カナタ
その顔を見た瞬間、一部のプレイヤーを除いた多くのプレイヤーが目を飛び出させるような勢いで見開いていく。
「ま、マジか!?」
「カ、カナタってあの
「うっそ、めっちゃ有名人じゃん!」
方々から声が響く。
神宮寺彼方――確か、機械工学と電子工学、そしてプログラミングの世界において『天才』と呼ばれた少年が、そう呼ばれていたのを俺は覚えていた。
アイドルとしても活動できそうなレベルの
同い年の有名人ってことで気にはなっていたが、最近は自分の方がゲームに夢中でテレビもあまり見なくなったのですっかり忘れていたが、まさか同じゲームの中に本人が居るとは思わなかった。
そういえば、アルターテイルズのβテストの時期にやけにテレビに出ないと思っていたけど、まさかβテストに参加していたから……?
正直、比較しては悪いのだが、世間の知名度的にはファッションモデルでデザイナーのマイマイよりもかなり上となるのではないだろうか。
まぁマイマイの方は、その分野なら知らない人がいないレベルの高い知名度なんだが、流石に『テレビの人』には勝てないと思う。
「……あはは。まぁ、流石にバレるよね」
流石に知名度的に知らない人が少ない事を察して苦笑いを浮かべるカナタ。まぁ、顔も弄って無さそうだから当然といえば当然である。
「そりゃそうニャ。だから始める前に名前とか顔は変えニャよって言ったのに、頑なに変えないからこうなったニャ。……お陰でそのローブを探すのに苦労したんだからね」
そんなカナタの様子に「ハァ」とため息混じりに呟くミャウ。どうやらこの二人はリアルでも親しい間柄にあるようだ。最後に素が出ているのに気付いていない。
その時、そんなカナタの様子をじっと見つめる目があることに気づいたようで、その方向に向けて微笑むカナタ。おそらく普通の女性なら向けられるとドキッとしそうな感じの甘い微笑みだ。
それが俺の方に向けられているのだから、流石に驚く。
「……そうそう。久しぶりだね、ゼファー。元気にしてたかい?」
そんなカナタは俺の肩に乗っていたゼファーに向かってそう呟く。
……ん? カナタはゼファーと顔見知りなのか……?
「お前は相変わらずのほほんとしてるな、カナタ」
フンと鼻息を鳴らして呟くゼファー。
何やら二人だけの世界が広がりつつあるのだが、流石に説明してほしい。
「ゼファーとカナタ……は知り合いなのか?」
「うん。君もゼファーのダンジョンに挑んだんでしょう? 実は場所は違うみたいだけど、僕もβテストのときに挑戦してたんだ。残念ながらクリアは出来なかったんだけどね」
「あー、成る程。そういえば、ゼファーがあの時……」
そう言って俺は初めてゼファーと会った時の事を思い出す。
確か、あの時ゼファーは俺がダンジョンに入ったときに「来訪者は珍しい」と言った。あの時はだいぶ昔に挑戦した者が居たという設定かと思っていたが、それならわざわざ来訪者とつける必要はなかった。
そして極めつけは俺が一応ダンジョンをクリアした時にゼファーが呟いた「ここまで楽しんでおいらのゲームをやってくれたやつはお前で二人目だ」という発言。
まるで、少し前に誰かが挑戦したかのような言い方だったが、どうやらそれはこの眼の前にいる男の事だったらしい。
因みにカナタ曰く、その時はたまたま精霊石を手に入れていて、それでうまいことゼファーの精霊の隠しダンジョンを見つけたとのことだ。
というか、クリア出来なかっただって?
