『クロノス』の到着

 予定していた時間の約数分前になって『クロノス』のメンバーが司法ギルドへと足を運ぶ事となった。


 外に集まっていた人だかりから「『クロノス』だ……」という声が聞こえてきたことで分かった。


 そこには6人の人影が存在していた。まぁ、フルパーティーの筈だから当然といえば当然だ。


 そのうち、俺たちもすっかり顔なじみになってしまったナギサと、これまたキャンティとは知り合いだったオルカの2人以外のメンバーとは初顔合わせとなる。


 うちひとりは羊毛系の布装備を纏った猫耳少女、ひとりはチャックがついたボロボロのパンク系な革鎧を着た奇妙な少年、ひとりはピカピカに輝く金と銀の鎧を着た女性……? で、最後の一人は頭まで深々とフードを被った少年……? のようで、あまりにもバラエティ豊富すぎて、何がなんだかよくわからないのだが、これが『クロノス』なんだろう。


 何だかんだ、6人勢ぞろいで外に出てくるのは初めてだったらしく、そりゃあれだけ外で騒がれるはずだよなと納得した。


 そんなオルカの肩には、ちょうどそこに乗るサイズの妖精みたいな子がちょこんと座っていた。容姿的には御伽噺や童話映画などに出てくるような可愛らしいドレスを着ている感じだ。動かなかったらその手の人形だと思ってもおかしくないだろう。


「やぁ、お待たせしたね。初めましての人も多いのかな? 『クロノス』のオルカだよ。一応、サブリーダー的なポジションなんだ。よろしく」

「あら、そういう挨拶するタイプのやつ? まぁ、私は説明する必要なんてないでしょうけど」


 オルカとナギサの両名が語り出すが、ナギサは相変わらずの態度を取っていたのでオルカから肘で打たれる。それに対してナギサがつつき返すという変なやり取りが行われているが、2人の場合背丈がだいぶ違うのでナギサが凄く中腰になってる。


 というかオルカがサブリーダー的な役割だったのか。


 そんな2人のつつき合いを余所目に、黒髪の猫耳を付けた少女が話しかけてくる。歳としては俺達と然程変わらなさそうだ。


「ミャウにゃ! 掲示板の情報屋といえば早いかにゃ? 今日はよろしく頼むにゃん!」

「あら、情報屋ちゃんじゃない! ……掲示板の外の方でも、そのキャラで行くことにしたのね」

「……うん、もう吹っ切れたにゃん。マジ、あのキャラ付けで行こうと思った昔の自分を引っ叩きたいけど、もう後悔はしないと決めたにゃ」


 シグねぇから指摘されて顔を真っ赤にするミャウであったが、何やら遠くを見るような目で何かを諦めたかのような顔をしていた。


 どうやら彼女、掲示板の方で猫口調のキャラ付けで書き込みを続けていたらしい。


 ジョブが情報屋という情報を売り買いすることで経験値を得られるという特殊なジョブであった事から、情報スレなどで情報を流したりしていたらしいのだが、普通の口調だと相手にされなかったことで当初は猫キャラで行こうとした結果、猫口調の痛いキャラみたいな扱いになってしまったようだ。


 今では普通に掲示板外でも活動している様子で、その時からこの口調にしたことで、彼女は猫系なりきりキャラとして一部の界隈には人気となっているらしい。


 まぁ、本人がそれでいいなら別に良いんじゃないかな……? もはや俺がどうこう言える話ではないだろう。


「……フハハハハ! 災厄に集いし星々の使徒供よ。我が名はレイヴン! 唯一無比たる『魔剣騎士ダークナイト』の適合者にして、吉凶を齎す黒鴉の化身なり!」


 すると、突然ミャウの後ろに立っていた中二風にアレンジされた革鎧を着た少年が何かを喋りだす。もしかして、自己紹介なのだろうか?


 取り敢えず、名前がレイヴンであることと、おそらくユニークジョブの『暗黒騎士ダークナイト』を習得していることだけは分かったのだが。


 確か、ミャウ以外のメンバーは全員ユニークジョブなんだっけ。凄いな。


 まぁ、あの様子だとどんなジョブなのか聞くのが大変そうだけど。そもそも教えてくれるのかね?


