NPCと話してみる
西門側の通りに入ると、さっきまでとはうって変わり、NPCの街人やプレイヤーが行き交う商店通りが広がっていた。
成程、これは繁盛している様子がよく分かる。装備系のショップが多いという話だったが、よく見れば普通に生鮮品や食料品などを扱う店もちらほら見られる。おそらくは他の通りよりは多い、というニュアンスなんだろう。
商人たちも活気に溢れていて、NPCの街人だろうがプレイヤーだろうがお構いなしに呼び込みをかけていく。
そんな中、近くのNPCの店売り防具を見ていく。
色々見て回った結果、VITがだいたい5〜10ほど上がる装備が多かったが、それらのほとんどが装備可能レベルがパーソナルレベル5以上だったりするし、何より一部位で3000FGは超える。ここら辺はどの店も変わらないようであった。
初心者の革鎧はステータス値が増えないのでゴミであることは間違いないのだが、レベル制限が無いため誰でも装備することができる。
そして街の外であるフィールドエリアにはある程度レベルが上がるまでは、どこか一箇所でも防具を装備していないと、門番に止められて出れないという制限がある。
まぁ装備なしだと即死に戻りするので、門番が止めるのも無理がない話なのだが。
これは、βテストでどこかの馬鹿が装備なし縛りをしようとして、門番に押し戻されたという話がきっかけである。その話は他のβテスターたちを通じて、今ではほとんどのアルターテイルズに興味がある奴らの耳に入っているほど有名な話になっている。因みにその話の元となったのは他でもないレンだったりする。
因みにはじまりの街はレベル12以上になれば装備なしでも外に出れる。まぁそれで勝てるかどうかは不明だが。
取り敢えず、一箇所でもいいから防具を買うべきか色々迷っていたところ、急に眼の前に細長い何かが差し出される。
「おう、眼鏡の兄ちゃん! あんた来訪者だろ? どうだい、うちの焼き串食ってかねぇか!」
突然露天からスキンヘッドの男――頭上のアイコンがNPCを示す緑だった――が声をかけてきたかと思えば、目の前にタレらしきものがたっぷりとかかった焼鳥のような串を差し出される。
香ばしい匂いが食欲をそそる。昼前だから腹が減らないように早めに昼飯を食ってきたのに、どうやらここではそんなのはリセットされてしまうようだ。
ヤバい、めちゃくちゃ美味そう……。でも、大丈夫かなぁ……。
じっと見つめながらも購入する気配が見えないからか、話しかけてきた男はニカリと笑みを浮かべる。
「兄ちゃん、取り敢えず一本食ってみな! 美味かったらまた買ってくれりゃあいいからよ!」
なんと試食させてくれるという。なんと気前のいい店主なのだろうか。
お言葉に甘えて、その串を一本受け取り、恐る恐る口に運ぶ。
一口噛んだ瞬間、醤油ベースのような甘辛いタレと肉汁が絡み合って、なんとも言えない旨味の波が押し寄せてくる。
正直言って、めちゃくちゃ美味かった。疑って申し訳ございませんでした。
「どうだ?」
「……めっちゃ美味いです!」
「そうかそうか! そりゃ良かった! 今日は来訪者が多く来てるから、試しに焼いてみたが口に合うようで良かったぜ」
店主の男は、ケラケラと笑いながら俺の評価に喜んでいた。どうやら、俺が初めての客だったようで、売れるかどうか分からない焼き串の味がどうなのか心配していたようだ。
強面の外見からは全く予想できなかった、めっちゃいい人だった。
しかし、これなら蓮司たちにお土産で渡したら喜ばれるかもしれないな。値段次第だけど、何本か買っておこう。
「ありがとう、美味しかったです。えっと……」
「俺はセドリックだ。気に入ってくれたようで良かったよ。一本150FGだが、美味そうに食ってくれたから3本で300FGにまけてやるよ!」
「あ、ありがとう。俺はユークだ。よろしく」
俺が値段を聞こうと思ったら店主のセドリック――名前を聞いたからか、彼の頭の上にNPCの名前が表示されるようになった――に先回りされてしまい、おまけに値引きまでしてくれた。
これはおそらく、【友好化】の効果なんだろう。じゃなければ美味そうに食ってるからって、交渉前に安くしてくれるわけがない。
だが、ありがたいことには変わりないので素直にその好意に甘えることにする。6本買っても600FG。残金は4400FGになる。
防具を揃えるために無駄遣いはしないようにしないといけないと思っていたが、これはあくまで必要経費だ。そう、必要経費。
それにちょうどNPCと親しくなれたのだから、ここで情報を聞いてしまえば元手は取れる筈だ。
「なぁ、セドリックさん――「セドリックでいいぜ、ユークの兄ちゃん」――えっと、セドリック。ここら辺で安くて質のいい防具を買える店ってないか?」
俺がそう問いかけると、セドリックは一瞬キョトンとした様子で目を点にしていたが、すぐに質問の意図を理解してくれたのか、ニヤリと笑みを浮かべる。元が強面だからか、悪そうな笑みが凄く似合う。
「ユークの兄ちゃんのお眼鏡に合うかどうかは分からんが、俺の知り合いでそれなりの腕で安く防具を作ってるやつは居るな。地図と手紙を書いてやるから、後で顔を出してみろ」
そう言ってセドリックは羊皮紙に羽根ペンを使ってスラスラと地図と文字を書いていく。書いている文字は見たこともない言語であり、一応翻訳機能はあるのだが、この距離からは読むことはできなかった。
セドリックから地図と手紙を受け取ると、マップに該当の場所が記録されたというアナウンスが走る。
セドリックに礼を言って、露天から離れてメニューのマップを開くと、確かにその地図に書かれていたであろう場所が赤い点で記されている。
場所は東門に向かう通りから更に外れた場所にあるようで、これはセドリックに聞かなければ分からなかっただろう。【友好化】様々である。
そういえばあの肉はなんの肉だったんだろうか……。
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