素材のランクとまさかの大成功

 作業開始から小一時間。MP回復薬を何回か使って錬成していくナサ。


 いくら【錬金術】のレベルが低いとはいえ、ここまで成功しないというのは、流石のレシピの難度の高さというべきなのか。まぁ、そうなるように選んだのではあるが。簡単に成功されると普通にレベルが上がってしまう。


 因みに強制的に失敗させる錬成もあるにはあり、指定錬金の方で間違った素材を入れることで失敗させる強制失敗という方法があるが、そちらは指定錬金がかなりの素材量を要求することから、そもそもの選択肢には入っていない。


 もし、ナサが最初から【錬金術】を習得していたのなら普通に生産しやすいレシピを100回成功させてもギリレベル10に行くかどうかだったと思うので、やはり現時点でレベル7というのがネックにはなってくる。


 仮に成功してもレベルが3も上がることはないだろうとは思ってこれを選んだが、うっかり大成功したら普通に超える場合がある。まぁ、その場合は違うジョブの条件を満たすかもしれないのだが。


 回数の条件自体は既に達成できているので、そろそろちゃんと成功しやすい別のアイテムの方に変えてもいいのかもしれない。実際錬金術士の条件は満たしていて、あとはレベル10になるだけだしな。


 しかし、ナサ本人はこのレシピで成功させたいと言い、ランダム錬成を続行する。その心意気に、ナサの心根の所は結構負けず嫌いなのだということを思い知る。


 まぁ、本人がやりたがっているから良いだろう。続行だ。




「それにしてもホントに成功しないわね。……素材が悪いんじゃないの?」


 そして失敗し続けること更に30分。流石に飽きてきたのかリーサが欠伸をしている。まぁ、時間も10時近いしな。仕方ない。


「確かに同じモンスター素材でもランクの違い自体はあるからな……。たとえば、このゴーレム核【中】は☆7だけど、今ナサが錬成で使ってる魔核はだいたい☆2とか☆3だな。基本的にホーンラビットとか草原ラットでドロップしたやつ。そう考えると質の良し悪しっていうのはあるのかもしれん」


 俺はアシュラゴーレム戦で手に入れた、ゴーレム核【中】のうち、最も高いランクのものを取り出してからリーサに見せる。


 モンスター素材も当然ながらモンスターの強さや場所によってランクが変わる。このゴーレム核【中】は、あのセラミック・ゴーレムで得られたゴーレム核【大】よりもサイズは小さいもののランクはかなり高い。あの時のゴーレム核はレンと交換したのではっきりは覚えてないのだが確か☆4くらいだった筈だ。


 ☆7のモンスター素材は現在第二エリアでも滅多にドロップしない。その点、俺がドロップできたのはやはり【幸運】の効果なのかなとは思う。というかそう思わないと、『幸運の眼鏡』の存在意義が分からなくなる。


 因みに魔核のランクが低いのは、基本的に魔核が汎用素材だからである。まぁ、それくらい低くないと大量に挑戦する生産の素材として集めることはできない。


「……なら、それを使わせたら普通に成功するんじゃないの?」

「うーん、そう簡単にいけばいいんだけどな……」

「何か問題があるんですか?」


 リーサに促されるも、俺が高ランク素材を使わせることに難色を示したという事に、疑問を浮かべるリリー。ナサは錬成に集中しているので、二人に簡単に説明をする。


 どうやら素材のランクが高ければ高いほど、生産技能によって生産したアイテムのランクは高くなり、また大成功の確率とやらも高くなるらしいのだが、生産成功率と大成功の確率はそもそもが違うものとなる。


 生産の成功率は文字通りスキルやアーツで対象となる生産アイテムを作ることができる確率のことを指す。要するに成功するか失敗するかの二択の確率ということだ。


 この成功率は基本的には生産技能アビリティのアビリティレベルやジョブ特性やジョアビリティの補正などで上げることができる。また、今のナサなら外套の『見習い錬金のベストコート』にある【錬金補助(初級)】の効果で少しだけ成功率は上がっている状態となる。


 それに対して生産の大成功とは、普通に生産した場合よりも高性能・高品質・高ランクの物ができるという一種のラッキーボーナスみたいなものである。生産が成功した際にシステム内で抽選が行われており、そこで成功か大成功かの判定が行われるのだが、大成功になる確率は通常状態では極端に低い。まさに当たればラッキーということになる。


 因みに一部例外で、ランクを上げる素材などを用いることで特定のランク以上のアイテムが生産された場合はシステム上の辻褄合わせかは分からないが大成功確定になるらしい。フィーネを作った際はこれが起きたのだと思われる。


 素材のランクが影響するのはこの大成功の確率なので、高ランクの素材をガンガン扱ったところで失敗するときは普通に失敗するということになる。


「でも、取り敢えずものは試しに使わせてみたらどうよ? それで成功したらいいじゃない」

「まぁ、確かにゴーレム核も魔核の一種に含まれるけどな? ……その、魔杖とかの強化とかに使うかもしれないからできれば取っておきたいんだけど」

「またゲットすればいいじゃない!」


 いやいや、幾ら何でも暴論すぎるだろ――と叫びそうになったが、そういえばゴーレム核【中】自体は実はまだ2つあるので、別にここで使わせても問題はなかったりすることを思い出した。


 それに、そもそも強化に使うのかどうかもサザンカさんに確認しないとわからないし、装備強化としての素材にする際にここまで高ランクである必要はなかったりする。ランクが関係するのは生産や売却辺りだろう。☆7アイテムの売却額はたとえモンスター素材だろうとそれなりの値段にはなる筈だ。


