はじまりの街とステータス確認

「ここが、はじまりの街か」


 俺が立っていたのはゲーム開始時に全てのプレイヤーが立ち入ることとなる、はじまりの街であった。


 周囲は赤いレンガ造りの建物だらけで、時々木造の建築がある。四方に道が続いており、その先には街の外に通じる門が見える。あそこからフィールドエリアに向かうことができるのであろう。


 正直、街はうす汚く見えるため、早く市街地エリアを抜けて話題になった景色を見たいが、ゲーム開始したからにはまずは動かし方を確認する必要がある。


 右手左手、右足左足と動かすが、現実世界と同じように動く。別の部分が動いたり、遅延が起きたりはしないようだ。


 次にステータスなどの確認を行う。


 武器に関しては得意武器に選んだ『杖』カテゴリーの、ステータス追加のない『初心者の杖』をメイン武器として持っていた。サブ武器としてもう一つ武器を持てるが、現状は他に武器はない。


 防具も特にステータス追加がない、見た目だけの装備である『初心者の革鎧』を上下、それぞれ胴体と腕、腰と脚と靴に装備しているという状態だった。防具の場合、ものによっては複数の部位に渡る場合がある。


 他の頭・掌・外套の項目には何も装備していないため『なし』の表記だ。そして、当然ながらアクセサリーもない。


 次にステータスだが、ステータス値やアビリティは設定したものはそのままであったが、見覚えのないアビリティが二つ付いていた。そう、ランダムアビリティだ。


 ランダムアビリティは、完全にランダムで択ばれるため、強力なアビリティを習得する場合もあれば、全く使用方法が分からない謎アビリティを押し付けられてしまう場合もあるため、過度な期待はできない。


「ふむ……【緑の息吹】に【黒龍の印】か。【緑の息吹】は確かエルフの種族アビリティにそんなのがあったような気が……あ、確かに書いてあるわ。へぇ、ランダムアビリティって種族アビリティすら覚えられるのか。凄いな」


『【緑の息吹】:効果アビリティ。所有者に風属性のベールを与える(物理・魔術関わらず、一度だけダメージ無効)。ベールが剥がれた後はその戦闘中は復活しない。エルフ族の種族アビリティ』


 説明の通り、【緑の息吹】はエルフ族の種族アビリティとなる。種族アビリティとはその種族限定で覚えることができるアビリティである。人間族にはない。


 ランダムアビリティとはいえ、種族アビリティを他種族が覚えられるのはある意味バグではないだろうか。


 一応運営にその旨をまとめたメールを送るが、瞬で戻ってきたメールには『仕様です』ということが簡潔に記されていた。まぁ仕様ならば問題ないだろう。


 効果的にはその戦闘中で一度だけダメージを無効にしてくれるバリアを張ることができるというもの。単純にHP以上の耐久性能を持つことになるため、かなり有益な効果だ。まぁ、どんな攻撃でも対象となるようなので、どうでもいい攻撃で剥がされることも多いだろうが 。


 これが【竜の息吹】とかだと完全に攻撃用の技能アビリティになる。因みにそっちは竜人族専用の種族アビリティだったはずだ。


 そして、もう一つの【黒龍の印】は完全に用途不明の謎アビリティであった。竜人族の種族アビリティかとも思ったが、アビリティの説明欄も未記入であるため、どうやら未実装の項目に関連するもののようであった。まぁいわゆるハズレ枠である。


 因みにアビリティは忘れると習得可能リストにあったものは再度習得可能リストに戻るが、ゲーム開始時のものは習得可能リストになかったアビリティなので、習得可能条件を満たす必要がある。


 つまり、【緑の息吹】や【黒龍の印】は忘れると、後者はともかく前者の場合は二度と習得できない。まぁアビリティは基本的に習得数の制限がないので忘れさせなければ問題ない。


