NPCの防具職人とギルド

「えっと、取り敢えず地図の通りなら、ここのはずなんだが……」


 入り組んだ路地裏を歩くこと十数分。なんとか目的の防具を売ってくれそうな店がある場所へと辿り着いたが、そこはどう見ても普通の民家のようであった。


 一応、ノックするための金具があるので、取り敢えずその金具を叩いて中に人がいるかを確認する。


 すると、中からセドリックに負けないレベルの強面の男が出てくる。しかも背丈がかなり高いので、威圧感がすごい。筋骨隆々で、頬には傷跡がある。明らかにヤバい感じの人だ。


「……来訪者か。俺に何か用か?」

「あっ、えーっと、セドリックに質のいい防具を安く売ってくれる人がいるって紹介してもらったんだが、間違いないか?」


 おどおどしながらも、何とか言い切り、セドリックから渡された手紙をストレージから取り出し、目の前の男に差し出す。


 男はチラチラこちらを見ながら手紙を読み進める。値踏みされているのだろうか……。


「成程、理解した。ついてこい」


 男は短く呟くと、家の中に入っていく。

 これは入っていいということなのだろうか。迷っていると、「さっさと入ってこい!」と急かされたので慌てて中に入る。


 するとそこには大小様々な防具が所狭しに置いてある。店というよりは工房のようで、奥の方には作りかけの防具と作業道具が乱雑に置かれている。


 ちらほら置いてある防具を見るが、ゴツいフルプレートメイルなんかはVIT +100やMIN +120など、かなり性能が高い。だが、レベル制限が20以上となっていたので、そっと目を背ける。


 あと、流石にフルプレートメイルなんて装備したらゴツすぎて動けなくなりそうだ。


 ほら、AGIが200減少だって。ダメじゃん。


「……さて、自己紹介しておこう。俺の名前はイアンだ。セドリックさんは俺の兄貴分でな、その人の紹介なら無下にするわけにはいかん。よろしく頼む」

「あぁ、よろしく。俺はユークだ。まだレベル1なんだが、それでも装備できるいいヤツを見繕ってくれると助かる」


 俺がそう告げると、イアンはニヤリと笑みを浮かべて「任せろ」と告げる。めっちゃ頼りになるッス……。


 そしてイアンが持ってきたのは上下の革鎧で、初心者の革鎧に似ていたが、濃淡のある灰色の毛皮を使っているようで、全体的には淡い色合いになっている。


「……これはフォレストウルフとアッシュウルフの毛皮を使っている『森狼の革鎧』だ。お前が今つけてるやつよりは遥かにマシだろう」


 フォレストウルフは第一エリアで出現するモンスターの名前で、確か森林エリアで出現するんだったか。森林だからフォレストなのは安直だが、悪くない。アッシュウルフについては初めて聞いたので分からないが、おそらくフォレストウルフの強化版みたいなものだろう。


 イアンが言うには濃い灰色の方がフォレストウルフ、より白に近い灰色の方がアッシュウルフの毛皮らしい。配分的には濃い方が多い。


『森狼の革鎧(上):胴体防具(追加:腕)。フォレストウルフとアッシュウルフの毛皮を使った革鎧。獣を引き寄せる効果がある。

  VIT +20 STR +5』

『森狼の革鎧(下):脚防具(追加:腰・靴)。フォレストウルフとアッシュウルフの毛皮を使った革鎧。獣を引き寄せる効果がある。

  VIT +15 STR +5』


 ん〜? 成程成程?


「えっ、何これ強くない?」


 思わず呟いてしまったが、完全にレベル1で装備できる装備じゃないぞこれ。


 さっきまで見ていた店売りの防具がレベル制限付きでVITが10くらいしか上がらないのに対して、こっちは完全に上位互換だし、何よりレベル制限がない。


「……そりゃそうだ。少しとはいえ上位個体の素材を使ってるからな。これより多くなるとレベル制限が付くから、これくらいが限界ってところだな」


 イアンが少しだけ誇らしげに、性能が高い理由を語る。成程、やっぱりフォレストウルフの強化版だったのか。


 レベル制限が付かないギリギリを攻めたと言っていたが、どうやらレベル制限がかかっても性能はほとんど変わらないらしい。


 因みにアッシュウルフのみの場合だとこれの倍以上のステータス増加となるが、レベル制限がレベル20辺りまで引き上がってしまうらしい。また、そのランクになると高い技能レベルのプレイヤーメイドの方がより高性能で作れるらしい。


「……流石に俺がまともに作れるのはお前さんみたいな初心者向け程度だ。これより上の装備が欲しければ、腕の立つ来訪者に頼むか、外で宝箱から見つけてくることだな」


 イアンはこの革鎧2つで4000FGで売ってくれた。どうやら俺の残金がそれくらいだということを知っていたようだ。ゲーム的にデータが流れていたのかもしれないが、詳しいことは俺には分からない。


 取り敢えず、これである程度の耐久力を入手できた上に、STRも上げることができた。これなら初心者の杖のままでも何とか行けるかもしれない。


 俺は感謝を述べてからイアンの店を後にした。


 さて、装備が決まったので次に行くのはどこか?


 答えは……そう、冒険者ギルドだ。


 冒険者ギルドは南門に行く通りの途中にある。


 ゲーム開始後、はじまりの街の外に出るにはまず何らかのギルドに入ることが条件となる。


 本来ならチュートリアル中に行くことになるのだが、スキップしているので忘れずに自分の足で行かないといけない。


 このはじまりの街には3つのギルドが存在し、一つが商人ギルド、一つが生産者ギルド、そして一つが冒険者ギルドである。


 商人ギルドや生産者ギルドは商売をするプレイヤーや生産職を目指すプレイヤーが登録するギルドで、それぞれ商売や生産活動においてサポートをしてくれたりしてくれる。


 冒険者ギルドは、文字通り冒険者として世界を旅するプレイヤーをサポートしてくれる施設だ。


 ギルドに登録することで、該当ギルドのギルドショップを利用できたり、ギルドクエストと呼ばれる依頼を引き受けることができるようになる。


 ギルドクエストで評判を上げることでギルドランクを上げ、より危険なエリアに行けるようになる、というのがギルドに登録する目的となる。


 まぁ、この場合は外に出るためなのでどこのギルドに登録してもいい。


 そもそも、ギルドに関しては複数入っても問題ないらしい。


 まぁ、生産職だと自分で売買することになるから必然的に商人ギルドに入らないといけないからな。


 そんなこんなで冒険者ギルドでさっくりギルド員に登録する。ファンタジー作品によくある試験みたいなものは特にはなかった。まぁ面倒だから無くていいのだが。


 そして冒険者ギルドを後にして、南門の方へと進む。いよいよ外の世界、アルターテイルズの自然を目の当たりにできる!


「よし、行くか!」


 門番からは当然ながら止められることはない。


 俺がゆっくり一歩を踏みしめ、はじまりの街を抜けた先にあった光景は……、


「……なんじゃこりゃ」


 ……緑豊かな草原でちらほら現れるウサギやネズミみたいなモンスターを追いかけて取り合いを行っているプレイヤーの山が、そこにはあった。


 いや、流石に多すぎだろ。

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