かつての仲間たち

 ――ダイブイン、アルターテイルズ


 俺が軽食と水を食べたり飲んだりしてからログインするも、未だにゼファーは帰ってこないようだった。外飼いの猫かよ。まぁ腹減ったら帰ってくるかもしれないが、精霊ってメシ食うのかな?


 まぁ、しばらくして帰ってこなかったら『モンスターコール』で呼び出せばいいだろう。今は蓮司と合流するほうが先だ。


 取り敢えず、それらしきプレイヤーを探す。たしかこの広場にはいるはずなんだが……。


 すると噴水の近くにフレンドを示す白色のアイコンが付いているプレイヤーを発見する。


 容姿は現実のものとほぼ変わらないが、現実では茶髪だった短髪は少しだけ伸びており、また色も金色になっていた。


 プレイヤーネーム『レン』は、複数人のプレイヤーに問い詰められている真っ最中だった。


「おい、レン! ちゃんと説明してもらうからな!」

「そうよ、何で私達のチームを蹴るのよ!」


 小柄の男性プレイヤーと長身の女性プレイヤーはレンにかなりの喧騒で問い詰めている。


 その後ろで小柄な女性プレイヤーはオロオロとしており、その隣で大柄な男性プレイヤーは何も言わずにその様子を見つめている。


「だから! 俺は俺で別のチームに入るって言ってるだろ!」

「それが納得いかないのよ! 別に私達のチームでもいいじゃない!」

「だから、それだとあいつらが入れないだろ!」


 やはりというかなんというか……先程のチームの件で揉めてしまっているようだ。


 そして、その問題の中に俺自分が知らず識らずの内に関わっているという事実が実に気分が悪い。


 しかし、あの状態だといつ何が起きるのか分からない。もしも、決闘なんてことになったら色々と面倒だ。


 仕方ない。気は乗らないが、レンに助け舟を出すことにしよう。まぁそれが泥舟になる可能性は無きにしもあらずだが。


「……おい、レン。人を呼びつけといて放置とはいい度胸だな」


 俺がレンに話しかけると、レン以外の追い立てていたプレイヤー四人は「何だこいつ」みたいな顔でこっちを見る。まぁ、知らないやつが話しかけてきたから当たり前といえば当たり前だが。


「おぉ、ユーク! 悪いな、ちょっとこいつらが過ぎたことを色々言ってきてな……」

「ちょっと! 全然過ぎたことじゃないんですけど?! ていうか、アンタ誰よ!?」


 おっと。自己紹介がまだだったな。


「俺はユークだ。こいつ……レンのリアルでの知り合いだ。こいつは俺のチームに入ることになってるんだ。すまないな」


 こういう場合、リアルでの知り合いってことを前面に出しておけば大抵はうまくいく。だって、いくら現実を超えた仮想と言われてるアルターテイルズでも、現実の繋がりには勝てないでしょ。


 ていうか、勝手に俺のチームって言ってしまったけど、大丈夫か? レンはすまなさそうに苦笑いを浮かべていた。


「はぁ!? ふざけないで! こっちはβテストからずっと一緒にプレイしてるのよ! それに、あの大魔女に勝つために私達はもっと高みに行かなきゃいけないの!」


 背の高い女性プレイヤーはヒステリック気味に叫びだす。えっ、怖っ。


 リアフレ作戦全然聞いてないじゃん。


 ていうか大魔女って誰!? βテストの敵キャラ?


 俺がその様子にビビってると、後ろで黙っていた大柄の男性プレイヤーが口を開く。


「それくらいにしろ、ユーリカ。私たちに他のプレイヤーのプレイスタイルを縛り付ける権利はない」

「……オークラ」


 ユーリカと呼ばれた女性プレイヤーはその声を聞いて黙り込んでしまう。


 そのまま我慢できなかったのだろう、ポロポロと涙を流し始めてしまう。


 突然のことに動揺するというよりも、俺はアルターテイルズの感情表現の豊かさに驚いていた。


「……すまないな、ユークくん。君たちの楽しみを邪魔することになってしまって」


 大柄の男性プレイヤーことオークラさんは俺に向かって丁寧にお辞儀をする。多分、この人リアルは会社員なんだろうな。お辞儀の姿勢がすごく綺麗だ。


 ……って、そういうのは今はいいんだ。


「……別にチームどうこうの問題は実際どうでもいいんですけどね。まぁ、ここらで一旦踏ん切り付けとかないと、多分ずっと後悔しっぱなしだと思う」


 そう言ってユーリカの方を向く。流石にオークラさんにまで否定されたのが堪えているのか、ずっと泣き続けている。隣りにいた背の低い男性プレイヤーは後ろの小柄な女性プレイヤーと一緒にオロオロしていた。


 うーむ。


「ていうか、別のチームだろうと今までみたいにパーティー組めば一緒に遊べるんだから、俺たちが一緒にプレイできない時とかに普通に遊べばいいんじゃないの?」


 俺がそう言うと、ユーリカやレンを始めとしてオークラさん以外はぽかんとしてこっちを見ていた。えっ、レンまでそっち側なの?