 まぁ、それにどうせアシュラゴーレムに関しては再度鉱山ダンジョンに挑む際に、もう一度は必ず戦わなければならない相手だ。その時にまた獲得できるだろう。だったら、今使っても問題はない。成功率には関係しないだろうが、もしこれでナサが錬成に成功できれば儲けもんだ。


 取り敢えず俺は、ナサに先程の☆7のゴーレム核【中】を渡す。同時に気休め程度だが、他の素材もランクが高いものに変更する。巨像のかけらはそれまでの☆3のものから、アシュラゴーレム戦で手に入れた☆5のものに。古の紙は……まぁ店売りのものは一律で同じランクなので変えようがないか。


 ナサからは「これ、本当に使っていいの?」と心配されたが、取り敢えず大丈夫だと答えておいた。……本当に大丈夫だからな?


 しかし、もしもこれでもダメだったら流石に普通に指定錬成の回復アイテムを作らせよう。そのためのレシピも一緒に取ってきてもらっていたので、何が良さそうなのかをレシピを見ながら確認し始めた、その瞬間だった。


「……あれ? なんだか、光り方が違わないですか?」


 リリーがふとそんなことを口ずさむので、レシピを確認する手を止めてナサの方を見る。嘘だろ、素材のランクは成功率には関係ないって……Wikiの嘘つき!


 確かにさっきまでの淡い白い光とは異なり、ややケミカルチックな虹色に近い輝きをギラギラと放っている。さっきまでなら、この時点で既に煙を立てて産業廃棄物が姿を現していたのだが、未だに光り輝いている。


「……ねぇ、ユーク。これって……」

「あぁ、間違いない……大成功だ!」


 ナサが不安に思ったのか、俺に問いかけてくる。


 大丈夫。これは間違いなく大成功だ。しかも、この光り方は、俺が見落としていない限りは掲示板でもまとめサイトでも報告されていないレア演出だ。報告があったのは金色やら銀色だったからな。


 おそらくはレアを遥かに超える、激レア演出というやつだろう。……だって虹色なんだぜ?


「やったぞナサ! かなりの激レア演出だ! しかも未確認のやつ!」

「えっ、激レアですか!? す、凄いですよ、お嬢様!」


 そして光が一つにまとまると、そこには透明な緑色の結晶体に文字が掘られている本の形をした物体が出現する。『鑑定』持ちがこの場には居ないのでナサに何かを聞いたが『祖なる十二の秘文エメラルド・タブレット』という魔本武器らしい。


 どう見てもレアを通り越して激レアそうなものが生産で出てきたのだが、なんとそのランクは脅威の☆8である。俺の宝風剣やリーサのEXマキナドールをも超える初の☆8アイテムだ。


 ランクが高いアイテムを素材にすれば高ランクのアイテムが生産しやすいとは確かに言っていたが、まさか元の素材のランクを更に上回ることになるとは……大成功、恐るべしである。


 この結果なら、今まで無駄になった巨像のかけらや魔核たちも報われるだろう。


「……えっと、なんか称号がどうとか、ユニなんとかジョブの条件達成だって」


 ナサが生産成功と共に届いたであろう通知に驚きながら、その内容を語りかけてくる。


 それって、もしかしなくてもユニークジョブの事だよな? リーサに次いで、知り合いじゃ二人目だ(俺を除く)。


「ユ、ユニークジョブですか!? す、凄いですお嬢様! 流石です〜!!」

「へぇ、ナサもユニークジョブになれるのね。えっと、凄いこと……なのよね?」

「…………うーん、俺もちょっと疑問に思ってしまった」


 本来ならユニークジョブは珍しい存在の筈なのだが、自分含めてここまで見かける事となると、本当はそんなに珍しいことではないのではないかと思ってしまう。


 まぁナサの場合もリーサと同じで、生産の大成功かつ特定のアイテムの生産という条件なのだろうから、ホントのホントに運が良ければ誰だってなれるということなのだろうが……。


 まぁ、確かにさっき☆7の高ランクアイテムを素材にはしたのだが……まさかそれで本当に高ランクアイテムの生産に大成功してしまうなんて思わないでしょ普通!?


 取り敢えず、どんなジョブの条件を満たしたのかナサに聞いてみようと思ったが、既にナサはその場には居なかった。


「あ、そうか……さっきの大成功でレベル10になったんだな……」


 流石にあのランクのアイテムを作って大成功したならレベル3以上上がるほどの経験値量があってもおかしくはない。


 できればユニークジョブがどういうジョブなのかを、ちゃんと把握してから『神々の洗礼』には向かわせたかったが、まぁ今のシステム上は仕方のないこととなる。これもメンテ後には対策されることとなるので、以降のプレイヤーは問題ないのだが。


 もし、あんまりな性能ならメンテ後に変えてしまう形でいいだろう。その頃には新たにジョブチェンジチケットも貰えていることだしな。


 ……まぁ、そもそもナサがユニークジョブを選んでくるかどうかは分からない。俺は錬金術士アルケミストを目指そうと言ってたから、正直にそっちを選んできそうな気もする……。


 この数時間しかガッツリ関わっていないが、ナサならやりかねないと思ってしまう。割と天然だしな。まぁ、戻ってくれば分ることだろう。


 取り敢えず、俺たちはナサが戻ってくるまでしばし待つこととなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る