サイモン

 工房の奥の方にはオークラさんを始めとするフライ・ハイのメンバーが集まっており、朝は抜けていたナナミさんも戻っていた。隠しクエストの件もユーリカから聞いていたようで、参加できない件については気にしなくても大丈夫だとフォローされてしまった。


 そして、そんなフライ・ハイのリーダーことオークラさんと親しげに話す褐色の肌の図体のデカい大男が立っていた。その両腕と両脚は張り裂けんほど太い。この特徴はドワーフ族のものだ。


 ドワーフにしてはかなりの大柄だから、見た目的にはまるでオーガみたいだ。まぁこのゲームのオーガがどんな見た目かは知らないが。


 どうやらあの人がサイモンさんのようだ。


「よく来たな、待ってたぜ!」


 軽快に語りかけてくるサイモンさんは、俺たちの前に歩み寄ると大きな口で笑いながら手を差し出してくる。


 俺は恐る恐る手を差し出すと、勢いよく握り締められる。痛い痛い痛い痛い?!


 あまりに痛がったからか、慌てて手を離すサイモンさん。


「おう、済まねぇな! 本サービスでドワーフを選んでみたんだが、まだ力加減が良くわかってねぇんだよ」

「あ、いえ、大丈夫です……」


 この人、鍛冶で鎚を振るう時と同じ感じで握ってきたのか? ていうかβサービスのときはドワーフじゃなかったの!?


「サイモン、あまり新人をからかってやるな。……済まないね、ユークくん。こいつは昔からこういう性格でね。悪気はないから、どうか三度くらいは許してやってくれ」

「って、『仏の顔も三度まで』ってことかーい!」


 オークラさんがボケたし、サイモンさんがツッコんでる……。


 この二人、どういう仲なんだろうか。あまりリアルについて詮索しすぎるのもあれだから、聞かないほうがいいのだろうけど……。


「え、あの二人ってもしかしてリアルでも知り合いだったりします?」


 そんな俺の葛藤をよそに、リーサはサイモンさんにその事を尋ねてしまう。いや、うんまぁ、よくやったリーサ。


「あ、分かる? お嬢ちゃん。そうなんだよ、オークラとは小学校からの幼馴染でな。βテストの時はたま〜に一緒に遊んでたよなァ?」

「そうだな。基本はレンたちと一緒だったが、本当にたまに互い時間が合うときは、サイモンの素材集めに付き合っていたよ」


 サイモンさんとオークラさんは共に語る。二人は小学生からの幼馴染で高校まではいつも一緒だったのだそう。


 高校卒業後、サイモンさんはそのまま実家の鍛冶工房を継ぎ、オークラさんは大学進学と共に上京、そして今に至るという。


 βテストで再会するまでは十年以上連絡を取ってなかったらしいので、武器の作成依頼で偶然出会った時はお互い驚いたらしい。


「って、俺らの事は別にいいんだよ。それよりだ、俺に依頼したいことあるんだろ? 何が欲しいんだ? 最高の物を作ってやるぜ?」


 そう言うと、サイモンさんは真っ黒な大きな鉄のようなハンマーを持ち上げてニヤリと笑う。


 これは確かに良い物を作ってくれそうだ。


「ま、値段は要相談ってところだけどな!」





 俺はイアンの防具やドロップした武器や防具が強化できないか試してもらい、まだ空いている頭・腕・手・腰防具でDEXやINT、HPやMPが上がりそうな防具を取り敢えずお願いした。


 因みにお代はゼファーの隠しダンジョンの宝石大と小の一組でなんとかなった。というか、これの正体が明らかとなった。


 サイモンさんに宝石を見せると「これ、遺跡の宝石じゃねーか! しかも新種じゃん!!」と大喜びの様子。


 どうやらβテスト時代で、この宝石によく似た赤色の宝石が古代遺跡で稀に手に入ったらしく、その宝石は火属性の効果を付与する力があったとの事らしい。そういえばこの宝石をコアに使ったフィーネにも風属性の力がどうとかって書いてあったな……。


 ランクの割にはかなりのレアドロップで、サイモンもたまにしか見なかったらしい。オマケに情報もただの宝石としか書かれていないため、一目で遺跡の宝石と分かるのはサイモンのような鑑定スキルの持ち主か、NPCくらいであった。


 散々、NPCに断られていた理由はそういう事だったらしい。ただの宝石かと思ったら、かなり分かりづらいレアアイテムだったというオチだった。


 依頼としては小さな宝石一つで十分だということだったが、大きい方はこれを使って新しい装備を作るという話であった。


 レンの方は、今回ほぼ全ての装備を新調することにしたらしく、お金や所持している素材等を提示しながら相談していた。


 その間、手持ち無沙汰になってしまった為、俺はリーサと共に技術指導を受けたプレイヤーたちが作った防具やアクセサリーを見ていく。


 どうやら気に入ったものがあればNPCの店員に話しかけることで購入することができるらしい。宝石は売れなかったが、素材を幾つか売ったので数千FGなら元手がある。


 それではリーサと楽しくウィンドウショッピングと洒落込むか。


「『脱力マナリング』か。MPを20上げる変わりにSTRが10下がる……か。結構、リーサの方向性と合いそうじゃないか? デザインもなんか面白いし」

「え? あ、本当。卵がとろけてるみたいでかわいいわね」


 何よりステータスがマイナスになるデメリットがあるからか1つ1000FGと安い。同じ名前のアクセサリーは複数付けても一つ分の効果しか発動しないので、複数付ける意味はない。


 リーサは早速そのアクセサリーを購入するようであった。……まぁ残金が足りなかったので、俺が立て替えることになったのだが。


 そして俺が他に生産品を見ていると、とある防具を見つけ、その繊細な作りに目が惹かれる。


「あ、これ……」


 手首につけるリングと中指に付けるリングとの間に七色にきらめくシルクのような布が縫い付けられ、その布の中央には複雑な作りの金属装飾が取り付けられている。その装飾の隙間からはかすかに光が漏れていた。どうやら手の防具らしい。


 俺はこの作りに似たものを見たことがある……というよりも、持っている。


「すげぇだろ、それ。昨日までガチの素人だった子が作ってんだぜ? かいつまんでるとはいえ、俺の技術をみるみる吸収して……このゲームにおいては天才っつーのは、ああいう子のことを言うんだろうな」


 いつの間にか背後に立っていたサイモンさんは、その防具の製作者のことを褒めていく。


 βテスト時代からそれなりにトップ生産者として話題になっていたサイモンさんが褒めるというのはかなり珍しいことなのではなかろうか。


 そしてその防具がサザンカさんが作ったであろう手装備『星森のグリップリング』だったので、なおのことの驚きであった。


「ま、そうは言っても。まだまだ甘いけどな。俺だったらマイナス効果なしで、これくらいのプラス効果は出してやるわ」


 星森のグリップリングはMP+50 DEX+10の、手防具としては破格の性能を有しているが、その分MINの値が-30となっている。


 まぁ魔術防御を上げてない、もしくは不要である場合にはありかもしれない。精霊術やテイムでMPは幾らあってもいいので、普通に装備したいところだ。


 よし、取り敢えず購入しよう。2500FGはしたが、これもサザンカさんを応援するためだ。


 そう決意したとき、サイモンさんがサザンカさんを呼びつけたため、購入は一時中止することとなった。

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