錬金術に挑戦しよう

 次は実際に【錬金術】の実践となるので、 最初はリーサとリリーはアビリティレベル上げを続けるために別行動にしようと提案したのだが、リリーが「お嬢様と別行動なんてありえません!」みたいな剣幕で詰め寄ってきたので一緒に行動することとなった。


 まぁ、ミュアもいるから二人きりではないとはいえ、男である俺と一緒にナサを行動させるというのは、リリーにとっては不安もあったのだろう。リーサからも下心があるのか的な冷たい目線で睨まれてしまったので、反省する。


 はじまりの街にも当然ながらある『クラフトハウス』へと向かっている途中、ナサがふとなにかに気づいた様子で俺に問いかけてくる。


「……そういえば、今から挑戦するレシピってどうやって作るの? さっき貰ったキットみたいなものを使う感じ?」

「そうだな。取り敢えずさっきの講習で貰えた初級錬金キットの中には錬金釜と錬金作業盤が含まれているだろうけど、今回のレシピの方では錬金作業盤の方を使う形になるな」


 錬金キットを始めとした生産キットは、基本的にその生産を行うために必要となる道具がまとめられたアイテムパックとなる。初級錬金キットの中には『初心者の錬金釜』と『初級錬金作業盤』が含まれていた。


 勿論、これらの道具がなくても生産スキルとして『クラフト』スキルがある場合は、生産自体は可能となる。だが、アーツを使った生産は道具がないと発動はできないし、よりランクを上げるためのマニュアル生産には当然ながら道具は必要不可欠となる。


 そもそも【錬金術】には『クラフト』スキルがないため、どうあがいてもキットは必要となるのだ。まぁマニュアル生産なんてものも【錬金術】にはないのだが。因みに『クラフト』と同等のスキルとしては『簡易錬成』があるのだが、それは錬金術士系統のジョブスキルで使えるようになる。


 なお、既に初期アビリティ選択で生産技能を選んでいた場合は生産者ギルドに登録した時点で、その技能に対応したものが貰えるようになっているので安心してほしい。


 俺は確認していなかったが、おそらくリーサの場合も登録時に【人形製作】に必要となる生産キットを貰っている筈だ。おそらくは裁断用のハサミや縫い付けるための針、造形用のヘラやヤスリだろうが、詳しくどういうものが入っていたのかは俺は知らない。後で機会があったときに覚えていれば、リーサに聞いてみてもいいかもしれない。


「……錬金作業盤って?」

「さっき、講習で聞いてただろ? 覚えてないのか?」

「うん」


 いや、うんって……。ほんの30分くらい前の話だぞ? どんだけ興味なかったんだ……?


「……錬金作業盤は、錬成陣が描かれている作業盤で基本的にMPを通すことで『錬成』を行うことができる道具だ。初級だから3つのアイテムまで『錬成』に使うことができるらしい。因みに『錬成』自体はアーツだけど、発動の際にMPが消費されるから気をつけないとすぐにMP切れになるからな」

「成程。分かった」


 本当に分かったのだろうか? 疑問だけが残る。しかし、喋ったことが殆どなかったから分からなかったのだが、立川さんってこんなキャラだったんだな……。


 そんなこんなで俺たちははじまりの街へと戻り、クラフトハウスへと向かう。鉱山の村のように一軒につき一部屋しかない――なんてことはなく、なんと何部屋も存在する。しかも連棟なので部屋数もかなり多い。だいたい100部屋はあるのだろう。夜の時間だが、そのほとんどが既に埋まっており、まだ第一エリア内にも生産職あるいは生産スキル持ちがそれなりに居ることが判明する。


 ……が、実は第二エリアのメイン市街地エリアである第二の街に到着すれば、有料だがはじまりの街と行き来することができるため、部屋を借りるレンタル料金が安い第一エリアで生産を行うというプレイヤーは結構多いらしい。


 つまりは、この内の何割かは『クロノス』によるキャリーで第二エリアに向かった後に、生産のためだけに戻ってきたプレイヤーということになるのだろう。


 まぁ、そこまで劇的に高くなるってわけでもないだろうし、向こうの方が施設の設備自体のグレードは高いだろうとは思うのだが……。


 取り敢えず俺たちはクラフトハウスの一部屋を借り、作業を開始する。まぁ、実際に作業をするのはナサなんだがな。


 リーサの時は流石に邪魔すると悪いからと部屋を離れたが、流石にナサは目を離すとなにかやらかすのではないかと思わせるようで、当然ながら全員残っている。因みに俺は説明兼作業補佐、残りは監視と見学だ。


 しかし説明って、錬金術スキルはサイトとかで少し齧った程度なんだが、ホントに大丈夫かな……?


