錬金術士の習得条件
「おまたせユーク、ミュア。それとおひさー、ゆり……じゃなかったリリー」
約束の時間のちょい過ぎくらいにフィーネと共に現れたリーサは、うっかりリリーの本名を言いそうになる。リアルで会ってる間柄だとプレイヤーネームで呼ぶのが慣れないんだよな。その点、レンみたいに愛称的な名前だと呼びやすい。
因みに久しぶりと言っているが、夏休みに入ってから実はまだ5日しか経っていない。フルダイブVRの体験が濃厚なのか、結構日数が経っているような気がしていた。
そしてリーサはふとリリーの横に居るナサを確認するとそちらへと歩み寄っていく。
「それと、そっちの子は初めまして……よね? リーサよ。こっちはフィーネね。よろしくね」
『フィーネです。以後お見知りおきを』
「……ナ、ナサ……よ、よろしく」
さっきまで俺たちにグイグイ来ていたナサはどこへ行ったのか。まるで借りてきた猫のように、固まってしまっているし、目つきもだいぶ鋭くなっている。
リリーに聞けば、初対面の人間に対してはいつもああなるらしく、極度の人見知りなんだとか。
成程、もしかして普段学校とかで孤独を貫いていたのは、この人見知りと目つきの悪さのせいだったりするのだろうか。
因みに俺と話すようになってからは、俺に対する目つきもそこまで鋭いようには感じなくなったので、おそらくその目つきの悪さも極度の緊張のせいで目に力が入ってしまったことによるのだろう。
そう考えると、ゲームを始めてからよく最初に俺に話しかけてきてくれたよなと思う。だいぶ勇気を振り絞ったんじゃないだろうか。それを俺はあんな態度で……。状況が状況だから仕方ないとはいえ、自分が情けなく感じるよ。
……しかし、横に並んでみて気づいたが、リーサもナサも、結構背が高いんだな。
俺が男子の平均程度でギリ170センチ無いくらいなのだが、ふたりとも俺よりは少し低いくらいとなる。おそらく160センチ台の前半くらいはあるのだろう。
で、そんなふたりに挟まれているせいか、リリーの小ささがより際立ってしまっている。
知り合いで背の小さい女の子として頭に浮かんだハルとユキが、中学3年生の平均身長でこの二人よりも少し低いくらいだったと思うのだが、リリーはそれよりも更に小さい。おそらく150センチもないのではないだろうか。因みにフィーネはリーサより少し低い程度となる。
ふと気になって改めてミュアを見てみたが、ミュアは俺より少しだけ背が高いことに気づく。ということは170センチあるということだろうか。うーん、なんだろうこの敗北感……。ミュアはジロジロ見られているのが気になったのか、ぎこちない笑顔を浮かべてから手を振っている。かわいい。
まぁ、シグねぇやユーリカみたいなエルフ族プレイヤーは、容姿の種族補正でリアル身長よりも背が高くすることもできるらしいので、もしかしたらミュアを始めとしてこの世界のエルフ族はみんな背が高いのかもしれないな。
なお、逆に背が低くなる補正があるのはハーフリング族だ。リックがいい例となる。
竜人族は男性の方だけに背が高くなる補正がかかり、ドワーフ族は女性の方だけに背が低くなる補正がかかるらしい。獣人族とメカノイド族、そして人間族には背に関する補正は男女ともにない。
そういえば、レンのやつはリアルで177センチあるって言ってたっけ。しかもまだ伸びてるらしい。全く羨ましいな……。俺は中学の頃に伸びてからそれっきりだから、正直あまり期待できない。
……さて話がズレてしまったが、取り敢えずリーサと合流することができたので、ここから本格的にレベリングの開始だ。とはいえ、まずはナサのジョブ習得を考慮する必要があるのでリーサと相談だ。
「さて、リーサ。俺としてはまずナサのジョブ習得を優先させたいんだが、問題ないか?」
「ナサってさっき始めたばかりなのよね? それならそっちを優先にしないと、なりたいジョブにはなれないんでしょ? だったら問題ないわ。……でもそのジョブの習得条件を知ってるの?」
「あぁ、問題ない。錬金術士はかなり有名なジョブだからな」
と言ってみたが、実は習得条件については、先程店を見て回っていた途中に掲示板で調べて分かったので、ちょっとだけ見栄を張ってしまった。
因みにその習得条件だが、【錬金術】の習得、INTとDEXの合計値が100以上、『錬成』でアイテム生産に100回挑戦、戦闘で術式スキルを使用した後に戦闘に勝利するを10回達成、となる。クラス2にしては条件自体はクラス3並に多いが、中身はそう難しくはない。
まず、ステータス値自体はイアンの防具のおかげで余裕で条件を満たせている。また、ナサがキャラメイクの時点で【魔術】を習得しているため、術式スキルの件は工夫すれば問題はない。この場合分かりづらいが、使用したスキルで勝利するのではなく、スキル使用後に結果的に戦闘に勝利すればいいので、トドメはナサではなくこちらが引き受ければいい。
後は【錬金術】を習得して、『錬成』でアイテムを作りまくればいいだけだ。錬成自体は最初は成功させにくいが、そもそも条件は錬成に挑戦するだけなので成功させる必要はない。逆に成功すると生産での経験値が入ってしまうので、回数の条件を達成するより前にレベル10になってしまう場合がある。
因みに余談なのだが、当初ナサは杖を得意武器に選んでいたが
何故かというと、魔本は【魔術】を始めとした術式スキル特化型の武器種だからだ。
魔本だけは他の武器種と異なり、近接戦闘用の戦闘技能を持たない。運営からの『本で殴るな』というメッセージをひしひしと感じるのだが、その代わりに魔本は杖以上にINTの数値が高いものが多い。勿論、ミスティックロッドのようにINT特化型の杖もかるので、一概に全てがそうだとは言えないのだが。
また、魔本にはその最たる特徴として、特定のランク以上の魔本ではその武器固有の『魔本スキル』が一つないし複数備わっている場合があるという点がある。まさに魔導書という感じである。攻撃系なら単純に攻撃手段が増えることとなる。
とはいえ、魔本スキルがある魔本は結構レアであり、ドロップ以外では主に
まぁ、実際は作れれば超ラッキーレベルのアイテムらしいのだが、ただやるにしても目的があったほうが、幾分か作る側も精神的にマシではあるだろう。
因みに錬成に用いるレシピに関しては、店を見て回る途中、覗き見た掲示板で錬金術士について調べている時に偶然レシピの事を知っているプレイヤーがいて、生産者ギルドで調べることができる基礎レシピの中にそれが含まれていることを教えてもらった。
しかしまずは、錬成に挑戦することよりも先に術式スキルの回数の方をこなすことを優先しよう。うっかり生産で大量の経験値を稼いでしまって条件未達成になるのは恐ろしいからな。それに、どのみち新たに【錬金術】を習得するにはある程度レベルを上げる必要はあるので、生産技能を覚えていないナサには戦闘は不可欠となる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます