フラワリング・デイズ

 次に訪れたのはキャンティが勧めてきたチームだった。どうやら6人それぞれが別の種族となっているようで、ナサ以外では初のメカノイド族を選んだプレイヤーがいた。というか、人間族のプレイヤーがひとりも居ないな。珍しい。


 なんともバラエティ豊かなパーティーとなっているが、確かこのチームの名前は……。


「はじめまして! チーム:フラワリング・デイズのリーダー、ガーベラだ! 今日はよろしく頼むぞ!!」


 人一倍声の大きな女性が前に出てから俺たちに挨拶していく。竜人族のプレイヤーのようだ。


 彼女は真っ赤な鎧装束のような格好を纏っており、女性ながらかなりカッコいい。ジョブはどうやら侍系統のものを選んだようだ。


 侍系統のジョブは【刀剣術】の習得が必要条件で、あとはクラスごとに討伐数やアーツの発動回数などが条件であったはず。


 聞けば彼女はクラス3の大剣豪サムライハイブレイダーを習得していたようだ。


 パーソナルレベルに対してジョブレベルがやや低めとなっているが、どうやら最初はクラス1ジョブの戦士ファイターで【刀剣術】などを育成しつつ、ジョブマスターレベルに到達した事で手に入れたジョブチェンジチケットで大剣豪へとジョブチェンジを果たした、いわゆる正統派なクラスチェンジプレイヤーのようだ。


 その背景には、無理にチュートリアル中に上のジョブを目指すよりもさっさと終わらせてレベルを上げて、早く強くなりたいという思惑があったらしい。ステータスに多少の差はできるだろうが、それはプレイスタイルや装備でどうにかなる話でもある。


 とにかく陽気で明るい性格の女性という感じで、おそらくこの人を中心に人が集まってきてできたチームなのだろうと、少ししか話せてないが納得できた。


「他のメンバーも紹介しよう! まず、大司祭ハイプリーストのアイリスだ!」

「ご紹介に預かりましたアイリスでーす。よろしくねぇ〜」


 おっとりした感じ現れたのはエルフ族のプレイヤーだ。大司祭らしく、白の修道服を身にまとっている。似たようなジョブのクラウスとは比較にならない似合いっぷりだ。いや、あれを比較とするのはなんか違う気がする。


 大司祭は司祭系のクラス3ジョブで、司祭プリーストの条件を満たした上で、教会で行われる特殊クエストをクリアすると習得できるジョブとなっている。オークラさんの神殿騎士テンプルナイトやリリーの護衛侍女メイドガードナーと同じクエスト系のジョブになるな。


 回復系統としては最大級となる範囲蘇生のスキルである『エリアリザレクション』を習得することができる唯一のジョブとなっており、回復役のジョブとしてはユニークを除けばおそらくトップの性能となるだろう。これはかなり心強い。


 因みに彼女は司祭系のジョブなので神聖魔術が使用可能とのこと。これは戦力としても期待できそうだ。


「次は展開盾士エキスパンダーのリンドウだな」

「リンドウだ。見知った顔が何人かいるが、よろしく頼む」


 次に紹介されたのは犬耳を持った獣人族の男性プレイヤーだ。甲冑を纏っており、かなり守りに徹したスタイルを取っているようだ。


 ジョブは盾士系のクラス3ジョブである展開盾士だ。このジョブは装備した盾の他にアクセサリー欄に3つまで盾を装備することが可能となる。そして、その盾を展開――つまり宙に浮かせて使用することが可能となる一風変わったジョブなのである。


 盾が4つなので防御性能は普通の盾士よりもかなり高く、またそれらを攻撃の手段としても使えるため、単純に手数が多いという特徴がある。彼は今日配布されたジョブチェンジチケットで変更したようで、その前は普通に盾使いシールダーだったようだ。


 かなりぶっきらぼうな性格のようで口数は少ないものの、オークラさんやクラウスとは知り合いのようで彼らとは気さくに話をしていた。悪い人ではないのだろう。


「そんで、次! 破砕戦士ブロークンファイターのグラージオだ!」

「うむ、儂がグラージオだ。孫に勧められて始めたが、まさかこの年になってここまでハマってしまうとは思わんかったよ。よろしくの」


 次に紹介されたのはドワーフ族の男性プレイヤーで、お孫さんがいる歳のお爺さんだった。まぁ、上限年齢はないから誰がやっても問題はないだろう。髭がデフォルトで生えてて、年相応と思ってドワーフ族を選んだらしい。ただそれは、スキャン時に特徴を取り込んでいるだけなので、多分デフォルトじゃないです……。


 本人も普段は動かせない体を思いっきり動かせるととても楽しんでいるようだ。


 因みに破砕戦士は戦士系のクラス3ジョブで、槌や斧に特化した戦士となる。破壊力に特化したアーツを習得する事が多く、ドワーフ族にピッタリのジョブの一つだろう。因みにグラージオさんも今日ジョブチェンジしていたようだ。


