ユニークジョブと『錬金賢者』

 さて、ここでユニークジョブについておさらいしておこう。


 ユニークジョブとは通常のジョブとは異なる特殊な条件を満たすことで習得できるジョブであり、その一番の特徴としてだということだ。もし習得しなかった場合、同じ条件を満たしたプレイヤーが現れた場合に習得資格は新たに条件を満たしたプレイヤーへと移ることとなる。


 そのユニークジョブは、良くも悪くも特徴的であり、リーサの人形指揮者ドールコンダクターの場合は自身の戦闘能力が失われてしまう代わりにMPがとても高くなり、また戦闘人形バトルマトンを自律する武器として扱うことができる。


 ナサが戻るまでの間、他にもユニークジョブになったプレイヤーが居ないかどうか調べたところ、思いの外ユニークジョブの習得資格者になったプレイヤーはいるようで、結構報告されている。ユニークジョブ専用情報スレみたいなのもあるくらいだ。


 例えば狼闘士ハウンドファイターというユニークジョブはフォレストウルフやアッシュウルフなどのウルフ系モンスターを1000体以上、ソロかつ格闘術アーツのみで倒した際に習得可能になったのだとか。


 その能力は狼人間に変身するスキルをジョブスキルとして持つようになる。普通の武闘家辺りよりAGIがかなり上がるようになったらしいが、逆にMINやHPが上がらなくなってしまったらしい。MINならともかくHPが上がらなくなるのは致命的だ。まぁ当たらなければどうということはないというスタイルなのかもしれないが。因みにこのジョブは投稿者が既に習得済みとなっている。


 他にも色々出てくるが、そのほとんどが習得していないものが多く、条件が伏せられている。まぁ、名前でどういった条件のものなのかがややバレてしまっているものもあるのだが。


 習得していない理由としては、俺が精霊使いエレメントテイマー精霊術士エレメントスペラーにならなかったように、そのユニークジョブが自分が目指していたジョブとは違う傾向のジョブだったから、というのが大きいようだ。


 勿論、ユニークジョブが強ければ普通にそっちに乗り換えるというプレイヤーも多いだろう。本来ならユニークジョブは、すでにジョブ持ちのプレイヤーが頑張って条件を達成することで習得する、ということを運営側は考慮して設定しているのだろう。それはユニークジョブが習得資格を得た時点であれば、ジョブチェンジチケットを用いなくてもジョブチェンジが可能という仕様からも明らかだ。


 とはいえ、ユニークだからといってその性能が一概にクラス3よりも強いという訳ではない。方向性が同じだとしても、目指していたジョブよりもステータス補正の偏りが大きすぎて逆に弱点が多くなったりする場合もある。


 また、装備制限などによって使いたかった武器が使えなかったり、やりたかったプレイスタイルとは違うものを要求されたりする場合もある。俺の場合、精霊術士は連れていけるのがゼファーだけになってしまうし、精霊使いは従魔制限で精霊族や精霊系統のモンスター以外と従魔契約ができなくなってしまうのでダメだったのだ。


 他には、そのジョブ特性が周囲に害をもたらすものもある。例えば毒系アイテムを大量に食べることで習得可能となる特殊系ユニークジョブの毒識者ハザードドクターは、あらゆる毒や麻痺を無効化するという【完全毒耐性】というアビリティをジョブアビリティで持つのだが、その反面戦闘中に周囲へ猛毒を振りまいてしまうというジョブ特性を持っている。


 ソロプレイなら対象は敵だけなので問題はないだろうが、パーティープレイでは周りのプレイヤーも対象となるため、仲間が猛毒にかかって死に戻ってしまうということになる。


 流石の投稿者も仲間と一緒にプレイできなくなることからそのジョブにはならなかったらしい。因みに毒系アイテムを摂取していたのは、毒耐性がその行動で付けられないか本サービスでも再度試したということらしい。βテストでは同じ行動でユニークジョブにならなかったので、そこで本サービスから追加されたユニークジョブでもあるということが判明した。


 あと投稿者曰く、次の日には習得可能ジョブの中から消えていたので、条件を知った他のプレイヤーが習得したのだろうとのこと。いったい誰が習得したのか……少し恐怖を抱いたが、今はどうでもいいだろう。


 そんなこともあるので実はユニークジョブはそれ程強力ということもなく、またそこまで珍しいものでもないようだ。まぁそうじゃないと、ユニークジョブ持ちとそれ以外と性能の格差がかなり広いことになってしまう。とはいえ条件が条件なので、決して強くないというわけでも、全く珍しくないというわけでもないのだが。