「アハハ……。実は運動がものすごく苦手でねぇ……。あのアスレチックは流石に無理だったよ。そもそも『テイミング』も使えなかったから、攻略も契約も諦めたんだけどね」
アハハと笑みを浮かべるカナタ。そういえば、テレビ番組でもその運動音痴っぷりは遺憾なく発揮されていたような……。うん、その記憶が正しければ、確かにあのダンジョンはクリアは出来なかっただろうな。
しかし、もしクリアされていたり、テイムされてたりしたら、俺とゼファーは出会ってなかったかもしれないってことか……。
まぁ、βテストの時と本サービスとではそもそもの場所が違っている筈だし、仮に契約しててもリセットされるから、もしかしたら変わらなかったかもしれないけど。
「まぁ、その時のカナタの記憶のお陰で、僕は
「そうだね。その時のことはオルカにしか伝えてないし」
オルカが呟くが、どうやらその時のカナタの体験を元に、オルカは最初に手に入れた☆5アイテムの『妖精の雫』という宝石アイテムを使って妖精と契約できる場所をずっと探索していたらしい。
結果として見つけたのが第二エリアにある『妖精の花園』という場所らしい。ゼファーが後で案内してくれると言っていた『精霊の泉』の妖精バージョンといったところか。そこで中級妖精と契約したことでオルカは妖精使いとなったようだ。
「うーん、気になる話ではあるけど、そういった事はこのイベントが終わってから聞かせてもらえると嬉しいな。今はレイドイベントが優先だ。……それで、カナタの『万能生産士』ってどういうことができるんだ?」
それまで魔剣騎士や戦乙女に関してはオルカが率先してバラして来たが、未だに『万能生産士』に関しては謎しかない。まぁ、文字面的に工作系のジョブであることは間違いないのだが……。
「あぁ、万能生産士はね――何でも作れるよ」
「……は? 何でも……?」
「そう。何でもだよ」
何を言っているんだという目でカナタを見つめるが、当の本人は特におかしな事を言っているという様子はない。
まぁ、『万能』という文字を見た時点で察しがついていた事ではあるが。
「基本的に、どの手の生産スキルを使って生産可能なアイテムに関して補正を与えてくれるジョブになるね。一応、
クラス1の工作夫は他の生産系のジョブと違って、ジョブ自体で生産スキルを覚えるというジョブになっており、ジョブアビリティによって扱える素材が変わるという仕様になっている。
ある意味では生産職を目指したいプレイヤーの入門的なジョブになるだろう。
ただし、クラス1にある
因みに普通に生産技能の中に【工作】というアビリティは存在し、クラス2以降の工作夫系ジョブはそれに対する補正がかかるようになっている。当然ながら、クラス2以降はそのアビリティを習得している事が条件のひとつとなる。
クラス2の工作夫系ジョブは、
「それならクラス3の
クラス3にある
尤も、それらには専用のレシピを見つけ出す必要があって、同じ素材だからといって別の生産技能のレシピは参考にならないらしいが。
「まぁ、感覚的には似てると思うよ。ただ、専属工作夫だと『工作』にしか補正がないけど、万能生産士には全ての生産技能に対して補正が発生するんだ。それに工作では作れないアイテムも存在するからね。……あと、万能生産士はジョブスキルで素材の変質化が可能なんだよ。まぁ、それは錬金術士でもできるけどね」
そう言ってカナタはインベントリから木の棒を引っ張り出すと、目の前でそれを石の棒へと変えてみせた。錬金術でもここまでノータイムに変質化するのは難しいだろう。ナサにはまだ出来ない筈だ。
因みにランクが違うものに変質化するのは錬金術であっても不可となる。そこらの石から直接金に変質化するのは根本的に無理ということだ。
「他には【レシピのひらめき】っていうジョブアビリティがあって、何かを作りたいって思った時にレベル的に作れそうな場合にのみ、工作レシピがその時限りで表示されるようになるんだ。ただ、それで作ったアイテムは絶対に普通品質になるし、性能に関しても専門の生産職には流石に敵わないけどね。……オマケに作ったとしてもレシピが登録されないから、また作ろうと思ったら工作レシピが変わってて作れなかったりするよ」
成る程、要するにイメージしたものが実力に見合っていればその場で何でも作れる生産職ということになるのか。