「次は……君だ、サイサリス。彼女は黒魔導士ブラックウォーロックだよ!」

「フヒヒ……。あたし、サイサリス。よろしく」


 その次に紹介されたのはハーフリング族の少女で、何とも根暗そうな話し方をしていた。格好はナナミのものと然程変わらないようだ。


 黒魔導士は魔術士系のジョブの中でも異質で、黒魔術と呼ばれる系統の魔術スキルしか覚えない。黒魔術は呪いをメインとするため、非常に印象が悪いがデバフ要員としてはかなり強力なジョブとなる。


 確か、特殊なNPCとのイベントを発生させることで習得可能となるジョブで、本サービスではそのNPCが見つかってなかった為に、まだ誰もなれては居なかった筈だったが、どうやら彼女はそのNPCを見つけ出して習得してしまったようだ。


 悪魔にデバフが通じるかは不明だが、普通に攻撃することも可能なので問題はないだろう。


「最後は幻影騎士ミラージュナイトのリコリスだな!」

「リコリスよ。まさか私以外にメカノイドを選んでる子が居るなんて思わなかったわ。よろしくね」


 最後に紹介されたのはメカノイド族の女性プレイヤーだ。彼女はメカニカルなボディの上から近未来的な鎧を身に纏っている。下手すれば小型の人形ロボットそのものだ。


 彼女が習得している幻影騎士は近接戦闘向けのジョブだが、一部魔術スキルを使用できる。確か、バトルロイヤルで最後に戦ったうちの片方がそれらしいジョブだったな。


 この幻影騎士、守りメインの神殿騎士とは別の傾向でかなり硬いジョブとなっている。理由はエリアバリアなどを敵に見えないように展開することが可能なことと、その手のエリアバリアを幾層も重ねて展開することが可能な点にある。


 バリアは破られればそれまでだが、大量に重ねたらかなりの威力減衰となる。バトルロイヤルの時にそれをやられていたら、もしかしたら『緑精の大旋風テンペスト・ゼファー』も耐えられたかもしれない。まぁ、その時には相手もMPが切れかけていただろうから出来なかったのだろう。


 攻撃系統が魔術混じりなので、魔術士系のジョブにつけなかったメカノイド族とは珍しく噛み合っているジョブと言えるだろう。まぁ、今はもうその縛りも緩くなっているのでなんとも言えないのだが。


 因みに彼女がメカノイド族を選んだのはメカメカしいボディがカッコよかったからであり、まさかここまで酷評されている種族だとは思ってもなかったらしい。今はもう愛着もあるので変えるつもりはないようだ。


「取り敢えず、これが私達のチームだ! さて、ワールドイベントの発生者くん! 私達はどうかな? 採用か? 不採用か?」

「文句なし! 流石はキャンティの紹介だ! よろしく頼むよ!」


 ほぼ俺の一存ではあるが、フラワリング・デイズの面々の参加は決まった。まぁ、他の面々も反対する気配はなかったので問題はなかっただろう。


 しかし、全員のプレイヤー名が花の名前だから『開花の日々フラワリング・デイズ』というチーム名なのだろうか? まぁ、意味は気にしないでおこう。


 そしてフラワリング・デイズの面々は他のメンバーとも挨拶をする。


 因みにこの中でβテスターなのはリーダーのガーベラとアイリス、そしてリンドウの3名となっている。彼らは基本的にβ時代からいるプレイヤーに話をしていく。キャンティはそんなメンツの顔繋ぎみたいな感じになっていた。


 残りのグラージオ、サイサリス、リコリスだが、グラージオは意外にもプロレス好きらしく、あの筋肉パーティと盛大に話をしており、サイサリスとリコリスについては歳が近いであろうリーサやナサたちと話をしている。


 特にリコリスとナサはメカノイド族についての話をしているが、リコリスが一方的に話をしていて、それをナサが聞いているような感じだった。


 因みにサイモンさんとサザンカさんは参加メンバーの装備の耐久値の回復を引き受けているので、必死に頑張っている。俺たちも手伝うことがないかと思ったが、むしろ邪魔になってしまうし、それなら一緒に戦うメンバーと仲良くなってこいとサイモンさんに諭されたので、こういう歓談の時間になっている。


 ひとしきり話をし終わった後、ログイン時間の調整のためにそれぞれキリのいいタイミングでログアウトしていく。


 今回はワールドイベントの特殊仕様で参加メンバーはログイン時にこの司法ギルドに直接出現する。


 レイドコネクト使用状態で参加メンバーの判定がされるようなので、既にレイドコネクト状態の彼らもログイン時には直接ここに現れる形となる。


 取り敢えず、サトルのパーティーも『クロノス』も到着までまだしばらくかかるだろうから、晩飯も兼ねて俺もログアウトすることにしよう。

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