VSブラッディハウルベア……?
ブラッディハウルベアは足を踏み入れた俺たちを待ち構えていたかのように威風堂々と立ち構えている。
情報だと戦闘開始直後は眠りについている筈で、そこで攻撃を与えることで目が醒めて戦闘に移行する……という流れだったのだが、目の前にいるブラッディハウルベアは既に起きてしまっている。どういうことだ?
「くそっ、最悪だ! 起きている方を引いちまった! すぐ咆哮が来るぞ! 気をつけろ!」
そうレンが叫ぶと、ブラッディハウルベアは息を思いっきり吸い込むと凄まじい勢いで咆哮を放つ。その勢いは戦闘エリアの端にした俺たちに届くほどの威力であり、これはスタン云々とかいうレベルじゃない。というか、ナサが危ない!
「リリー!」
「はい! 『私は貴方のもの』! 『サーバントガードナー』! 『シールドエリア』! 発動! ――リーサ、お願い!」
「分かったわ! ナサ、『ヒール』!」
リリーが立て続けにスキルとアーツを発動する。
サーバントガードナーは主人よりも前にいる場合、自身の構えている盾に敵からの物理攻撃を軽減する効果を与える護衛侍女のジョブアーツとなる。それをシールドエリアによってパーティー全員に盾展開状態を付与した形となる。
ナサは元のHPが低いため、リリーの『私は貴方のもの』とリーサの『ヒール』が間に合った為に何とか生き残っているような状態だ。
想定していたスタン効果は発生しなかったものの、衝撃によって吹き飛ばし効果が発動してしまったことで、俺たちの位置関係が完全にバラバラになってしまう。
くそ、初見殺しにもほどがあるぞ……。
俺は従魔を呼び寄せる『緊急招集』でゼファーとミュアを呼び寄せる。グレイはレンと同じ場所だったのでポジション的にそのままにしておいた。グレイには悲しさそうな顔をされたが、すまん……MPのことを考えるとその位置からはMPがかなり減りそうなんだ……。
リリーも『貴方の元へ』の効果でナサと合流する。ナサの近くにいないと『サーバントガードナー』も効果がないからな。
遠くはなされてしまったのでフレンドチャットのボイスチャットでレンと話をする。そうそう無いが、戦闘中にこういった形で離れてしまう場合や、広いエリアでそれぞれバラけて戦闘を行う場合があるので、戦闘メニューにもチャット機能が存在するのだ。無論、普段は声が届くので使わないが、対人戦などで相手に聞かれたくない時に連絡を取り合うことにも使える機能となっている。
ただし、フレンドチャットで戦闘中使用できるのはボイスチャットに限られるし、複数人を対象とするチームチャットは仕様が複雑なのか現状では未実装となっていて使用できないため、指示は個別に送る必要がある。チームチャットの戦闘中使用もメンテナンス後に実装されるのだろうか……。
「レン、なんか知ってるんだろ? これは何だ?」
『ああ……。実はブラッディハウルベアには、かなり低確率だが最初から起きっぱなしの個体が居るらしくてな。そいつは激昂個体といって通常個体とは行動パターンが諸々違うらしい。まさか咆哮で吹き飛ばされるとは思わなかったが。……出現条件は不明だがレアドロップがほぼ確定らしいから、ある意味幸運なのかもしれないな』
「マジかよ……いや、そんなラッキーは要らねぇよ……」
このパーティー、3人も幸運持ちが居るからって、そういう形の幸運は求めてないです!
激昂個体はホントにかなりレアで、レンが言うにはキャリーを実行しているプレイヤーでも何百回とやって一回出てくるかどうかレベルの確率らしい。強さ自体は変わらないらしいが、通常個体よりも更に硬く、またそれまで明らかになっているブラッディハウルベアの行動情報がほぼ当てにならない為、苦戦することは間違いないだろうとのこと。
そんなブラッディハウルベアは俺たちの姿をぐるりと見回しその目に捉えると、勢いよく走り出す。導線的に狙われているのはリーサのようだ。そのリーサの近くにはケイルが居るだけだ。……まずい!