 ……そもそもチームというシステムにこだわりすぎているが、あくまで固定パーティーを組みやすくするための仕組みってだけなんだよな。


 別にチームじゃなきゃパーティーを組めないわけじゃない。そうじゃなきゃ野良パーティーなんて存在しなくなってしまうからな。


 まぁ、チーム対抗イベントとかは別々になってしまうが、その時は互いにライバルとして戦えるのだから、それはそれで逆に燃えて面白そうじゃない? それこそ、昨日の友は今日の敵ってね。


 俺がそんな感じのことを話していると、オークラさんはクスリと笑い出す。


「ハハハッ! ……いやすまない、別に変な話だから笑ったわけじゃないんだ。昨日の友は今日の敵、か……。確かにそれは面白そうだな」


 オークラさんがそう言い出してから、ユーリカも落ち着いたのかこちらの方をバツが悪そうな顔で見ていた。


「えっと、その……ごめんなさい」

「俺は別に謝られるようなことをしたつもりはないから、気にしないでいいよ。見た感じ、みんなβテスターみたいだし、俺みたいなファーストロットプレイヤーなんて目じゃないだろうからさ。レンはそういうお荷物をおぶってると思えばいいよ。まぁ、レンがお荷物になるかもしれないけど」

「オイコラ、ユーク、どういうことだそれ」


 レンが何か言っているが気にしないことにする。

 よく分からないが、なんかいい感じにまとまったので良しとしよう。


 最終的に、レンはこの四人とたまに一緒にパーティーを組んで遊ぶってことで落ち着いた。いやー、良かった良かった。


 そんなこんなで話も落ち着いたことから、ユーリカたちは初対面だった俺に対して自己紹介を行ってくれた。


 まずはユーリカ。彼女はエルフ族のプレイヤーだった。武器は大弓を使用しており、ジョブはクラス3の弩級弓士バスターアーチャーだった。俺たちのひとつ上の高校2年生らしい。いつもはここまでヒステリックな感じではなく、かなり抜けているらしい。この四人の中では一番レベルが高いらしいが、どうやらレベル上げのために森林エリアにいる第一エリアのエリアボスに何度も挑み続けていたかららしい。死に戻りしたら経験値は入らないが、どうやら死に戻りしないで離脱する方法を持っているらしい。


 次にオークラ。彼は竜人族のプレイヤーで、よく見ると体表が鱗になっていた。武器は槍と大盾を使用しており、ジョブは神殿騎士テンプルナイトとのこと。案の定のサラリーマンだった。お疲れさまです。……レンを除けば、おそらく彼らのリーダーになれるのはおそらくこの人くらいだろうと思うほど、とてもいい人だった。そして同じくらい苦労してそうだなと思う人でもあった。レベルはユーリカより少し下だという。


 背の低い男性プレイヤー、名前をリックというが、彼はハーフリング族のプレイヤーだった。ジョブはクラス3の忍者ニンジャというもの。良くは分からないが、斥候スカウトの超スゲー版と本人が言っていたので、そういうものだと思うことにする。歳はなんと同い年だった。レベルは4人の中で一番低いが、ポジション的に前衛で戦うので多分すぐに上がるだろうと言っていた。


 小柄な女性プレイヤー、名前はナナミと言っていた。彼女は黒猫の獣人族で、外見がいかにもな真っ黒魔女装束だったのでもしやと思っていたが、案の定ジョブはクラス3の魔法使いマジカルメイジであった。身長的に中学生かと思いきや、大学生と聞いたときは流石に驚いた。かなり恥ずかしがり屋なのか、俺とは全然目線を合わせてくれない。せっかく同じ眼鏡プレイヤー同士仲良くしようと思ってたのだが、残念だった。


「さて、私達は私達でチームを組むことにするよ。それこそ、君たちに負けないようにね」

「ハハハ、そんなそんな。俺なんてクラス2の従魔士だから。相手にならないよ」

「それはどうかな? ここに従魔が居ないことからして、君の従魔は街に入れないほどかなり巨大か、かなり高度な自我を持つモンスターのようだ。そういうモンスターは大抵強いっていうのが相場は決まっていてね」


 オークラさんが中々鋭いことを告げてくる。成程、確かに従魔士が従魔を連れていないなんて、それくらいしか理由はないし、俺に至っては後者がドンピシャだ。つーか、ゼファーはどこにいるんだ?


 俺は苦笑いでその場を乗り切ることにした。

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