「……えっと、彼はレイヴンだにゃん。私以上に痛いやつだけど、根は凄くいい子だから仲良くしてやって欲しいにゃん」

「うん、よろしくな! レイヴン!」


 ミャウからの追加の説明(ただし、あまり追加になっていない)を聞いて、いの一番に握手を求めたのはフラワリングデイズのガーベラであった。なんというか、俺もさっき会ったばかりだけど、そういうノリの人っぽいもんな。


 対して握手を求められた方であるレイヴンはあまりの勢いに逆にテンパってしまっている。「え? え?」って呟きながらブンブンと手を振り回されている。心なしか若干顔も赤いように見える。流石は最新のフルダイブVRだ。


 こちらから話しかけてきてもあまり喋らないが、時折変な中二口調で話したりする。おそらくはコミュニケーション能力があまり強い方ではないんだろうな。


「は、離せ! 我が右手には災厄の魔が封じられて――」


 あまりにもブンブン振り回されているのと、おそらく相手が女性だからということで慌てて手を振りほどくレイヴン。勢いよく引き離したからか、ガーベラが少し後ろに仰け反ってしまい、レイヴンは咄嗟に申し訳無さそうな様子で顔をしかめてしまう。


「アハハ! 面白いわね、この子! もしかして、その右目の眼帯とか魔眼がある感じなの?」

「ちょっと、ユーリカ! あんまりからかっちゃ悪いよ……」


 そんな様子にケラケラと笑うユーリカとそれを嗜めるナナミ。それに対してレイヴンは魔眼と聞いたあたりで目の色が変わる。勿論、比喩的な意味であり、実際には変わっていない。


 まぁ、変わりそうなスキルとか装備とかはありそうではあるが。


「フフフ、この封眼帯の下には邪王眼があってだな――」


 そんな流れでレイヴンが色々話し始めたのでそういうのにノリノリなメンバーに後は任せて残りのメンバーの話を聞いてみることにする。


 とはいえ残り二人は特に自分からは話はしなさそうな感じのキャラではあったのだが。


「えっと、こっちがエインヘリアル。一応、ユニークジョブの『戦乙女ヴァルキュリア』になるにゃ。超絶人見知りだけど、根はいい子にゃから仲良くしてやってほしいにゃ」

「……………………よ、よろし、く」


 そう言ってミャウは全身鎧のプレイヤーの紹介をする。見た感じは物凄く目立つ全身鎧なのだが、本人があまりにも人見知りするため、ほとんど会話にならない。


 背丈的に僕らよりもかなり大きい方だが、これでもハルやユキと変わらないくらいで、まだ中学生なのだという。鎧の丈もあるのだろうが、マイマイさんと変わらない背丈とスタイルをしているからおそらくかなりのモデル体型をしているのだろう。


 そうか、これで中学生なのか……。


「ん。よろしく」

「よろしくなー!」

「はぅぅ…………」


 同じ中学生だと知ったユキとハルから挨拶され、物凄く小声で何かを返答するエインヘリアル。


 確か、エインヘリアルは北欧神話においてワルキューレによって死後ヴァルハラに導かれた勇者の事をさした名前だ。


 わざわざそこら辺の名前を付けるあたり、神話とかそういうのが好きそうだなこの子。


 因みに魔剣騎士と戦乙女はどちらも同じ騎士系統のユニークジョブだが、魔剣騎士は近接アタッカー、戦乙女は近接タンクにポジショニングされる。


 それらのジョブについては、オルカがレイドイベントで共闘するからと俺にだけ特別に教えてくれるようだ。勿論、二人から了承は得ており、伝えていいかとオルカに問われた時は二人ともコクリと頷いていた。


 本来なら俺から二人に直接聞いたほうが手っ取り早いのだろうが、正直俺はこの二人とうまくコミュニケーションを取れる自信がないので、オルカが代わりに説明してくれて助かった。


「まず、魔剣騎士からだね」


 魔剣騎士はその名の通り、『魔剣』と呼ばれる剣を使うことに特化した騎士系統ジョブとなる。その特性として特殊属性の一つである混沌属性を【剣術】系のアーツに付与する事ができ、ジョブアーツやジョブスキルも混沌属性を持つものが多いらしい。


 騎士系統の中ではかなり攻撃に比重を傾けており、守りを固めるスキルに関してはあまり覚えてはいないらしい。ただ、ジョブ特性から自身が混沌属性になる為、基本的に属性攻撃は相反する神聖属性以外はあまり効果がない。


 基本属性の場合、特攻対象からの攻撃は減衰する仕様になっているが、応用属性の場合は光と闇、神聖と混沌のように互いに特攻対象になっている。また、それら応用属性持ちに対して基本属性の属性ダメージは減衰される仕様となっているのだ。


「成る程、アタッカーだけど敵からの攻撃もほとんど受け付けないからかなり硬いと……流石は最強クラスのユニークと呼ばれるだけはあるな」


「フッ、我が魔剣に切り裂けぬ物などないからな! フーッハッハッハッ!」


 俺の感想を聞いていたのか、レイヴンは意気揚々と高笑いを上げる。しかし、よくそんな魔剣を見つけられたな?