カナタの話を纏めれば、万能生産士というユニークジョブは、工作夫では作れない物を作れるようにし、また全ての生産技能に対して補正が多く付く感じのジョブなのだろう。故に『何でも作れる』……という事なのかもしれない。
「……しかし、ここまでユニークジョブ持ちが多いということは、もしかするとユニークジョブというのは結構簡単に取れるもんなのかねぇ?」
ふとリックが『クロノス』のメンバーを見回して呟くが、確かにその通りなのかもしれない。
俺だって前に確認した時はユニークジョブを二つ習得可能になっている。……まぁ、精霊使いの方は他のプレイヤーがなっているのかもしれないが、もう一つの精霊術士は精霊王によってキープ中だ。
しかし、俺のように偶然条件を達成できるようなユニークジョブなんてのはかなり少ないだろうし、後はやはりやり込むことで見つけ出す他ない。
そもそも、ユニークジョブだからといって強いとは限らない訳だしな。それこそ、ジョブの情報が無さすぎて将来的にどうなるのかも分からない訳だし、ネタジョブの可能性もかなり高い。
その点、クラス3のジョブの多くはβテストの時のデータや本サービスでのデータで、ある程度のレベルまでは解析が進んでいる。
まぁ、それだけ情報が出回っていれば対策もされやすいという点もありはするのだが、あくまで対人戦に限った話だし、そもそも対策したところで最後に物を言うのは個人の育成具合となるだろう。
ジョブの基礎がしっかり分かっていれば、そこから個人のアビリティでどう伸ばしていくのかが重要になってくるだろうし、
「まぁ、僕の方は確かにそんな難しい条件ではなかったかな?」
そういうカナタの発言に『クロノス』以外のメンバーの皆が聞き耳を立てる。ユニークジョブの習得条件は既に習得しているプレイヤーのものの場合、あまり意味はない。他には習得することができないからだ。
とはいえ、似たような条件を持つユニークジョブの参考になる場合もあるので、皆聞こうと必死になっている。まぁ、既にユニーク持ちであるリーサやナサ辺りは特に興味は無さそうだが。
「確か『万能生産士』の条件は、複数の生産スキルを使用することで製作可能となる特定の☆7アイテムを作り出すこと、だったかな?」
あっけらかんと笑いながら呟くカナタに、ドン引きする他の参加者たち。
……あぁ、やっぱりそういう系なのね。
やはり生産職のユニーク、リーサやナサのように高ランクアイテムの生産がトリガーだったか。そりゃ真似できない。
しかし、生産スキルを複数種使うアイテムなんて存在するのか?
「ところで、それはどういうアイテムなんだ?」
「ん? そうだね。それは『生命の秘宝』っていうアイテムなんだよ。βテストの時に生産スキルを使って遊んでたら、特定のアイテムを素材にしたときに生産スキルの待機時間があることに気付いてね? そこで他の生産スキルを使ってみたら、なんと生産アイテムが変化したんだよ。それから色々なスキルを試して――」
おっと。これはカナタの何らかのスイッチを踏んでしまったのか? 特定のアイテムの話をし始めて止まらなくなってしまったな。
その様子を見て、オルカとミャウが静かにため息をついている。
「カナタはね、こうなると止まらないよ?」
「こいつ、天性の『新発見話したがり屋』ニャから……」
あー。成る程、そういうタイプなのか。そりゃ、あまり表には出せないよな。色々、自分らの専売特許的な奴を流出させかねない訳だし。
まぁ、聞かれたところで真似しようがないっていうところはありはするけど……。
取り敢えず要約すると、カナタの場合は初期アビリティから複数の生産技能アビリティを選択してて、ベータテスト中に幾つか習得した結果、特定の生産スキルが特定の素材に対してチェーンするように作用することが分かり、最終的に『生命の秘宝』とかいうアイテムを作り出した結果、このジョブに行き着いたとか。
結果として、習得したアビリティは生産技能がほとんどだとか。どれだけ覚えたんだろうか。
取り敢えず、熱意が凄いのだけは理解できたような気がする。因みに『生命の秘宝』は特に高値がつくわけでもない換金アイテムだったらしい。
……こうして俺たちは、『クロノス』のリーダーが何故表に出てこないのか、という疑問の一つの理由を知りつつ、レイドイベント開始までの時間を待つこととなった。
――開始まで、既に残り一時間を切っていた。
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