魔術スキルの使い方

「さて、取り敢えずまずは魔術スキルの使い方について説明しようか」

「うん」


 草原エリアの中を移動しながら、俺はナサに【魔術】の扱い方を説明し始める。まぁ、非公式の情報サイトで調べてたことや、ダンジョン攻略のときにシグねぇに聞いてみたことの受け売りなのだが。勉強したことはすぐに忘れるのに、こういうところの記憶力はいいんだよなぁ……俺。


 因みに今回は俺と従魔ばかりのソロパーティーとリーサ・ナサ・リリーの3人のパーティー、2つのパーティーをパーティーコネクトで1つのパーティーとして結成している。


 ダンジョン攻略の時のミュアの件もあって次はちゃんと従魔として連れて行くと約束していたのもあるのだが、単純にパーティーコネクトの仕様で獲得経験値が2割減るのでナサがレベルアップしづらくなる。もし、ナサがうっかりトドメを刺してしまっても多少は大丈夫になる感じだ。


 しかし、リーサにナサ、リリーと似たような字を使う名前が集まったものだ。まぁ、英数字を使わなければ50音しかないから近くなるのも仕方ないのだが。


 因みにリリーとナサには、リーサと合流した後にゼファーのことやミュアのことを説明した。リリーはたいそう驚いていたが、ナサはさも知っていたかのような反応を示していた。まぁ言いふらさないでくれるのなら、どんな反応でも問題ない。


「……まずもって、魔術スキルを使用する際には詠唱を用いる必要がある。【詠唱破棄】のアビリティがあれば唱えなくても使えるが、普通は唱えないとMPだけ消費してスキルが発動しない」

「……成程」

「その詠唱文はスキル選択時に視界に浮かぶらしいから、それを復唱するといい。その間に、ナサの場合は魔本を相手に向けて構えておく。そうすることでスキルの進行方向を敵に向けることができるわけだ。特に『ボール』の魔術スキルは直線的に動くから、しっかりと狙う必要があるな。……と一応こんな感じらしいんだが、大丈夫か?」

「……分かったわ。やってみる」


 そう言って魔本を呼び出し構えるナサ。


 因みにナサが装備しているのは、ステータス効果のない『初心者の魔本』だ。


 本来なら彼女が持っている初心者武器は『初心者の杖』であったが、得意武器を変更した場合は自身が所属したギルドで現在の得意武器の初心者武器と交換してくれる機能があるため、それで交換してもらった形だ。


 因みにナサには生産者ギルドに登録してもらっている。ちょうど外に出るためにギルド登録は必要だったので一緒にやってしまっている。


 またその際に【錬金術】の習得のための技能講習を受けることとなった。【錬金術】を始めとした初級生産技能を習得するには、生産者ギルドにいる特定のNPCに話しかけ、技能講習を受ける必要があるからだ。


 具体的にはギルド職員である錬金術士NPCに話しかけ、錬金術に関するレクチャーを受け、一通りのスキルやアーツの使い方を教えてもらい、最後に錬金術とはなにかという問答に答えていくという形式となっている。因みに問答は○か×かを答えるクイズ形式で、途中で間違えると最初からまた答える必要があるが、問題自体は変わらないのでうっかり同じ間違いをしない限りは大丈夫な筈だ。


 因みにこの講習を受けると基本的にその技能のアビリティで習得できるスキルやアーツに何があるのか分かってしまう。流石にどのアビリティレベルで習得可能なのかは分からないものの、どのようなことが出来るのかは分かるはずだ。


 尤も、ここで習得できる初級生産技能は既にレベル最大で習得できるものが明らかになっているのでネットで調べればいいのだが、知識として知るよりも実際に体感したほうが分かりやすいのは確かだ。


 取り敢えず、修得するしないに関わらず気になる生産技能はここで体感しておくのも悪くはないだろう。


 結果として、問答のところで少し躓いてしまったが予定通りナサは【錬金術】のアビリティを習得可能となり、同時に基礎レシピも幾つか回収できたのでひとまずの準備は完了となる。


