3人よればなんとやら

 オークラさんたちと別れた俺たちは、有沙のログインを待つこととなった。


 有沙の方は、なんとか初期設定を終わらせ、伝えておいたダイブコネクトのフレンドコードをリスト登録したのか、ダイブコネクトの登録承認のダイアログがゲーム中に割り込んできた。取り敢えず承認しておく。フレンドリストに有沙のものであろうアカウントが追加される。


 そして時刻が18時になると、噴水の前に一人の少女が現れる。この時間になると流石に新規ログインのプレイヤーは少ないのかすぐわかった。


 現実では明るい茶髪のウェーブのかかったセミロングの髪だったが、かなり長いストレートロングの銀髪に変わっている。元の顔とほぼ同じでかわいい系な美少女の少女は、初期装備のまま周囲をキョロキョロしている。


 あらかじめチュートリアルはスキップしろと伝えておいたので、それをそのまま選択したのだろう。突然現れた他のプレイヤーに驚いている様子だった。


 有沙――プレイヤーネームはリーサであった――は、髪型と髪色以外ほとんど現実と変わらない俺たちを見つけると、スタスタと歩みを寄せてくる。


「おまたせ! 悠人と蓮司よね?」

「オイコラ、リーサ! ゲーム内でリアルネームを言うなって! 俺はユーク! そんでこいつがレン! 絶対、他のプレイヤーの前で言うなよ?」


 初っ端からオンラインゲーム初心者あるあるをぶちかましてくるリーサ。


 まぁやるだろうなとは思っていたが、まさか最初の一言からぶち込んでくるとは思わなかった。


「まぁまぁ、リーサは初心者なんだから、そういうマナーもこれからおいおい覚えていけばいいだろ」

「そうよ、流石はレンね! それに比べてユークはなんかねちっこい!」

「ねちっこいってなんだよ!?」


 うーん、女3人とかではないが、3人よるとホント姦しいな。


 しかし、有沙が想定よりちゃんとゲームの雰囲気に馴染めてそうでよかった。


「さて、そんじゃあ今から3人でプレイするわけだけど、どうするよ?」


 レンがこれからのことを聞いてくる。


 いや、普通に考えてリーサのレベリングだろ。


 俺がそう答えると、「確かに!」にと二人が相槌を打つ。……うーん、ホントに大丈夫かな俺たち。


 あんだけ大見得切ったのに、この調子だとまともに対人戦でオークラさんたちに敵いそうになさそうなんだが……。


「取り敢えず、リーサのレベリングをすることになったわけだが、まずはリーサの希望するジョブと、ステータスを確認したい」


 リーサには、あのカフェの話の後にあらためてジョブの情報を教えた。まぁ例の事前考察サイトのことなのだが。


 カフェのときは戦士やら魔術士やら召喚士やらを勧めたが、本人の意向は特に聞いていなかったので、もし本人がなりたいジョブと俺たちのレベリングの方針が違ったら面倒なことになる。


 取り敢えずこれはそういうところの摺合せになる。


 リーサはレンにステータスの外部への表示方法を教わりながら、自分のステータスを表示する。


 ――――――――――――――――――


 名前:リーサ

 Pパーソナルレベル: 1

 種族:人間族

 得意武器:短剣

 ジョブ:来訪者


 HP:110 / 110

 MP:120 / 120

 STR:10

 VIT:10

 INT:10

 MIN:10

 AGI:10

 DEX:20


・アビリティ(0ポイント)

【短剣術 レベル1】【回復術 レベル1】【魔力操作レベル1】【物質生成 レベル1】【人形製作 レベル1】

・スキル

『ヒール』『クリア』『物質生成』『クラフト』

・アーツ

『アサルトエッジ』『人形製作』


〈装備〉

・武器

 メイン:初心者の短剣

 サブ:なし

・防具

 頭:なし

 胴体:初心者の革鎧(上)◎

 腕:初心者の革鎧(上)

 手:なし

 腰:初心者の革鎧(下)

 脚:初心者の革鎧(下)◎

 靴:初心者の革鎧(下)

 外套:なし

・アクセサリー

 なし

 なし

 なし

 なし

 なし


 ――――――――――――――――――


 ステータスは平均的にすべてのステータスを上げた形で、DEXとMPを多めにしている形のようだ。


 アビリティに関しては【短剣術】【回復術】【魔力操作】はリーサ自身が選択したもの、【物質生成】【人形製作】に関してはランダム選択で選ばれたものになる。ものの見事に全て技能アビリティとなっている。


