行動変化

「――『緑風の大弾丸ストーム・マグナム』!」


 俺はミュアとゼファーと合流し、遠距離から攻撃できる精霊術の一つである『緑風の大弾丸』を発動する。これは固定ダメージだった『緑風の弾丸』の強化版でこちらは固定ダメージではない。弾丸となる風の玉が巨大化したことで射出まで時間はかかるようになったものの、効果範囲とダメージ量はかなり上昇することとなった。


 その速度は『緑風の弾丸』や『乱風の鎌鼬』といった速攻性のものよりは遅いものの、ある程度の速度はある。まぁレンなら俺のように見てから回避する、というよりはギリギリまで引き付けていても避けることができるだろう。


 そもそもアシュラゴーレムは戦闘開始から一切あの場所から動いていない為、まず避けられるということはないだろう。


 進行方向にはグレイに跨ったハルが居るが、既に【テレパス】でグレイに攻撃することは伝えたので避けてくれるだろう。多分伝えてなくても、グレイのAGIなら余裕で避けられる。ハルが振り落とされないことを祈る限りだ。


 アシュラゴーレムは『緑風の大弾丸』に気付くと、その風の玉を腕で弾き飛ばそうとするが風圧で弾かれ、そのまま胸の中心で受け止めてしまうこととなった。ちょうどその胸のゴーレム核が光っていたのか、思った以上のダメージ量が入った上にスタン状態になる。どうやらある程度のダメージ量が入ると一定時間動かない状態になるようだ。オマケにすべてのゴーレム核が光っている。


「今だ! みんなゴーレム核を狙え!」


 俺の声に続いて、ミュアは『エンチャント』を用いて風属性を纏ったアーツを放ち、またゼファーも共に『精霊術』を使用し攻撃を繰り返す。


 流石にユキの方はエンチャントに使うアイテム素材が枯渇してきたのか、通常矢でアーツを使用している。また、ミュアと違って矢も無尽蔵にあるわけではないので、その矢が枯渇しないように行動しなくてはならない。


 狙撃士も矢を生成するスキル自体は覚えるらしいのだが、どうやらもう少しジョブレベルが上がらないと習得しないらしい。まだハルもユキもジョブレベルはこのダンジョン攻略で上がりはしたが、それでもまだレベル12なので致し方ないだろう。


 ハルは一旦グレイから降りて俺たちの攻撃が当たらない方のゴーレム核に向かって格闘術アーツを連続で使用する。


「おりゃおりゃおりゃおりゃぁ〜!」


 【格闘術】には独自の特性として、格闘ゲームのように複数の格闘術アーツを連続で繋げることで、ダメージ増加と行動ゲージ回復の効果があるコンボ補正を得ることが可能となる。


 コンボが繋がる分、次のアーツのダメージが上がり、また行動ゲージがランダム量回復する。アーツによって消費する行動ゲージはまちまちなので、使用するアーツをよく考えて選択しなければすぐに行動ゲージ切れになってしまい、コンボが繋がらないどころか行動不能状態になってしまう。


 その点ハルは格闘ゲーマーとしての実力からか、適切な消費量のアーツを選択しているようで、どんどんコンボが繋がっていく。もはやヒット数がよく分からない数値になっている。ダメージ量も気付けば、俺たちが属性攻撃で与えるダメージ量よりも多くなっている。コンボ補正、恐るべしだ。


 そんな殴り放題時間も終わりを迎え、スタン状態から回復したアシュラゴーレムだが、さっきまでとは攻撃行動が変化したようで、3方向の全ての顔からレーザーを照射するようになった。


 かなり遠距離まで届くようで、弓を放っていたミュアの方にまでレーザーが放たれる。その上、腕が外れて遠隔操作されるようになり、片腕は中距離、もう片腕は近距離の敵を狙って、上から拳を叩きつける攻撃を繰り出すようになった。


 幸いにもシグねぇが詠唱している場所はレーザーの射程圏外だったようだが、俺たちは少なくとも一定箇所に留まって攻撃することはできなくなってしまった。留まっていると、レーザーで狙い撃ちにされてしまう。


 その上、近づいて攻撃しようとすると遠隔操作の拳が降り注いでくるため、おいそれと近づくことができない。


「――『天嵐の息吹』! くそっ、防がれた! 」


 オマケに精霊術を発動したらゴーレム核を庇って、拳がその攻撃を受けるようになってしまった。


 こういう遠隔操作系の部位は耐久値がありそうではあるが、少なくとも一撃で壊れる様子はなさそうだ。


「……あぁもう! 何で走らなきゃいけないの! 走るの苦手なのに!」


 避け続けなければならないとなったとき、一番苦労するのは取り回しづらい弩弓を装備したユキであった。流石にこの状況では弩弓を装備したままでは移動できないと判断したのか、サブ武器である短剣『レンジャーナイフ改』に持ち替えて移動している。


