカ自身が爆弾を使って戦闘できるのなら戦力も幾らか上がるかもしれないな。


 ナサも爆弾の話を聞いていたのか、色々と話をしたがっている様子だ。メルカも歳の近いプレイヤーと話はしたことはあっても、更に生産職となるとそこまで話をしたことも無さそうだから、結構嬉しそうだ。


 他にはサイモンさんとサザンカさんも早速、合わない間に作れるようになったものや気付きなどを意見交換しあっている。


 こうして、生産職同士で何かしらの情報を探り合っているようだな。うん、楽しそうだ。


 そして、フライ・ハイと暁の戦姫の到着から少し遅れてクラウスのパーティーが到着し、合流する。


「いやはや、すいません。少し遅くなりました」

「いや、全然時間はあるから大丈夫だよ。それで、この人たちがクラウスのパーティーメンバー?」


 そう俺が聞くと、「その通りです」と答えるオークラ。そのパーティーメンバーはいずれもクラウスに負けず劣らずの筋骨隆々のマッチョメンだらけだった。


「俺達は以前からクラウスさんの筋肉に憧れていてな。バトルロイヤルでは最後まで果敢に挑んだんだが、流石に負けちまってな……それから弟子にして貰おうと掛け合ったわけよ」


 そのマッチョメンのリーダー格らしい、口の周りにヒゲの生えたスキンヘッドの男性が答える。彼の名前はダンケルというらしい。ジョブは僧侶モンクである。


 どうやら、クラウスに憧れを抱いたビルダーたちのパーティーのようで、5人ともクラウスを師として崇めていた。


 何だかんだ相性も良さそうで、クラウスが言うには彼らと一緒だとそこまで暴走することは無くなったらしく、テンションが上がってもいつもより冷製でいられるようになったのだとか。


 なんというか、クラウスの暴走がだんだん第二人格みたいな感じになりつつあるのが恐ろしい気がするのだが……。


 まぁ、本人がそれで良いと思っているのなら、それはそれで良かったのだろう。パーティーメンバーもいざというときは5人がかりなら止められると自負しているので、多分大丈夫な筈だ。


「俺はマッチだ。ジョブは筋肉番長マッスルリーダーだ」

「私はボルカン。ジョブは武闘魔術士バトルマジシャンです」

「俺っちはキーカス! ジョブは武闘家ナックルファイターだ」

「俺はシグナー。ジョブは拳闘士グラップラーだぜ」


 金髪の男性がマッチ、黒髪の男性がボルカン、赤い髪の男性がキーカス、青い髪の男性がシグナーというらしい。正直、ダンケル含めて全員がプロレスラーみたいにパンツ一丁にベストのようなものを羽織っているだけの格好なので、違いが髪と同じ色の衣装と武器の種類くらいしか無い。


 因みに筋肉番長マッスルリーダーなんてジョブは聞いたことがなかったのだが、どうゆらユニークジョブの一つらしい。


 その習得条件がゲーム内で筋トレを何時間行うとかいうものだったらしいので、おそらくはネタ枠的なものなのだろうと思うが、防具制限が発生する代わりにSTRとVITが物凄く上がるジョブで、仲間の前にいるとそれらが更に上昇するので、火力や防御は決してバカにはできないレベルとなっているようだ。やはりユニークはユニークなのである。


 他のジョブは普通のクラス2の武闘系ジョブだった。まぁ、この系統のジョブの近接戦闘がバカ火力なのはハルで確認済みだ。武闘家なんて、魔術系のステータスを捨ててSTRをかなり重点的に上げる典型的な武闘系ジョブだ。


 ただまぁ、相手が悪魔っていうので、対魔術に対して少し弱めなのが気になるところだが、一応アクセサリーで状態異常耐性は備え付けているらしい。まぁ、その点はなるようになるしかないだろう。意外と向こうが物理攻撃に弱い可能性もあるわけだし。


 なお、武闘魔術士バトルマジシャンはハルの仙闘士ハーミットファイターと同じ魔術系統のスキルも使える武闘系ジョブとなる。クラス的には下位互換なのだが、こっちは仙術ではなく魔術を扱うので単純な比較は難しいだろう。


 また、シグナーの拳闘士グラップラーは確か第二の街のコロシアムで行われるNPCの武闘大会で勝利するのが条件だったので、この中では一番ジョブレベルが低そうだったが、どうやら今日届いたジョブチェンジチケットを使って前のジョブのレベルのまま変更したようだ。なので特に差はないみたいだ。


 取り敢えず、戦闘能力的にはあのクラウスにあと一歩及ばないレベルということらしいので、外見はともかく全員かなりの実力の持ち主なのだろう。


 俺達は貴重な戦力として、彼らの参加を歓迎することにした。


 ただまぁ、女性陣からは少し不評だったのだが、そればかりは仕方ないだろう……。


 ナナミの反応だけ、少し様子が変だったようだが、それは気にしないでおいてあげることにしよう。うん。

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