「ランダムアビリティはあってないようなものだと思ってたから問題ないな。よし次」


 次に所持品の確認。ゲーム開始時に与えられるアイテムは得意武器の他には、幾つかの回復アイテムと初回特典のランダムアイテムボックスがある。


 回復アイテムに関しては省略するものの、肝心なのはランダムアイテムボックスである。


 ランダムでアイテムを入手することができる仕様なのだが、初回特典のものは基本的にアイテムランクの☆5以上が確定となっている。


 アイテムランクとはアイテムの希少度を表しており、単純に☆5相当のアイテムは序盤では入手できないため、便利なアイテムならば使ってしまえばいいし、微妙なアイテムなら売ってしまえばそれなりのお金になる。


「さて、ランダムアイテムボックスは……あ、一応宝箱に入ってるって感じなんだな」


 ストレージを開いた時に中身が分からないようにするためにわざわざ宝箱を用意するとは、なかなか粋な運営である。


 ユークがまずひとつ目の宝箱を開けると、中から出てきたのは薄緑に光る大きめな水晶のような石であった。


「何だこれ……えっと、『精霊石【風】』って、まさかまたエルフ向けのやつ?」


『精霊石【風】(☆5):精霊の力が宿った結晶でエルフ族が用いる精霊武器や防具の素材になる。風属性の大精霊が好む』


 説明欄にもエルフ族が用いる精霊武器や防具の素材になると書かれているため、エルフ族向けの強化アイテムで間違いないだろう。


 流石にエルフ用の武器や防具は人間では装備できない。


 売ってしまえばそれなりの金額が手に入るだろうが、ユークは最後の一文が気がかりとなる。


「風属性の精霊が好む……か。これがどういう意味かは分からないけど、こいつを使えば精霊と出会えるかもしれないな」


 精霊は確かβテスト時代には発見されていない筈だ。その精霊と出会うチャンスが仮にあるのだとすれば――。


「取り敢えず、大事に取っておこう」


 俺は精霊石【風】を大事にストレージの中へとしまい込む。


 次に2つ目の宝箱を開けると、そこに入っていたのは――。


『幸運の眼鏡(☆5):アクセサリー。幸運の女神が作った最高の眼鏡。装備することでMPが増え、運が良くなる。

 MP+50、アビリティ【幸運】追加』


「ここでも眼鏡かよ!」


 ついついツッコんでしまったが、かなりヤバメのアクセサリーが来てしまった。【幸運】の効果は運がすごく良くなるということが、回りくどく書かれていたが、単純にスキルの成功率が上がるものだと捉えても良さそうだ。更にMPも結構上げてくれる。


 これは最早装備しないという選択肢がないレベルの当たりアイテムだ。


 しかし、どうやら俺はゲーム内でもメガネから離れられないということが明らかになってしまう。


 まぁ、これも快適なゲームライフの為だから仕方ない。クソダサメガネじゃなくて、ちゃんとオシャレなデザインの眼鏡であったことが、せめてもの救いだ。


 ――――――――――――――――――


 名前:ユーク

 Pパーソナルレベル: 1

 種族:人間族

 得意武器:杖

 ジョブ:来訪者


 HP:105 / 105

 MP:160 / 160(+50)

 STR:20

 VIT:5

 INT:20

 MIN:5

 AGI:5

 DEX:30


・アビリティ(0ポイント)

【杖術 レベル1】【テイミング レベル1】【友好化】【緑の息吹】【黒龍の印】【幸運】

・スキル

『テイミング』

・アーツ

『強力杖殴り』


〈装備〉

・武器

 メイン:初心者の杖

 サブ:なし

・防具

 頭:なし

 胴体:初心者の革鎧(上)◎

 腕:初心者の革鎧(上)

 手:なし

 腰:初心者の革鎧(下)

 脚:初心者の革鎧(下)◎

 靴:初心者の革鎧(下)

 外套:なし

・アクセサリー

 幸運の眼鏡

 なし

 なし

 なし

 なし


 ――――――――――――――――――


 ステータスにあるプラスの数値は装備による追加分だ。ステータス値自体には既に加算されているが、装備での追加分が一目で分かるように追記されている形になる。


 装備の二重丸の部分は複数部位に装備することになる防具で、実際に装備している箇所を示している。


 この印が無い部位に別の防具を上から装備しても、他の同じ名前の防具は装備したままとなる。逆にこの印がある部分の防具を変えると他の部位も全て外れてしまうので注意したい。