 普段物静かなユキにしては珍しく声を荒げている。そんなに動くの苦手なのかお前……。


「……駄目ですね、動きながらだと【正射必中】の効果が出ないのでダメージが与えられないです」

「仕方ないさ、取り敢えず牽制してハルとグレイが近づけるようにしよう!」

「はい!」


 ミュアも時折弓を構えて攻撃するが、移動しながらだと正しい構えではないため【正射必中】の効果が発動せず、中々ヒットしないし威力もそこまでだ。とにかく今は牽制するしかない。


 俺とゼファーの精霊術であの拳が壊せればそれが最高なのだが……。


 肝心のハルだが、行動変化が発生した際もそれに気付かずコンボを続けていたが、流石にヤバいと判断したグレイに拾われて何とか離脱していた。あと少し遅かったらレーザーで焼き尽くされていただろう。楽しくなってコンボを続けてしまっていたのだろうが、もう少し周りを見たほうがいいな。


「ハルはグレイから降りて行動! グレイはレーザーを避けつつ、拳を引き付けろ! ついでに『モンスターエンハンス・バイタリティ』だ!」


 グレイにVIT値を引き上げるモンスターエンハンスをかける。もしもうっかり拳に当たっても耐えられる……といいなと思ってかけたが、正直当たった際のダメージ量は想像でしかないため焼け石に水状態だったかもしれないが、ないよりはマシだろう。


 ハルはグレイの背中が名残惜しかったのかあまり降りようとしなかったが、グレイが加速して飛び跳ねたのでそのまま振り落とされていた。


「あっぶな! ちょっと、落とすなら落とすって言ってよ〜!」

「おい、レーザー来てるぞハル! 避けろ!!」


 振り落とされて怒っていたハルに向かってレーザーが放たれる。流石に避けなければ大ダメージは間違いないだろう。しかし、ハルはその場から動かない。


「ふむ。いっちょ、試しにやってみますかぁ! 『仙蓮壁』!」


 ハルは両の拳を腰に当てて待機状態を取る。そしてそのスキルを宣言すると、ハルの目の前に蓮の花を模したような光の壁が出現する。


 その蓮の花はレーザーに当たると少しずつ削れていくが、それでも穴が空くことはない。その間にハルは別の場所に駆け出していた。ミュアに牽制を任せて俺とゼファーは駆け出したハルの方へと向かう。


「おい、ハル! 大丈夫か?」

「んー、大丈夫、大丈夫! いやー、ちょうど【仙術】のアビレベが6に上がってて良かったわー。しかし、防御系のスキルってシグねぇ以外だとあたししか持ってないんだなー」


 どうやらさっきのが仙術スキルの一つだったようで、本来は自身のMIN値に応じてダメージを軽減するという効果らしいのだが、仙闘士のジョブ特性の一つに、【仙術】のスキル使用時のステータス参照は全てSTR値を参照して行うという効果があるため、MIN値ではなくSTR値に応じてダメージを軽減するという効果となっている。


 何とまぁ脳筋仕様な特性だが、結果としてSTR値が高ければそれだけで色々事足りてしまうため、単純に強力な効果となっている。


「さて、ユーニィ。こっからどうするのさ?」

「ハルには取り敢えずグレイが引き付けてない方のゴーレム核を狙って攻撃してほしい。俺とゼファーが最後の核を狙う」

「成程ね。ユキはどうするの?」

「……現状だと弩弓で攻撃するのは難しいだろうから、シグねぇの方に下がってもらおうか。詠唱が終わったら合図を上げてもらおう」

「りょーかい! じゃあユキに説明して、連れてってから向かうね!」

「あぁ、頼む」


 ハルは俺に向かってピシッと敬礼のポーズを取ると、逃げ回っているユキの方に向かって走り出す。取り敢えず、ユキのことはハルに任せれば大丈夫だろう。とにかく今は攻撃あるしかない。


 ミュアの方を見るとまだまだ行けそうだと、頷き返してくれた。こちらが拳を引き付けていれば、ミュアはレーザーだけ気にすればいいので、だいぶ余裕が出来るだろう。そうすれば【正射必中】の効果も出てくるはずだ。


 まだアシュラゴーレムのHPゲージは半分を切ったばかり。……これは、シグねぇの詠唱が終わるまでには決着がつきそうにないな。

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