 生産関連では、☆7ランクのアイテムをたまたま作り出したことで、ユニークジョブの条件を満たしたという報告が多いようだ。現在までに掲示板に報告されている中では、鍛冶系の『刀匠カタナマイスター』や調合系の『万能調合士マルチブレンダー』などがある。


 前者は鉱山ダンジョンの8〜9階層に極稀に出現するハガネゴーレムがドロップした☆6玉鋼を使用した結果、幸運にも☆7の刀を作り出すことに成功し、その際に習得可能になったようだ。


 また後者は特定のNPCと交流した結果、『簡易万能回復薬ライトエリクサー』を作って渡すという隠しイベントが発生し、そのアイテム自体が☆7ランク以上確定かつ、イベント生産なので失敗もせずに確定で作れたというのもあったが、そこでまさかの大成功を起こしてしまったことで習得条件を満たしたようだ。


 余談だが、その『簡易万能回復薬』に必要な素材は全く見たことがないものだったらしい。今後実装されるかのか、イベント専用だったのかは定かではない。


 生産アイテムは特定の素材の組み合わせと生産の大成功で、急激にランクが上がるということがβテスト時代から報告されているため、それらがうまく組み合わさった結果、ユニークジョブの条件を満たした、ということになるのだろう。


 リーサの『人形指揮者』やナサのユニークジョブも生産で☆7以上のアイテムを作り出したことで条件を満たしたことから、この系統になるのだろう。二人に共通するのは、使った素材が特別なものだったということだろうか。リーサの場合は俺がゼファーの隠しダンジョンで手に入れた生産アイテムのランクを上げる遺跡の宝石を使用し、ナサの場合は激レアドロップの☆7ゴーレム核を使用している。


 そこに彼女たちのリアルラックが作用して、こうしてユニークジョブの条件を満たしたということになるのだろう。おそらくだが、報告していないだけで他にも生産系のユニークジョブ持ちは多いだろう。傾向的に運が絡むとはいえ、複雑な条件が伴う戦闘系よりはなりやすい筈だ。


 因みに余談だが、現在最もユニークジョブ持ちが多いチームは例の『クロノス』らしい。今日の午前中にチームメンバーの一人である情報屋データバイヤーのプレイヤーが雑談掲示板に書き込んでいたらしいのだが、チーム6人中4人がユニークジョブ持ちなのだとか。まぁ、掲示板での発言がソースなので確証はないが、彼らのチームの功績を考えれば、概ね事実には違いないだろう。流石というか、やはりというか。先を行くチームは、それだけの強さの理由があるということなのだろう。


 ほんの数分だが、ユニークジョブについてこれだけ調べられたのは、やはりみんなユニークジョブに関心があったからなのだろう。普通なら、ユニークジョブは憧れのようなものだからな。……とユニークジョブを敢えて選ばなかった俺が言ってみたりする。


 さて、ナサの方はそろそろジョブは決めただろうか。


 『神々の神殿』に移行してから5分は経つ。俺のときがどれ位かかったのかは分からないが、リーサの時は同じくらいだったと思う。おそらくはどんなにすぐに選んでも一定時間は居ないことになっているのだろう。実際のところは知らないが。


 すると、光とともにナサが再び部屋の中に現れる。無事にジョブ選択は済ませられたようだな。


「おかえり、ナサ。……どうだい、なんのジョブを選んだんだ?」

「……私が選んだのは『錬金賢者ヘルメス』……さっき言ってたユニークジョブだよ。多分、ユークはそっちのほうが喜ぶかなって。あと、さっきの『祖なる十二の秘文エメラルド・タブレット』の生産が最後の習得条件なんだって。女神様に聞いたよ」


 どうやらちゃんとユニークジョブを選んできたらしい。こういうところではちゃんと気が利くんだな……。まぁ、当然ながらユニークジョブの詳細が知れるから喜ぶに決まってる。


 そして、ちゃっかりその習得条件を女神に聞いてきているようだが、聞けるものだったのかそれ。いや、確かに習得条件達成済みのジョブなら聞けば教えてくれるのかもしれないな。案外、あの女神ノリが良さそうだし。しかし、こんな話ネットには載ってなかった気がするけど、初情報なんじゃないかこれ?