 とはいえ、現在はまだアビリティポイントも無いため、少なくともレベル6まではレベルを上げる必要があるので、先に魔術の条件を満たそうということになった。


 ……そして、現在に至るというわけである。


 現在は戦闘中ではないが、戦闘用のスキルの発動自体は、市街地エリアや一部の使用禁止エリア以外なら可能なので問題はない。


 取り敢えず、周りに他のプレイヤーやNPC、モンスターがいないことを確認してからナサには許可を出している。


 プレイヤーの場合、PK行為と見做されて通報されかねないし、NPCの場合は怪我をさせてしまう可能性がある。モンスターは……当たれば戦闘開始になり、条件のうちの一回を満たすことができるため、まぁラッキーみたいな感じだな。


 当然ながら、ナサはゲームを開始してからまだ戦闘も何もしていない状態なので、現在は【魔術】のアビリティレベルも1のままである。なので使用可能となるのは『ボール』の魔術のみだ。


 ナサはゆっくりと魔本を目の前に構えるとスキルの使用を選択したのか、何かを読もうと目を細める。おそらく彼女の視界に『ボール』の詠唱文が表示されているのだろう。シグねぇは全部覚えているし視界の邪魔になるからと非表示にしているらしい。俺には無理だな。


「『無窮の渦を解き放て――ボール』」


 ナサが詠唱とスキル名を詠み終わると、初心者の魔本から数センチほど離れた場所に半透明な白い球体が出現し、そして1秒か2秒ほどした後にそこそこの速度で飛び出していき、地面に激突して弾けた。


 そのスピードは俺たちが使う精霊術の『緑風の弾丸』と変わらないくらいだろうか。ある程度のAGIを持つモンスター相手なら避けられるかもしれないが、草原エリアの初めの方にいるモンスター程度なら簡単に当てられるだろう。


「取り敢えず、今の感じで実際の戦闘中でも使えれば問題はないだろうな。あとはMPの管理だが、ナサは最初に【魔力操作】と【魔力制御】を選んでるから、消費は半分くらいは抑えられている筈だ」

「……ホントだ。あんまり減ってない」


 属性付与なしの『ボール』が魔術スキルで一番消費が低いのだが、それでも【MPセーブ(精霊術)】で消費が少なくなった『緑風の弾丸』と同じMP30消費となる。この場合、魔術スキルの消費が高いのではなく、【MPセーブ(精霊術)】のカット率が高すぎるだけだ。


 MP消費カット系の効果アビリティの中では、術式を指定している【MPセーブ】系が現状では最もMPの消費量を減らす効果が高いらしい。なんとそのカット率は7割だとか。なので俺が使う場合の精霊術のMP消費量は本来ならばMP100消費となる。なお、ゼファーの場合は本来の精霊術の使い手なのでMP消費量は俺とは異なるようだ。


 因みにその【MPセーブ】系のアビリティは、現時点だと初期アビリティ選択の候補で運良く出てくるか、ランダムアビリティで獲得するか、ユニーク武器のような特殊な装備を入手するかの方法しかないため、残念ながらナサとは縁がなかった。


 とはいえ、【魔力操作】と【魔力制御】も軽減率は【MPセーブ】系統に劣るものの、それなりに消費をカットしてくれる。この2つのアビリティはレベル制なので、レベルが上がるたびに軽減率が上がっていく仕様だ。


 【魔力操作】はリーサも所持しており、MPを消費する行動全てが対象で、その消費量を少し抑える効果がある。初期で2割ほどとなる。【魔力制御】はそれの上位互換になるが、軽減の対象がスキルでのMP消費のみとなる。初期で4割ほど軽減してくれる。


 その消費軽減は2つ合わせて約52%と、半分ちょっと減らしてくれる計算となる。因みに軽減後の消費量に小数点以下の数値があった場合、小数点以下は切り捨てとなる。なので、実際の軽減率よりも軽減される量が多い場合もある。さっきの『ボール』で消費したMPは14となる。


