追記・メンテナンスの始まり

 ――シグマレイズコーポレーション


 時刻が0時を回り、アルターテイルズのサーバーにおいてプレイヤーたちの強制ログアウトが発動し始める。


 これらのプレイヤーの全ログアウトを持ってして、アルターテイルズのシステムは約36時間ものメンテナンスならびにアップデートが行われることとなっている。


 それを行うのはゲーム内のシステムAIたち。イベントシナリオの変更等、ゲーム内の様々なデータを書き換える権限は彼らが持っている。現実世界のスタッフたちもその権限は当然有してはいるのだが、作業の効率化のためにシステムAI任せとなっている。


 とはいえ、今回の場合はシステムの根幹に関わる部分によるところもあるので、人の手によってプログラムの書き換えやシステムの安定化等も行う必要がある。


 その為、スタッフルームではそれまでの運営においてモニタリングを行っていたスタッフ総出でそれまでの情報の整理などが行われていた。


 一応、余裕を持って36時間としているし、基本的には交代で行う為、絶望的デスパレートな状況にはならないだろう……と彼らは推測していた。


 しかし、いざ蓋を開けてみれば想定以上に外部から手直しする必要のあるデータが多いことが明らかとなり、「割とこれは危ないのでは?」という考えが開始直後のスタッフルームに広がっていったのだという。


『いやー。僕らがもうちょっと権限に踏み込んで作業できれば良かったんだけどねぇ』


 システムAIの一人、天使型AIのアンビーが開始数分で怒涛の忙しさになってしまったスタッフルームをモニタリングカメラで見つめ、自身は専用のモニタに映って隣にいる男と会話する。


 天使型AIに関しては、メインシステムを管理する神話型AIと運営、そしてプレイヤーを繋ぐために本サービス開始後に開発されたAIとなり、アンナとアンコの意識データは第二エリア開放時や先日のイベント発表の際に利用したが、本格的に動き回れるようになったのは(日付自体は変わっているものの)今日のイベントが初となる。


 AIとしての明確な役割と自我を与えているが、何故かアンビーに関してはプレイヤーや運営側と会話をしたがるようになっていた。その影響を受けてか、アンナやアンコに関してもただのシステムAIとは考えにくい程に人らしい思考を人じゃないと自覚しながら持つようになった。


 今回の運営イベントに関しても、本来は運営スタッフがログインして運営しようと思ってた際に、アンビーから自分たちに任せてくれと提言があった為、任せた形となる。


 結果はまさかの大盛況。オマケにスタッフの一部が暴走して作った露骨に狙いにいったその外見と、彼らのその柔軟な思考と性格からファンを名乗るプレイヤーが急増することとなった。


 とはいえ、あくまで中間管理のシステムAIであるため、メインシステムを弄る権限は本来のシステムAIたちに比べると少ない。そのため、今回ばかりは賑やかし程度にしかならなさそうであった。


「気にするな。そういうのは精霊王とかそこら辺の偉いAIが何とかしてくれる。俺たちはそういうのではどうにもできない部分を弄るだけだしな」


 一応の責任者である時矢は残念がっていたアンビーに対して労いの言葉を告げる。とはいえ、肝心のアンビーがあまり気にしてなさそうではあったのだが。


 アルターテイルズのシステムは特殊で、前述の通り大部分のゲーム内管理はシステムAIによって行われている。それはワンダーエクシレル社がゲームの管理を簡略化するために用意したものだった。


 そのシステムAIは女神を始めとして、精霊王などの神話級の存在としてあの世界に存在しており、他にも複数体存在する。


 その中には女神や精霊王の他に神獣、巨人王、妖精女王、黒龍などがといったゲーム内のヒト種族の始祖、あるいは崇める対象といった存在がいる。


 メカノイド族に関連するシステムAIに関しては存在するにはするのだが、現時点ではまだ動いていない。今後、古代遺跡等が本格的に開放されるようになれば裏で動き出すのだろうが、正直そのタイミングに関してはプレイヤーの動きが一番影響あるので、時矢たちには予想はできない。


 実際、精霊王に関しては想定外のタイミングでプレイヤーの前に現れることとなったので、それと同じことが起きてもおかしくはない。


 現に、精霊王イベントの事を知って妖精女王が次に予定していた運営イベントには自身が干渉することを宣言してきたとアンビー経由で時矢たちの耳に入っているので、メンテナンスでようやく収まると思った悩みの種が、突然大木に成長してそのまま倒れてきた感じとなっている。


「なぁ、アンビーよ。一応、次のイベントは生産関係のイベントにしようと思ってるんだが、妖精女王が関わるとどうなると思う?」

『うーん。僕に聞かれても困るけど、多分特殊な素材集めをさせて、彼女の眷属を解き放ったりするんじゃないかな? 一応、もの作り的には彼女ら妖精はハーフリング族の始祖だから、ハズれてはいないと思うけど』


 アンビーがそう告げると、時矢は大きくため息をつく。とはいえ、まだ先のことをとやかく言っている余裕は彼らには無いのであり、これから始まるメンテナンス地獄に足を踏み入れる事となる。


 メンテナンスとはいえ、メインのサーバーは稼働し続けている。それは、ある意味でこのゲームは一つの箱庭であり、その中で生活しているNPCは今も確かにそのゲーム内で生活しているので、止めるわけにはいかない――というのが、メインシステムAIと開発者のワンダーエクシレル社長の言い分だった。


(稼働しっぱなしのサーバーでメンテナンスとか余計に気を使ってしまうな……まぁ、俺らは運営委託された側だからとやかく言う立場じゃねーが)


 そして、最後のプレイヤーのログアウトを確認した時矢たちはメンテナンスを開始する。


 次のサービス開始時――それはまた新たなアルターテイルズの物語が始まりでもあるのだ。



 ――――――――――――

※最新話に関してですが、多忙な点と現時点の自分ではあまり話が広げられないと判断して、非公開にしました。申し訳ありません。

 次の章はメンテナンス中の話ではなく、アップデート後の話を書いていく予定ですが、今のところは連載再開の予定は未定です。

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