第六章『悪魔の裁判』

アップデート

アルターテイルズのない一日

 アルターテイルズのメンテナンスは予定通り行われ、月曜日に入った瞬間に全プレイヤーが強制ログアウト、そこから一日から一日半を予定した大メンテナンスが開始した。


 予定では火曜の昼頃まではアルターテイルズにログインすることはできない。


 一応、その間も外部端末からフレンドチャットやチームチャットを使ったり、掲示板に書き込んだり閲覧することは可能となっている。そもそもメインのサーバー自体も止めないらしいので、単純にログインできないだけとなっている。


 まぁ、世界観的にはそう変わってなくてもシステム的にはかなりの変貌を迎えることとなるだろう。ある意味では生まれ変わる感じが正しいのかもしれないな。


 従魔士も完全に不遇職と呼べなくなる感じに調整されるので、ようやく不遇職からの脱却となるだろう。まぁ、割と本サービス開始時点で不遇職っぽさは無くなっていた気はするけどね。


 知ってる限りでも従魔士の数もそれなりに増えてたし、妖精の話の時には結構ジョブチェンジを考えたプレイヤーも多かったみたいだ。


 とはいえ、メンテナンス後に配布される特別なジョブチェンジチケットを使えば現在のジョブレベルが引き継げるので、基本的にメンテナンス前には従魔士になったプレイヤーはあまり居なかったようだ。


 で、祝賀会をやっていた俺たちはというと、その祝賀会は夜の9時頃には終わりを迎え、それ以降は個人で何かしらやりたいものはやるという形で解散することとなった。


 俺の場合は最後に簡単にできそうな依頼がないか見てみたが、同じ様な考えのプレイヤーが多かったのか、既に長期的な依頼しか残っていなかったので依頼関係はやめることとなった。


 さっきも少し触れたが、どうやらこのメンテナンス中にこのフロンティアを構成するメインサーバーは完全に停止することはなく、一応この世界で暮らすNPCたちは普通に時間経過するらしい。


 なので、俺はログアウトする前にミュアに最低限のお金を渡して自由にするように伝えておいた。まぁ、今のミュアなら自由にさせても特に問題はないだろう。


 そして残りの従魔たちは、メリッサのもとにいるカリュアと、 ミュアが残してほしいと懇願したゼファー以外の従魔たちは同時ログアウトに設定した。


 ログアウトの直前、ゼファーが青ざめた表情をしていたが、取り敢えず頑張れとしか言えない。うん、頑張れよゼファー。




 そして俺はログアウトして、翌日は完全にリアルの方だけで生活することとなった。とはいえ、たった一週間前の生活に戻るだけだったんだけどな。


 この一週間、かなりのめり込んでいたせいか若干落ち着きが無かった気もするが、まぁログアウト後はログイン時の興奮状態を残さないように多少の感覚にボケが生じるらしいので、仕方ないことなんだろう。まぁ、俺がやり過ぎていたのが悪い。


 その一日だが、カフェシルクのオーナーであるキヌさんがぎっくり腰をしたと有沙から連絡を受けて急遽ヘルプに出ることになったんだが、まさかそこにゾロゾロとリアルやゲームでの知り合いが足を運ぶとは思わなかったな。


 蓮司は実家の商店の手伝いでちらっとしか来れなかったが、その後にクラス委員長の結城由真ゆうきゆまとサザンカさん――リアルの方は笹原椿ささはらつばきさんというらしい――が一緒に来店したときは流石に驚いた。


 なんか姉妹らしいが、両親の離婚云々で苗字が違うらしい。まぁ、その点の複雑そうな話はあまり他人が踏み込むものじゃないので俺は触れなかったが、取り敢えず仲は良さそうなので問題はないだろう。


 ……で、その委員長だが、なんとセカンドロットを入手済みらしい。完全にサザンカさ――椿さんの影響とのことだった。


 セカンドロットの開始日は8月中とされているが、予定では8月の2週目以降になるらしいので、すぐに遊べる日が来るだろう。その時は椿さんがつきっきりでサポートする――のはまぁ無理だろうということで、時間が合えば俺たちで協力することを約束しておいた。俺と蓮司、朝菜はクラスメートだし、有沙と百合花は別の学科とはいえ同い年だから付き合いやすいだろう。


 おそらくはそれくらいのタイミングでクラン機能とかも解禁されるだろうし、これはセカンドロットのサービス開始時が楽しみだな。


 因みにそのサービス開始日は、本来ならまだ公表されていないのだが、俺たちが知っているのは委員長と椿さんが来る直前に、朝菜と百合花が足を運んで来たからだ。しかも高級車で乗り付けて。


 そこで俺は朝菜が本当に金持ちなんだと確信したのだが、まさか本人からあのワンダーエクシレルの社長令嬢だと言われたときは驚いた。だって、しれっと喋るんだもの。流石にその場にいた全員(キヌさん以外)驚いていた。


 まぁだからこそ、セカンドロットの開始日が分かったんだけどな。流石にそれを口にしたときに付き人であろう複数人の黒服のお兄さんたちが何やら焦っていたが。


 そして朝菜が最初から俺のことを知っていたのは、おじさんが働いてるシグマレイズで例の精霊王関連のイベントを目にしていたかららしい。その時にうっかりおじさんが俺の名前を溢したらしい。……うん、後でシグねぇとおばさんにチクっておこう。


 因みに一緒に百合花の母親らしい人(見た目的には姉かと思ったが、母親だった)も付き人として居たのだが、ゲームの話で浮かれてた俺たちに「あまりゲームに熱中しすぎて私生活を疎かにしないように」と注意された。まぁ、一日の大半をアルターテイルズゲームに費やしていたらそりゃ注意されるよな……。


 地味に俺の周囲でこうやって注意してくれる大人ってあまり居ないから少し新鮮だった。俺は海外赴任で居ないし、蓮司の家は放任主義だし、有沙の父親は結構厳しいらしいけど有沙には甘々らしいし。


 そして、朝菜は今度俺たちにワンダーエクシレルの本社を案内してくれると約束してくれたが、あまり鵜呑みにはしないようにしておこうと思う。


 そんなこんなでカフェシルクの手伝いはなんやかんやありつつも大きなミスもなく終わりを迎え、そして俺のアルターテイルズのない一日もまた終わりを迎えたのだった。


 因みに俺の料理は身内には好評だったよ。まぁ、キヌさんからは一先ずの及第点を貰えてるので問題ないだろうなとは思ってたけど。




 ……そして翌日。予定よりも少しだけ早めにメンテナンスが終わり、朝の9時にはログイン可能となっていたアルターテイルズ。


 俺は少しだけ混雑するかもと思って、9時半にログインすることにした。


 今回の大規模メンテでアップデートされたことで、アルターテイルズのバージョンは『2.00』になったらしい。


 さて、どのように生まれ変わったのか確かめてみるか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る