 因みにシグねぇはMPセーブも含めたこれらの消費軽減系のスキルは一通り揃えている。仮に2つともアビリティレベルが1だったとしてもその消費軽減は85.6%となり、そこから更にジョブ特性で軽減される形となる。そりゃあ、あれだけスキルを連発できるし、あんなとんでもない多重詠唱の魔術スキルを発動できるわけである。


「取り敢えずさっきと同じ感じで『ボール』で攻撃していこう。トドメは俺たちがするし、当てる時は牽制を行う。ただ、MPが切れないように気をつけて。MPが切れると魔力欠乏状態で倒れてしまうからな」

「……成程、分かったわ」


 そうして俺たちはナサのジョブ習得の条件達成の為に草原ラット狩りを開始する。牽制は主にミュアの担当となった。矢の軌道で的確にナサが魔本を向けている方向にモンスターを誘導するというのは、流石に俺たちでは真似できない技能だ。


 同時にリーサとリリーが上げたがっていた【短剣術】のアビリティレベルを上げるために、二人にはトドメの担当を任せることとなった。リーサの場合はSTR値が無いので短剣で攻撃しても基本的にダメージは与えられないが、使用することには変わりないのでアビリティレベルの経験値は獲得可能だ。実際のトドメはリリーが行うこととなる。


 因みにリーサが【短剣術】のアビリティレベルを上げる理由はレベル4で習得できる『集中』のスキルを覚える為で、30秒間集中力を上げることで与える攻撃がクリティカルになりやすいというものだ。


 スキル自体は【剣術】や【弓術】などの幾つかの戦闘技能アビリティで習得できる汎用スキルなため、基本的にはどの武器種でも対象となる。それはサブ武器として登録しているEXマキナドール【フィーネ】も対象となるため、フィーネによる攻撃のクリティカル率を上げることができる。


 リリーの場合は単純に次の短剣術アーツを習得することが目的となっている。護衛侍女は盾使い系統にある【短剣戦術】がないらしいので、変わりに自身で【短剣術】を習得したのだとか。【盾術】に攻撃手段がないわけではないのはオークラさんを見てて知っているが、その手数が乏しいのは事実だ。


 結果として、30分足らずでナサの条件は達成でき、リーサとリリーのアビリティレベルの方はリーサが何とか目標を達成できたくらいだった。まぁ、リリーの場合は元から既にレベル6だったので、ここらへんの敵ではそうそう上がらないだろう。仕方ない。


 その後はナサのレベルを6まで上げるためのレベリングを行った。この場合、俺の『手加減』スキルが役に立つこととなる。『手加減』込みの攻撃で敵モンスターのHPを残り1にすることで、ナサでも簡単にトドメを刺すことが可能となる。


 その場合、本来はダメージ量的に俺が一番経験値を貰う形にはなるのだが、トドメを刺した場合だとそちらのほうが貢献したと判断されるのか、トドメで与えるダメージ量が少なくてもかなり経験値が貰える。だいたい二人だけなら、半々となるくらいか。


 なので、手っ取り早くレベルを上げようと思って、俺たちはレベル18くらいのモンスターに戦いを挑み、『手加減』をかけた『緑精の大旋風』を放ってからナサにトドメを刺させたら、一気にレベル7までレベルが上がってしまった。


 ……まぁ、誤差の範囲内で良かった……のか? 【魔術】のアビリティレベルも3まで上がったし、【魔力操作】や【魔力制御】もレベル3まで上がった。いやまぁ、完全に俺の判断ミスなのだが、取り敢えずは結果オーライだったと捉えておこう。


 因みに格上を倒したことでナサも称号を獲得したが、その称号はレベル10以上離れた敵を倒したときの【ジャイアントブレイカー】で、どうやらレベルが15とか離れていていても更新とかはないようだ。もしかしたらレベル20以上とかがあるのかもしれないが、そこまでいくとレイド級のボスとかになりそうなので、おそらくはないのだろう。


 取り敢えず本人は初称号だったのでとても嬉しがっていた。まぁ多分、この称号は戦闘職なら比較的取りやすい称号なんじゃないかなとは思う。……ってナサは生産職になろうとしているのだった。

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