 ……しかし、ヘルメスか。確かギリシャ神話にそんな神様がいたような気がするが、多分これは違う方の意味だろうな。


「ヘルメスか……中々、凄い名前のジョブがあったもんだな」


 ふと、この場に居る人間ではない人物の声が聞こえてきたので、その声が聞こえた方向を見る。

 すると、そこにはこの場に居ないはずのレン、そしてサザンカさんの姿があった。


「あれ? レン、それにサザンカさんも……なんでここに?」


 俺が疑問を浮かべていると、リーサが「あっ!」と叫ぶ。


「……さっきレンから『ログインできるけど何処にいる?』って連絡が来て、場所を教えてたの忘れてたわ」

「つか、お前にも送ってたんだが、気付いてないってことは、さては掲示板かなにか開きっぱなしだったな?」


 うっ、御名答。確かにさっきまでずっと掲示板でユニークジョブについて調べていた。フレンドチャットの通知もメニュー開いてるとミュートになってしまうのか。やはり早く修正してもらわないと……(メンテまで待とう)。


「サザンカは、ちょうど俺がログインする前くらいに明日のことについて聞きたいからと連絡が来たから、ついでに連れてきたってわけよ。因みにサザンカもお前に連絡しても返事がないからって俺に聞いてきたぞ」


 成程……? 取り敢えず、俺はもうちょっとちゃんとフレンドチャットに気を向けることにしよう。この手の不具合は毎回起こるわけではないというのが、なんとも嫌らしいな。うっかり忘れてしまう。


「で、レンはそのヘルメスについてなんか知ってるのか?」

「知ってるも何も、ヘルメスって言ったら錬金術ものでは有名なやつだろ。『ヘルメス・トリスメギストス』って知らないか?」


 えっ、どうしよう。全然知らない……。


 聞けば、ヘルメスとは錬金術の界隈中の中ではかなり有名な賢者のことを指すらしく、ヘルメス文書とか呼ばれている古代思想の文献を記したものが有名なんだとか。因みにそのうちの一つが『エメラルド・タブレット』という名前らしい。


 成程、だから『祖なる十二の秘文エメラルド・タブレット』の錬成で達成したユニークジョブが『錬金賢者ヘルメス』というのか……。俺の知らない世界、奥が深い。なおレンがそれらを知ってるのは、そういう錬金術を扱った漫画やアニメが好きだかららしい。成程なー。


 因みに『祖なる十二の秘文』という武器自体は、調べてみるとβテスト時代にこのランダム錬成のレシピで作れるものの一つとして報告自体はされていたようだ。しかし、そこに『錬金賢者』の条件が満たせるといった情報は特になかったと思う。


 なので新規のユニークジョブかと思ったが、ナサが女神と話した感じだと前にも習得者が居たらしい。そんなことまで話すのか、女神よ。


 おそらくは元々ユニークを習得していたプレイヤーがいた場合はそうやって説明してくれるのだろう。なんせ、誰かが習得していたユニークを別人が習得することなんてまずないだろうから、前例がないのだ。ある意味、これが初めてのパターンなのかもしれないな。または報告がないだけか。


 何故そうなのかというと、普通に考えて条件を公開していたら本サービスの時に別のプレイヤーに先に習得されることになりかねないからだ。そりゃ誰にも条件なんて教えないだろう。下手すれば習得していた事すら隠していた可能性もある。情報が無かったということは、おそらく今回は習得自体を隠していたパターンだろうな。


 しかし、何故そのプレイヤーは本サービスで『錬金賢者』になっていないのだろうか。まぁ、生産関係には運要素があるから、単純に作れなかったという可能性も無くはないが……。他にやりたいジョブがあったとかかな?


「しかし、『錬金賢者ヘルメス』か。どんなジョブなのか気になるな! ナサ、ステータスを見せてもらっても大丈夫か?」

「うん……ちょっと待ってて」


 ナサが習得できたユニークジョブがいったいどういう性能のものなのかがとても気になるので、取り敢えずナサにステータスを公開してもらう。


 リーサやリリー、そしてレンも気になってるようで一緒に見に来る。そんな様子を見て、サザンカさんは少し迷っていたようだが、やがてこちらに近づいてくる。


 対してミュアはゼファーと一緒に離れている。特に興味はなさそうだった。


 ――――――――――――

(2/24)

 指摘があったので、『錬金賢者』についてユークが前に習得者が居たのではという疑問に対し、新規のユニークジョブじゃないかと先に疑うように変更しました。また、その際に前習得者がいた事が分かる経緯を追加しました。

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