「ケイル! やつを寄せるな!」
「――分かっている! 『スナイプショット・風纏』!」
俺の叫びが聞こえたのか、ケイルがリーサの前に飛び出すと、狙撃術のアーツであるスナイプショットを放つが、その放たれた矢の周囲には風を纏っているかのように渦が纏わりついている。
ケイルがスナイプショット以外に何を使ったのかは分からないが、その矢は直線的に軌道していたブラッディハウルベアからすると避けざるを得ない攻撃だったようで、咄嗟に矢の軌道とは別の方向に飛び跳ねた。
それにより、攻撃対象がリーサから外れたようでブラッディハウルベアは周囲を見回している。
現在、咆哮による吹き飛ばし効果で俺とゼファー、ミュアは北の方向、ナサとリリーが南の方向、ケイルとリーサが西の方向、レンとフィーネ、グレイが東の方向、という形でバラけてしまっている。
そんなブラッディハウルベアの背後に向かってレンが駆け抜け、そのまま背後に向かって飛びかかる。
「喰らいやがれ! 【精霊剣技】――『エレメントダンス』!!」
レンが白黒二対の双剣であるエレメントモノクロームを構え、上空で新たなアーツを発動する。あれこそがユニーク武器であるエレメントモノクロームに与えられた能力のようだ。
刀身に光が宿り、まるで上空で踊るかのように剣撃を繰り返す。どうやら連続で敵を斬りつける連撃系のアーツのようだ。おまけに滞空時間が長いので、上空で連続攻撃が可能となっている。
しかし、ブラッディハウルベアはその連撃が始まった時に巨大な腕を振り回し、その巨腕による攻撃を受け止める為に咄嗟に双剣で防御の構えをとったレンはアーツが中断され、なおかつそのまま遠方へと吹き飛ばされてしまう。
「ぐっ――!」
「大丈夫か、レン!」
ちょうど俺と従魔たちがいた場所に飛んできたレン。思いっきり地面に激突したが、そこまでダメージは受けていないようだ。
「気にするな! それより、ミュアとゼファーにも牽制をさせてから、ナサに『風化』を使わせろ! やつの耐久系のステータスを少しでも減らさないとこのままじゃジリ貧だ!」
レンは再び立ち上がると、またブラッディハウルベアに向かって走り出す。上空だと避けきれない為か、今度は地上から攻撃するようだ。
俺はミュアとゼファーに自身のアーツを使わせる形で、牽制するように命令する。グレイにはついていける限りでレンとは別の方向からの物理攻撃を頼む。
「よし、最後にこいつを使うぞ。――『従魔激励』!」
そして、俺は先程の戦いで習得していた新たな従魔士のジョブアーツである『従魔激励』を発動する。これは鼓舞の効果を従魔全体に与えるのだが、アーツによる攻撃3回分までは鼓舞の効果が追加で発動するようになっている。
これを利用することで、牽制しながらでも多少はダメージを与えられれば――という考えだ。因みに『鼓舞』と違ってスキルは効果対象外となるので、ゼファーにもアーツを使ってもらうわけだ。
俺は今回、全体を俯瞰して全体に指揮を取るために最初は精霊術を使わずに戦闘することにした。基本的にゼファーたちにモンスターエンハンスや鼓舞、従魔激励を適時かけていく形になる。勿論、状況に応じて精霊術へと切り替える。敵の行動不能状態時とかだな。
「頼むぞみんな!」
「任せてください! 『アローレイン』!」
「任せろー! 『突風』!」
「ガウァ!〔では行って参ります!〕」
グレイがレンと同じくブラッディハウルベアに向かって行くのと同時にミュアとゼファーがアーツを発動する。俺は再びフレンドチャットでナサに連絡を取る。
「聞こえるか、ナサ?」
『……うん、聞こえるよ。どうすればいいの?』
ナサが乗り気で聞いてきたのでヘルメススキルの『
また、再びブラッディハウルベアが全体攻撃をしてくる可能性があるため、リリーには『サーバントガードナー』と『シールドエリア』をいつでも展開できるように準備をお願いした。
フィーネはリーサの元には戻らず、通常攻撃でブラッディハウルベアに攻撃を仕掛けている。なので現在、近接系の戦闘手段を持つものは俺とリリー以外は全て接近戦をしかけている。
大してダメージは与えれていないが、それぞれがそれなりのAGIを持っているためブラッディハウルベアの攻撃も当たることはない。アンコモントカゲのように攻撃の前に予備動作があるわけではないが、腕の振りなどが大振りなので避けること自体は余裕でできている。そこにミュアやケイル、ゼファーの遠距離からの攻撃が放たれるが、だいたいは腕で弾き飛ばされている。あそこは特に皮が厚いようだ。
とにかく、リリーとナサが背後から攻撃できるよう、意識を逆方向に向かせなくてはならない。そうだな、ちょうど俺たちがいる方向へと向かせたままにしないといけないということか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます