タイム・イズ・カミング

「そういえば、なんでカナタはこのイベントに来たいって思ったんだ?」


 説明がひとしきり終わったことで落ち着いたカナタに対して、ふと疑問に思っていたことを問いかける。既に俺の中ではカナタは『テレビの中の人』から『ゲーム仲間』になっている。


「そりゃあ、このゲーム初のワールドイベントだったからね。そんな面白そうなの、参加したいに決まってるじゃないか!」


 まぁ、そりゃそうだよなという感じの返答である。


 たまたま発生者の俺と知り合いだったから参加させてもらおうというのは、キャンティたちやフラワリング・デイズも同じような理由になる。


 俺だって知り合いがこういうイベントを発生させたって聞いたら、お溢れに預かりたいと思うかもしれない。


「まぁ、僕としてはもう一つのワールドイベントに参加するというのも悪くはなかったと思うのだけどね」


「もう一つのワールドイベント?」


 ふと、話に割り込んできたオルカがワールドイベントがもう一つ発生していることを告げる。


 どうやら詳細は不明だが、スタンピードのようなものが発生しかけているらしく、また別のワールドイベントとして表示されているようだ。


 そっちもレイドに似たような感じらしいが、特に参加制限はなさそうで、どうやら第二の街まで辿り着いていれば誰でも参加可能らしい。


 しかし、どちらにしろ夜中の12時からイベント開始って中々えげつないよな。それでも参加している俺達って……。うん、あんまり考えないようにしよう。


 因みに俺たちはこっちの『赤の悪魔』を発生させている事から、最初からもう一つのワールドイベントBの方は表示されていない。


 その理由としては、このレイドイベントと同じ時間に発生するからという事なのだろう。どちらか一方のイベントにしか参加することは出来ないようだ。まぁ、同じ時間なのだから当然といえば当然だ。


「向こうはこの第二の街に迫りくる大量のモンスターをそれぞれ討伐していくっていうイベントのはずさ。そうなると僕の出番はあまりなさそうだったし、何よりこっちの方が難易度は高そうだしね。いやぁ、参加できてラッキーだったよ!」


「それは……どういたしまして?」


 俺がそう言うとにこやかに「ありがとう!」と告げるカナタ。うーん、素直に感謝されると何か変な感じだなぁ……。


 しかし、スタンピードか。もしかして、アドミスが姿を消したのはそっちの事があったからだろうか? 確認しようにも、もう開始まで時間はほとんど残されていない。


 まぁ、この場に居ないということはこっちの方には参加しないということなのだろう。一応、レイドイベントにNPCが追加で参加できるかどうかが気になっていたのだけど、こればかりは仕方ないか。


 取り敢えず、サザンカさんとサイモンさんによる装備の耐久値の回復や、そこにマイマイを含めた装備の強化はギリギリ間に合うこととなり、それぞれアイテムを作っていたナサやメルカも何とか必要分を作ることは出来たようだ。


「……これで、取り敢えず回復アイテムはバッチリ」

「私はしっかり爆弾の方を補強しておいたよ!」


 爆弾という言葉を聞いて、カナタが興味深そうにしていたがその点は終わってから聞くことにしたようで、特に聞きに行こうとはしなかった。


 因みにカナタは既にここに来る前にかなりの量のアイテムを作ってきたらしく、回復アイテムや攻撃アイテム、そして悪魔に効きそうな神聖属性のアイテムも幾つか用意してきていた。


 流石は万能生産士……。ホントに何でも作れるんだな……。レシピの発想力がおそらく他と違うんだろう。


 その後、ログイン時間の調整のために再ログインしてきたサザンカさんたちが戻ったことで、レイドに参加するメンバー全員がこの司法ギルドに揃ったこととなる。


「さて、もうそろそろワールドイベント開始だけど、みんな準備はいいか?」


 俺がそう問いかけると、皆が準備完了という感じで頷いていく。まぁ、準備が良くなくても時間が来れば否応なしに向かう必要があるのだが。


「相手は悪魔だ。正直、どんな手を使ってくるか分からないし、何が待ち受けているのかも分からない。それでも……あいつに連れ去られたメリッサを助けるためにみんなの力を貸してほしい」


 あれから数時間。メリッサは一人であの悪魔と一緒にいる。きっと怖い思いをしているだろう。早く助けてあげたい。


 俺がそう告げると、「何を今更」とレンが告げる。


「さっさとあの悪魔野郎を倒してメリッサを助け出そうぜ!」


「そうよ! メリッサが可哀想だもん!」


「……うん、メリッサはいい子だから早く助けたい」


「私もお嬢様と同じです!」


「みんな、あの子のこと気にかけてたものね。私も頑張らなきゃ」


 チームメンバーたちの声が続く。そして、他の参加者たちも同じように勝利に向けての意思表示をあげていく。


 彼らは俺たちのようにメリッサの事を知っているわけではない。それでも、「女の子が悪魔に連れ去られたのなら、助けるのは騎士の役目だよ」とか「そういう救出イベントは見過ごせないね」といった声が聞こえる。


「みんな……ありがと――」


〈時間になりました。これよりワールドイベントA『赤の悪魔』を開始します。参加プレイヤーが規定人数に達していることを確認。これより、『赤魔城』へと転移します〉


 俺が感謝の言葉を告げようとした瞬間、突如としてアナウンスが鳴り響き、僕らの意識は司法ギルドからあの悪魔が残した異界へ通じるワープゲートの先へと飛ばされていく。


 もう少し、タイミングをみて開始して欲しかったんだがなぁ……。


 しかし、ここからか正念場だ。外のことは他のプレイヤーたちに任せよう。

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