 戦闘や生産活動において、重要となるのがスキルとアーツだが、その扱いはよく似ている。その違いは、スキルはMPを消費し、アーツは行動ゲージを消費するというものだった。


 ここで登場する、行動ゲージとはなんぞやという話だが、行動ゲージとは戦闘中に通常攻撃やアーツ、移動や防御、回避などのとにかくスキル以外の行動で消耗するゲージのことだ。


 消耗すると一定速度で回復する仕様となっており、いわゆるスタミナのようなものだ。ゲージが無くなってしまうと、スキルも含めて一定時間何も行動できなくなるため、隙だらけとなってしまう。


 HPやMPと違って、その数値を増やすことはできないため、行動ゲージの量には注意して行動する必要がある。特にアーツは消耗が激しいので、連続で使ったらそのままゲージが枯渇して、敵から総攻撃を受けることは間違いないだろう。


 さて、これで確認すべき項目は一通り見たことになるので、あとは装備を整えてから、レベル上げをしつつテイムモンスターを探して、レベル10となって従魔士になるだけである。……上手く行けば。


 ここでチュートリアル開始を選択すれば、チュートリアルモードと呼ばれるお一人様モードで、戦闘方法やはじまりの街の各種設備の説明などを聞いて、経験値とお金が貰えるのだが、今回はその工程はスキップすることにする。


 戦闘以外でレベルが上がってしまってはテイムするチャンスが格段に減ってしまうからだ。


 色々気になってしまうところもあるが、そういった施設は後からゆっくり見ればいい。


 取り敢えず、今はテイミングを試しながらレベルを上げるのが先決である。


「それじゃあ、チュートリアルはスキップ、っと」


 メニューでチュートリアルをスキップするという項目を開き、それに対して『はい』と選択すると、周囲にそれまで居なかったプレイヤーの姿が映るようになる。


 因みにその項目を開いて初めて知ったが、チュートリアルモードは途中でやめない限りはレベル10でジョブを獲得するまでそのまま進めることができるようだ。一応、ジョブ習得イベントの『神々の洗礼』までがチュートリアルイベントという扱いらしい。


 他のプレイヤーに邪魔されずにモンスター狩りをしたい場合は、割とチュートリアルモードで進めるのもありかもしれないが、それでもチュートリアル完了後の経験値が大きいので、狙っているジョブがあればやはり使えないだろう。


 取り敢えず、チュートリアルのことはここまでにして、早々にゲームを進めることにしよう。


 蓮司やシグねぇに置いていかれてしまうからな。


「さて、想定外の装備で図らずともMPが増えてしまったわけだが……装備を新調するとしても、まずは防具優先だな」


 ログインボーナスとして資金を5000FG所持している。因みにFGは『フロンティアゴールド』の略称らしいのだが、ゲーム中では説明はない。


 このお金でどれだけの装備を入手できるか……最低限、VITはある程度上げておきたい。


 取り敢えずまずはNPCの店を見てみよう。


 マップの情報によれば、はじまりの街の中心にあるこの噴水広場から西門の方に行く通りが装備系のNPCの店が多いようだ。


 まだゲーム開始直後なためか、噴水前の喧騒は収まる気配はない。ここにいると耳が悪くなりそうな気がするので、取り敢えず早々に立ち去ることにしよう。


 どうせここに知り合いなんていないからな。




 ――――――――――

(8/14)【緑の息吹】のアビリティ説明を修正しました。ゲーム内で一度きりではなく、該当の戦闘中に一度だけ発動する効果アビリティとなります。次の戦闘時には再度発動します。

 また【緑の息吹】の描写的に、耐久値があるというよりも『一度だけダメージ無効』の方が正しいので、効果もそちらに変更しました。

 それに合わせてユークの解説部分も追記しています。基本的には今後の描写に合わせた変更となります。

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