「魔剣については第2エリアのダンジョン産だね。一応、混沌属性になるから、神聖属性や光属性にはかなり弱いという弱点はあるけど、その点はエインヘリアルの戦乙女がカバーする形になるね」


 次にオルカが戦乙女について説明を始める。


 戦乙女は攻撃重視の魔剣騎士に対して防御重視のステータスとなり、カウンター系のジョブスキルやアーツを多く覚える。しかし、守りだけを行うジョブというわけではない。


 戦乙女には、オークラの神殿騎士のように攻撃の際に防御系のステータス値を参照するというジョブ特性があるのだが、神殿騎士が盾を使った物理攻撃だけだったのに対して、戦乙女は技能アビリティのスキルやアーツによる攻撃に限り、VITやMINを参照するという効果となっている。実質的な上位互換というわけだ。


 尤も、VITがより高くなりやすく、物理攻撃に対しては滅法強い神殿騎士に比べて、戦乙女はVITとMINの両方がバランス良く上がるため、物理や魔術のどちらかに特化する形ではなくバランス型となる。


 だが、そのバランスの良さがどのような攻撃に対しても強気に出ることが可能となる。また、戦乙女はその響きから神聖属性持ちかと思ったが、どうやら別に属性持ちではないらしい。


 なので、魔剣騎士のレイヴンが強気に出ることのできない神聖属性や光属性持ちに対しては、彼女が前に出るだけで強い牽制となる。まぁ、それはどの属性持ちの敵に対しても同じなのだが。


 要するに彼らは『クロノス』の最強の矛であり、盾という事になる。


 因みにナギサは先のバトルロイヤルにおいて最強格の力を見せつけていたが、この二人に対してはかなり分が悪いらしい。


 まずレイヴンに対しては炸裂魔術そのものが火属性の属性攻撃に当てはまる為に効果が薄く、なおかつ接近戦に持っていかれるので一方的にやられてしまうらしい。


 また、エインヘリアルに対してはカウンタースキルやカウンターアーツで炸裂魔術が封じられる上に、普通に剣術や盾術のアーツを使えるのでレイヴン同様に接近戦に持っていかれてアウトとなる。


 因みにバトルロイヤルの時は普通にオークラさんを倒したナギサだが、オークラさんがもう少し属性攻撃や魔術攻撃に対して対策を張っていたり、スキル回しを上手くしていれば、勝負はオークラさんの方に分があっただろう。


 祝賀会の時に悔しそうに「MINやMPを上げていれば……」と呟いていたオークラさんの姿が脳裏に浮かんだ。まぁ、その頃は第2エリアに突入して居なかったのだから、準備不足になるのは仕方ないだろう。


「……まぁ、そういうわけだから守りの方はほぼ問題ないだろう? だから、そちらも安心して生産職プレイヤーを参加させるといいよ」


 その時、それまで口を開いていなかった深々とフードを被った少年……? が口を開く。少しだけ声が低めなものの、おそらくは俺とほぼ変わらないような年頃の男の声だ。


 そして、その少年はフードをゆっくりと後ろへと脱いでいく。ここまで顕にならなかった顔が明らかになっていく。


 ……今思うと、認識阻害か何かのアイテムを使っていたんだろうな。そうじゃないと、この顔を見間違える訳がない。


「ふぅ。……あ、僕はカナタ。一応、『クロノス』のリーダーをやっている、万能生産士マルチクラフターだよ。よろしくね」


 そこに居たのは、俺と同じく眼鏡をかけてはいたものの、うって変わって黒髪の好青年イケメンという感じのプレイヤーだった。




 ――――――――――――

【お知らせ】

 本日、2023年7月6日はアルターテイルズの連載開始から一周年となります。あっという間でしたね。

 皆様の応援のお陰で何とか続けてくることができました。本当にありがとうございます。

 そんな中、しばらく更新がたどたどしくなってしまって申し訳なく思っておりますが、これからも気長にお付き合いいただければと思います。

 ……特に一周年だからと記念でどうこうするという予定は全くありませんが、他作品共々これからもご愛読していただければ幸いです。

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