サザンカとの約束

「あ、サイモンさん。なんですか……って、アレ? ユークくん? どうして君が……って、戦闘職の君がここにいるのは一つしかないよね」


 呼びつけられたサザンカさんは、サイモンさんの隣にいた俺の姿を見て微笑む。まぁ従魔士は戦闘職じゃなくて特殊職なんだけどね。


 まぁ戦闘をするので戦闘職なことには間違いないのか。


 その後、俺たちが知り合いだったこと(といっても一回露天に来てトレードしただけなのだが)を知ったサイモンさんは、俺たちに話の機会を設けるために一旦離れていった。……向こうの方で聞き耳を立てているが、まぁ気にしないでおこう。


 話をしたところ、サザンカさんは俺が星森のペンダントを購入したあと、またいちから頑張ろうと鍛冶スキルやアーツのマニュアル生産の特訓を開始したところ、それをたまたま目にしたサイモンさんにスカウトのような形で、この技術習得の教室に呼ばれたらしい。


 そうするとメキメキ上達していき、同じタイミングで技術習得を行った他のプレイヤーを追い抜いて今ではサイモンさんに次ぐ実力を持つ――までにはいかないものの、昨日始めたばかりのファーストロットプレイヤーの中では確実にトップクラスの鍛治士となっていた。


 残念なことに、サザンカさんは誰でも習得できるクラス1の鍛治士であるため基本技能である【鍛冶】までしか習得することができない。基本技術は習得可能であればジョブ習得前でも獲得できるからだ。


 中級技能である【中級鍛治】を習得するにはクラス2以上のジョブである必要がある。同じ理由で上級技能はクラス3である必要がある。


 それは戦闘技能でも同じである。だから、俺はクラス2の従魔士である限り中級技能までしか習得できないというわけだ。


 サザンカさんの場合、仮に今は良くても将来的には必要とされる性能のものも、技量不足で作れなくなってしまうだろう。


 そんなサザンカさんのジョブレベルも現時点で18と、パーソナルレベルの16を越えている。


 その理由としてはクラス1ジョブはクラス2やクラス3に比べるとジョブレベルが格段に上がりやすく、またジョブマスターレベルも20と低いためである。


 要するに頭打ちになるレベルが圧倒的に早いのだ。


 サイモンさんはおそらくドワーフ族の種族限定ジョブの剛腕鍛治士アームハンマースミスなので参考にはならないが、取り敢えずクラス3の鍛冶士系ジョブである武装鍛治士バトルスミスであれば、問題なく【中級鍛冶】や【上級鍛治】も覚えられるので技量関係の問題はなくなる。


 確か、武装鍛治士は槌を用いてある程度の戦闘を経験するという条件があったので、自力でモンスターを倒すかパーティーを組んでアシストしてもらいながら戦う必要があった。


「うーん、私ももっといいものが作れるようになれたらって思ったんだけど、モンスターと戦うのが怖いし、知らない人と行くのもちょっとね……」

「あー、確かに。俺も一番最初にモンスターを杖で殴ったとき、ちょっと堪えたもんなぁ」


 今では精霊術でフルボッコ。慣れって怖いな。


 サザンカさんのフレンドは俺以外だと、サイモンさんと何人かの親しくなった生産職プレイヤーしかいないらしく、まぁその中で戦闘ができそうなのは俺とサイモンさんくらいだが、サイモンさんは見ての通り技術を教えるのと、自分の生産で大忙しだ。


 そして、俺の場合は長くても明日の朝までは隠しクエストの攻略をしている可能性があるが、まぁおそらく明日以降なら大丈夫なはずだ。


 なので、もしその気があるのであれば俺がアシストすると、サザンカさんに告げると彼女は少し考え込む。


「……まだね、モンスターと戦うのが怖いんだ。それにやるなら鍛治士を極めてからやってみたいの。……だから、準備ができて、もし勇気を出してやってみようと思ったら、その時はユークくんにお願いするね」

「あぁ。その時はフレンドチャットで連絡してよ。次のエリアに行ってたとしてもすぐに駆けつけるからさ!」


 まだ勇気が出ないために今すぐの話ではなかったが、それでもサザンカさんが武装鍛治士を目指すとなったときには力になることを伝えるのだった。


「あ、そうだ。そういえばサザンカさんと交換した『星森のペンダント』だけど……」


 俺はふとサザンカさんとの話の流れで、以前交換してもらった『星森のペンダント』の効果を説明する。


 その話を聞いてサザンカさんは想定してなかった効果の存在を知ることとなった。


「流石にその時は☆3以上の宝石とか見つけられなかったからね。でも、まさか☆5でそんな性能になってたなんて……」

「まぁ、これのおかげでゼファーに会うことが出来たから……ホント、ありがとうサザンカさん」


 そのゼファーは相変わらず俺の肩で器用に寝ている。こいつ、いい加減起きろ!


 ほっぺたをツンと押し込むと、ゼファーは飛び起き俺とサザンカさんの前に現れる。


「ふわぁ〜! なんだよ、相棒。せっかく寝てたのに」

「お前を紹介したかったから、起こしたんだよ」


 サザンカさんは目の前に突然現れた子供のようなもの――まさかこれが精霊だとは、初見では思うまい――を見てすっかり固まってしまっている。


 あれ? もしかして、また変なことやっちゃった感じ?


「おーい、ユーク! そろそろお前の装備の強化したいから武器とか防具とか貸してくれ――って、何だこいつ!?」


 そこにサイモンさんがやってきて、そしてふわふわと空を飛んでいるゼファーの姿を見て驚愕するのであった。


 ついでにその後ろにいたフライ・ハイのメンバーもである。


 そういえば、ゼファーのことレンとリーサ以外には誰にも教えてなかったか。まぁ、いい機会だから、ここで説明しておくか。


 こうして、俺はサザンカさん、サイモンさん、そしてフライ・ハイのメンバーにゼファーと出会った経緯を簡単に説明するのであった。



 ――――――――――――――――――


(7/14)改めて読み返して、ちょっと面倒なことになりそうだったので、サザンカが【中級鍛治】を習得できない理由を『ジョブアビリティで習得できないから』という理由から、『ジョブのクラスによって特定ランクの技能アビリティが習得できないから』という理由に変更しました。

 そのため、鍛治士NPCのクエスト云々は一旦削除しました。

 今後は、基本技能(【剣術】【鍛治】など)はクラス1以上、中級技能(【中級剣術】【中級鍛治】)などはクラス2以上、上級技能(【上限剣術】【上級鍛治】など)はクラス3以上のジョブの習得が必要となります。

 ただクラス1ジョブは条件無しで習得できるので、結果として基本技能についてはジョブについてなくても習得可能になります。一部の技能については、その限りではないようですが。

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