「……さて、今回作るのは『碑文錬成』のレシピだな。成功すれば魔本武器が出来るが、失敗すれば『産業廃棄物』というゴミアイテムが出来上がる。あと、実際にどのタイプの魔本が出来るかは不明となっているから、運試し的な要素もあるな。頑張ろう」


 錬金術には特定のアイテムを作り出す『指定錬成』と、特定のアイテムカテゴリーの中からランダムにアイテムを作り出す『ランダム錬成』のニ種類が存在し、今回行うのは『ランダム錬成』の方になる。


 『指定錬成』の方は提示されたアイテムカテゴリーの中からアイテムを選択し、それらを混ぜ合わせることで行う錬金術となる。ここで入れるアイテムは時に特定のアイテムが指定されている場合もあるが、基本的には『薬品』や『植物』、『鉱石』などのアイテムカテゴリーの中から選択するものとなり、アイテムのランクや質を元に錬成後のアイテムのランクが決まる。錬金釜が必要となるのはこっちの錬成の方となる。こちらは失敗しても生産しようとしていたアイテム自体は生産できるが、ランクが低くなったり効果が落ちてしまう。


 それに対し、今回行う『ランダム錬成』は素材の方が特定のアイテムを指定されており、それらを組み合わせることでレシピに記載されているアイテムカテゴリーからランダムでアイテムを作り出すというものだ。こちらは失敗すればゴミアイテムしか出来ないが、時には高ランクのアイテムを作り出すことができる。何が出来上がるのか分からないので運試しとしては丁度いい。当然ながら錬成作業盤を用いるのはこっちの方の錬成となる。


 本来なら前者の方が確実に生産はできるのだが、素材要求量がかなり多いので回数をこなすのには向いていない。その分、低ランクのアイテムなら複数個を同時に作れたりするのだが。


 あとは、単純に魔本が作れるレシピが後者の物しか見つからなかったというのもある。前者の方は消耗アイテムや特殊アイテムなどが多い。


 因みにランダム錬成の方で生産できたアイテムのうち、高ランクのものは指定錬成の方にもレシピが登録されるらしいが、その場合必要となる素材はランダム錬成で用いる素材よりも高ランクだったり、先の方で実装されるアイテムだったりすることが多いらしい。まぁ、そう簡単には量産させてはくれないということらしい。


「……うん、頑張る」


 机の上にはナサの初級錬金作業盤と、大量の巨像ゴーレムのかけらと小・中サイズの魔核、そして『古の紙』という素材アイテムが置いてある。巨像のかけらと魔核は今までの戦闘でそれなりの量を獲得できていたので問題なかったが、『古の紙』だけは誰も所持してなかったので、移動途中に素材を調べた。その結果、普通に素材系アイテムを売るNPCの店に売ってあることがわかったので購入した。


 歴史があるというよりは、ホントにただの古紙って感じのアイテムだ。護符系アクセサリーの素材らしいが、比較的安い値段で売られていた為、大量に買い込んだ。これでいくら失敗しても問題はないだろう。


 これら3つの素材を錬成することで、魔本を作り出せる。


「……えーっと、錬金作業盤に素材を置いて、作業盤の右下と左下に手を当てて『錬成』アーツの発動を宣言すると錬成完了、らしいぞ。取り敢えずやってみようか」

「…………『錬成』」


 ナサが錬金作業盤に手を当てて、『錬成』アーツを発動する。淡い白い光が作業盤を中心に光り輝くが、瞬時にモヤがかかっていく。これは……。


「なんか煙上がってるけど……」

「これはどう見てもアレですよね……」


 リーサとリリーが口を揃えて喋りだす。


 次の瞬間、ボワンという効果音と共に煙が上がると、さっきまで素材があった場所には真っ黒な謎の物質である『産業廃棄物』が残されていた。まぁ普通に失敗である。


 ☆0アイテムである産業廃棄物は効果もなければ売値もつかない正真正銘のゴミアイテムである。


 因みに失敗の場合もジョブ習得の条件の数は満たせるのだが、生産活動での経験値は得られない。失敗し続ける限り、レベルは上がることはない。


 しかし、初めての錬金術だ。せっかくならちゃんと物が作れるものから挑戦させるべきだっただろうか。これで錬金術に嫌な思いをナサが抱いていなければいいが……。


 ふと不安に思ったが、本人は次は成功させてやると言わんばかりに意気揚々としている。どうやら俺の杞憂だったようだ。


 とはいえ、あまりにも失敗が続くようなら早々に見切りをつけてあげるのがいいだろうか。


 それから何回も挑戦するが、産業廃棄物が増えていくだけだった。

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