 前者に関してはまぁ無難なところだろう。攻撃用の技能と回復の技能は、ソロで遊ぶことがある場合には鉄板の組み合わせとなる。【魔力操作】はスキルなどのMPを消費する行動のMP消費量を少し抑えることができるアビリティだ。通常は【魔術】などと組み合わせることが多いが当然ながら回復術もスキルなので、MP消費を抑えて回復をメインにする予定だったのだろうか。


 【物質生成】については初めて見たのだが、効果を見てみるとどうやら一日に一回、スキルの『物質生成』を使用することでランダムで素材を生成するというものらしい。レベルが上がればレア度の高い素材を生成できるが、レベル1では大したものは作れないだろう。


 【人形製作】は、クラス2の生産職の一つである『人形製作士ドールメーカー』のジョブ習得で必須となる、人形を作れるようになる技能アビリティだ。人形製作士を目指すなら覚える必要があるが、キャラメイク時では習得できないため、ランダム以外だとゲーム開始後に習得可能リストに追加する必要がある。そのやり方は流石に知らないが。


 何故、人形製作士のジョブ習得条件を知っているのかと言うと、公式がこういうジョブがあるよという感じに公式サイトに一部のジョブとその条件を公開していたからである。まぁ、俺の場合はその公式の情報をまとめていたサイトから知った口なのだが。載ってるのが生産職ばかりだったので、あまり評判は良くなかったらしい。


 取り敢えず気になる点はこのくらいだろう。


 果たしてリーサはなんのジョブを目的にしてキャラメイクをしたのだろうか。


「かなり平均的な感じなんだな。それで? リーサの目標としていたジョブは何なんだ?」


 レンがリーサのステータスを見ながらほぼ俺と同じ評価を下す。そして、ジョブについて切り込む。


 その問いに対してリーサは少しだけバツの悪そうな表情を浮かべる。


「うーん……実はね、人形製作士ドールメーカーになりたかったの」


 たははとはにかみながら話すリーサ。


 あぁ、成程。本来なら人形製作士になるには習得条件が不明な【人形製作】を習得する必要があるから、頼みづらいと思っていたのがゲーム開始後にランダムで達成してしまったから、バツが悪いってことか。


 まぁその場合はレベル上げにだけ専念すればいので楽ではある。まぁ、それ以外に人形も作らないといけないから、素材集めとクラフトも必要か。


「でもまぁ何で人形製作士なんてジョブになろうと思ったんだ? 人形好きなの?」


 俺が興味本位で聞いてみると、リーサは顔を真っ赤にして静かに頷く。


 えっ、冗談だったんだけどマジなの?


 なんか申し訳ないことをしてしまったような気がするので、軽くあやまることにした。


「前からドールとかに興味あったんだけど、流石に高くて手を出せなくてね。おじいちゃんのお手伝いでお金貯めてから買うつもりではあったけど、この前ゲームで人形を作れるって知って、私がやりたいことってこれなんだって思ったの」


 なんていうか、茶化していい話ではなかったな。ホント申し訳ない。


 確かにこういう仮想現実に、現実では中々実現できないようなことを求めるのはよくある話だから、リーサの言いたいことは分かる。


 つーか、そもそも俺が従魔士を目指した理由もペットが飼えなかったからってことだから、だいたい似たような理由なんだよなぁ。


 レンもそのことを思い出したのか、口にしないがこっちの方を睨んでいた。


「だから、取り敢えず! 人形製作士を目指して人形作るから、手伝ってね二人とも!」


 笑顔でそう言われると流石に断れない。まぁ断るつもりなんて全く無いのだが。黙って頷いておく。レンも同じように頷いている。


 取り敢えずは、人形がどうやって作るのか調べることにしよう。素材集めはそれからだ。





 ――――――――――――――――――――


※一部、誤字や数値ミス等を訂正してます。


 従魔士の特性に「テイムモンスターを3体まで連れ歩くことができる」という旨を追記しました。

 なお、特性に関してはジョブアビリティの習得やレベルアップで変動する場合があります。その際はまたステータスが出る際に説明します。


(8/15)後の描写と矛盾が生じていたので、リーサの初期アビリティの一つである【魔力操作】の効果を『術式スキルのMPの消費を抑える』から『スキルを始めとしたMPを消費する行動のMP消費量を少し抑える』に変更します。

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